猫による、猫のための『キャットタワー建築』 にゃ!
キラが次に力を借りたのは、出世街道を突き進む見習い騎士レオ、そして町の大工たちだった。人間たちの持つ高い技術力と、愛する家族の協力がなければ、この計画は絶対に成し遂げられない。
夜、キラはレオの部屋の床で、一人静かに悪戦枯闘していた。
大人の頭脳が弾き出したのは、寸分の狂いもない完璧な立体図面。だが、それを描くための今の肉体は、指先すら自由にならないちっちゃな子猫だ。キラは短い前足の肉球にべっとりと墨をつけると、床に広げた羊皮紙の上を、お腹をこすりつけるようにして必死に這い回った。
(くそっ、前足が短すぎて、直線を一本引くだけでも一苦労だにゃ……!)
小さな体全体を使ってなんとか「精緻な設計図」を書き上げたものの、気がつけばキラの白い体はあちこち墨で真っ黒に汚れてしまっていた。
そのとき、ずっと後ろで見守っていたりなが、トコトコと嬉しそうに駆け寄ってきた。
「みゃう! お兄ちゃん、私とお揃いですの! お揃いですのー!」
りなは全身が真っ黒で、手先だけが白い黒猫だ。墨で黒くなったキラの姿を見て、自分と同じになったと大喜びしたらしい。りなは嬉しさのあまりシッポをピーンとまっすぐに立てて、目を丸くしているキラの周りを、トコトコとご機嫌にくるくる、くるくると回り始めた。
(いや、これはただ汚れただけで、お揃いになったわけじゃ……)
大人の視点からすればツッコミを入れたくなるところだが、シッポをまっすぐ立てて無邪気に喜ぶ妹猫の可愛さに気圧され、キラは言葉の代わりに「ふにゃう……」と力なく鳴いて、されるがままになるしかなかった。
――翌朝。
目を覚ましたレオがベッドから起き上がった瞬間、待ちかねていたりながトコトコと足元へ駆け寄り、嬉しそうにレオを見上げて声を上げた。
「みゃう! みゃう、にゃー!」
(レオ、見てみて! お兄ちゃんと私、お揃いですの!)
レオの耳にはただの可愛い「にゃーにゃー」という鳴き声にしか聞こえないが、りなはシッポをピーンと立てて、真っ黒なキラと自分を交互に指差すようにしながら、一生懸命にレオへ訴えかけている。
その幼くも必死な愛らしさに、レオは思わず目尻を下げてクスッと笑った。
「おっ、どうした、りな。シロとお揃いになったのがそんなに嬉しいのか?」
だが、その視線の先――床に力尽きている墨まみれのシロと、その横に広げられた驚異的な図面を見た瞬間、レオは腰を抜かさんばかりに驚いた。
「これは……シロ、お前、顔を真っ黒にして一体何を描いて……って、猫たちの家を作れって言っているのか!?」
レオは床に這いつくばり、墨で描かれた図面を食い入るように見つめた。そこには、猫の動線から風通しまで完璧に計算された、恐ろしいほどに実用的な建築計画が並んでいる。
「これは……役に立つぞ!」
シロがここまで必死になって描いた図面、そして結晶化された猫たちの意思は今の町にとって神託も同然だ。何より、大切な家族がここまで必死に願うことなら、レオに断る理由など最初からない。
「猫の国の神々が、住まいを求めておられるぞ! 通常の建物を建てるのと同じように、総力を挙げて建築するんだ!」
レオの呼びかけに大工や若手騎士たちが一斉に動き出し、町中の至る所に、猫たちが最も快適に過ごせる【日当たり・通気性・温度管理】が計算され尽くした木造の美しいキャットタワーや、壁面キャットウォークが次々と建造されていった。
りなにゃん尊い…次の話はどうなるのか?




