『特製経口補水液』の開発と、新たな日常の始まり にゃ!
猫たちの住環境を改善するなかで、キラは一つの大きな課題に直面していた。飢えと渇きに苦しんでいた子猫たちの多くは、あまりに内臓が弱りすぎており、いきなり固形物を与えれば拒絶反応で命を落としかねない状態だったのだ。
「いきなり餌を詰め込んでも、彼らの弱った内臓では処理しきれないにゃ。ましてや、ただの水を飲ませても電解質が足りなければ、吸収されずにそのまま下痢となって出ていくだけだ」
キラは、まずは身体が水分と栄養をスムーズに受け入れられる状態に戻す必要があると判断した。
「まずは、吸収効率を極限まで高めた『特製経口補水液』からだ。これなら、消化器官に負担をかけずに、ダイレクトに細胞へ水分とミネラルを届けて脱水を解除できるにゃ」
キラは、ナトリウム、カリウム、カルシウムを精密に配合した処方箋を肉球でまとめ上げ、レオを通じて町のお抱え薬師たちへと託した。
「おいおい、こんな特殊な調合、見たこともないぞ……本当にこれで回復するのか?」
薬師たちは半信半疑のまま調合を繰り返し、実際に衰弱した猫たちへ慎重にその補水液を与えてみた。すると、今まで何を飲ませても戻してしまっていた子猫たちが、この液体だけは嘘のように身体に吸収し、みるみる顔色を良くしていったのだ。
「な、なんだこれは……! 一瞬で体液が整っていく! なぜこれほどまでに吸収が速いのか、我々の知識では全く理解が及ばない……!」
この検証結果に薬師たちは震え上がり、こぞって『命を救う魔法の水』の量産に乗り出した。
脱水が改善し、身体が受け入れ体制を整えてから、キラの『栄養学(消化の良い大豆と魚のペースト)』へと繋げる――この緻密な段階的治療によって、猫たちは驚異的な速度で健康を取り戻していった。
計画がすべて軌道に乗ったある日の午後。
新設されたキャットタワーは、元気を取り戻した子猫たちの遊び場と化していた。キラは日当たりの良い場所で休もうとしていたが、空気を読まない子猫たちは、キラを巨大なクッションか何かだと思っているらしい。
「みゃう! お兄ちゃん、遊ぼう!」
りなが先頭に立ってキラの背中に飛び乗り、その後ろを他の子猫たちがドタバタと追いかける。
「あっちでかけっこですの! お兄ちゃんも一緒に!」
花の咲いたような明るさで、りなをはじめとする子猫たちはキラの周りを駆け回り、尻尾で顔を叩かれようが容赦なく背中に飛び乗ってこようが、お構いなしだ。
その純粋な無邪気さと、弾けるような明るさ。
(やれやれ……。全く落ち着きがないやつらだにゃ)
キラは呆れつつも、その花の咲いたような愛情のぬくもりが全身に染み渡るのを感じていた。
(……ふん。お前たちがそうやって笑っているなら、この町を世界で一番安全な『猫の楽園』にしてやるのも悪くないにゃ)
キラは髭を揺らし、りなたち子猫が落ち着きなく跳ね回る様子を眺めながら、穏やかな日差しの中で静かに目を閉じるのだった。




