寂しがり屋の見習い騎士(初めての人脈)にゃ!
ボス猫を相棒(配下)にしてから数日。キラが構築した【猫耳ネットワーク】は、路地裏から市場、さらには騎士団の駐屯地の外壁にまで広がりつつあった。
毎日、野良猫や鳥たちから街の情報が集まってくる。だが、キラには次なる明確な目的があった。
(猫の裏社会を握っても、結局は人間の手のひらの上だ。この異世界で安全に、かつ合法的に極上の飯を確保するには、人間との『つながり』という後ろ盾が不可欠だ)
キラはトコトコと、騎士団駐屯地の厨房裏へと足を運んだ。
お目当てのターゲットはすでにそこにいた。いつも厨房の裏口に腰掛け、ジャガイモの皮を剥きながら、寂しそうに鼻をすすっている少年――不器用な「見習い騎士」のレオだ。
情報によれば、彼は地方の農村から出てきたばかりで、厳しい訓練についていけず、同期からも孤立していつも故郷のペット(猫)を思い出して泣いているという。
(人間の心の隙――かつて我が子を育て、人の心の機微を見てきた俺にはよく解る。ここは知恵の絞りどころだ)
普通の下等な野良猫なら、ここで「にゃ〜ん」とあざとく鳴いてエサをねだるだろう。だが、キラの戦術は違った。大人の経験に基づき、あえて「徹底的な無言の肯定」を貫くのだ。
キラは物音も立てずにレオの足元へ近づくと、鳴き声一つあげず、ただ静かにその場に香箱座りをした。そして、広く全体をぼーっと眺める達人の目で、レオの顔を優しく、じっと見つめた。
「あ……。お前、いつの間にそこに……」
レオが気がつき、驚いて手を止める。キラは逃げない。ただ、彼の寂しさを受け止めるように、静かに目を細めてみせた。
「……お前も、一人ぼっちなのか?」
レオがポツリと呟き、ジャガイモを置いてキラをそっと抱き上げた。泥を落とし、『掛け算の栄養学』で少しずつ白さを取り戻しつつあるもふもふの体が、レオの腕に収まる。
「俺さ、今日も先輩に怒られてさ……。剣の才能がないのかなって、諦めそうになるんだ」
レオは、子猫が人間の言葉など理解していないと思い、胸の奥に溜まった弱音を次々と吐き出した。キラはそのすべてを、ただ静かに「ゴロゴロ……」という微かな振動(肯定のサイン)だけで聞き続けた。余計なアピールはいらない。ただ「ここにいて、お前の言葉をすべて受け止めている」という姿勢だけで、寂しい人間の心は自然と開かれていく。
「聞いてくれてありがとうな……。これ、俺の夜食のスープなんだけど、お前に半分やるよ」
レオが差し出してきたのは、騎士団の厨房で余った、上質な牛肉とハーブがたっぷり煮込まれた特製スープだった。
(よし……。狙い通りだ)
キラはスープを器用に口にする。前世の知識が瞬時に成分を分析する。
(ただの生ゴミとはワケが違う。高純度のタンパク質、およびアミノ酸。これに俺の『乗算栄養学』の知識を組み合わせ、毛並みの代謝を極限まで加速させる!)
スープを綺麗に平らげたキラは、満足そうにレオの指先をペロリと一度だけ舐め、そのまま彼の膝の上で丸くなった。
「あったかいな……。お前、明日もここにいてくれるか? 名前、何ていうんだ? ……そうだ、『シロ』って呼んでいいか?」
(好きに呼べ、少年。その代わり、俺はお前に最高の癒やしを、お前は俺に安全と極上の飯を供給する。――お互いに損のない、静かな契約成立だ)
見習い騎士の信頼を完全に勝ち取り、安全な拠点と最高級の栄養源を確保したキラ。
その体には、誰もが思わず二度見するような、美しく輝く「完全なるふわっふわ・もっふもふの白猫」の兆しが、確固たるものとして現れ始めていた。




