聖域の「ひずみ」と、満員御礼の町にゃ!
『猫豆』と『人工いけす』の成功により、隣国からも「猫の国」と称えられるほどの大発展を遂げたこの町。人間と猫の共生は完璧に見え、キラ(シロ)とりなも、レオの部屋のふかふかクッションの上で、誰もが羨む幸せな日々を謳歌していた。
しかし、その圧倒的な「幸福」の噂が広がりすぎたことが、逆にある一難の引き金となる。
「総大将、大変です……! 隣の領地や、遥か遠くの山を越える村からも、噂を聞きつけた行き場のない野良猫たちが、毎日何十匹もこの町に流れ込んできています。もう、俺たちのシマの空き地じゃ収まりきらねえ……!」
ボス猫が悲鳴のような声を上げる。
町中に溢れかえる猫たちの気配に、キラの小さな耳がピクリと動く。その野生の本能は、急速な「猫口過密」による町全体の限界と、どこか不穏な空気のざわめきを敏感に察知していた。猫の待遇が良すぎるために、町全体のキャパシティが限界を迎えてしまったのだ。
(裏を返せば、それほど外の世界の風は冷たく、容赦のないものだったのだろう……)
冷たい外の世界から命からがら逃げてきた仲間たちの姿を思い浮かべ、キラは心の中で静かに、ほんの微かなため息をつく。
大人の知恵を持つ身としては、ここで一肌脱ぐしかない。……そう覚悟を決めたものの、今の自分はちっちゃな白い子猫だ。
キラはふかふかの肉球を小さく握りしめ、言葉の代わりに「にゃー」と可愛らしく一鳴きして、これからの大仕事に向けて小さく背伸びをするのだった。
町には猫が溢れかえり、いくら食料があっても、寝床となる路地裏の隙間すら奪い合いになるという、深刻な「住居問題」が発生しつつあった。




