魔法猫たちの誕生と、爆発する国力にゃ!
りなの覚醒を皮切りに、町中の猫たちの間でポツポツと『精霊の力』が目覚め始めた。
これまで「ただ可愛い存在」だった彼らが、突如として神秘の担い手へと変貌を遂げたのだ。キラは『魔眼』を駆動させ、町全体に広がる魔力回路の変動を逐一観測した。
(何だ、この出力は……!? まるで生物の器そのものが、限界を超えて書き換わっている……)
キラの研ぎ澄まされた感覚をもってしても、その現象を完全に把握するのは困難だった。生物の進化というものは、数万年かけて行われるはずのプロセスだ。それが今、この町で瞬時に、かつ爆発的に起こっている。前世の知識を持つキラですら、その「驚異的」とも呼ぶべき事態を前に、背中の毛が逆立つほどの戦慄と、止めどない興奮を覚えていた。
例えば、町の北側にある『学び舎』のボス猫だ。彼は激しい気合と共に【大気の温度をわずかに操る(火の微小魔法)】に目覚めた。以前なら凍えるような冬の夜、子猫たちが震えていた場所に、今はボスの周囲だけが春の陽気に包まれている。
また、川のいけすを管理する猫たちの変化も著しい。彼らは【水の微小魔法】を使い、澱みがちな水流を自在に導くことで、常に新鮮な水が循環する環境を作り出した。これにより、魚たちの酸素濃度は最適化され、驚くほどの速度で健康に育つようになったのだ。
人間が耕し、猫が魔法で育てる。
魔法猫たちがもたらす自然の恵みは、この町の国力を限界突破させていった。大豆(猫豆)は年中途切れることなく収穫され、トマトや小麦、様々な野菜が文字通り溢れかえるように実を結ぶ。
だが、その進化の渦中において、キラは一つの「特異点」を捉えていた。
りなの放つ魔力の波長が、他の魔法猫とは比べ物にならないほど清澄で、かつ巨大であること。彼女の『豊穣の魔法』は、単に植物を育てるだけでなく、大地そのものに「命の源」を刻み込んでいる。
(りな……お前、一体どこまで行くんだ……?)
キラは確信しつつあった。彼女の進化は、魔法猫の域を遥かに超え、いつか自分と同じ『精霊』の領域へ辿り着くのではないかと。
レオは、畑で元気に走り回る猫たちを眺めながら、思わず笑みをこぼした。
「ただ話せるだけじゃない……猫たちは、この国を本当の『楽園』にするために生まれてきてくれたんだ!」
人間たちの猫への感謝は、今や「神聖視」を越えて、魂の底からの「愛」へと変わっていた。キラは、自分の理解を超えて美しく進化していくこの町を見つめながら、かつて人間だった頃には決して感じ得なかった、熱い胸の高鳴りを感じていた。
冷徹な観察眼の裏で、キラは一匹の小さな猫として、この世界の神秘に心からの敬意と驚きを抱くのだった。




