至高のもふもふは揺るがないにゃ!
「何だ、ただの野良猫か? ……いや、その異常なまでの純白。もしや精霊猫の幼体か! 素晴らしい、こいつも生贄の触媒にしてくれる!」
キラの存在に気づいた悪徳魔術師が、冷酷な笑みを浮かべて杖を掲げた。
魔術師の手から、大気を引き裂くような猛烈な火球が放たれる。
だが、完全覚醒したキラの【解明の魔眼】の前では、その攻撃は止まっているも同然だった。魔術師の重心の移動、魔力が集まるベクトル、すべてが明快な数式のように視覚化されている。
(火魔法か。……なら、その『原因』となる物理法則を直接コントロールするまでだ)
キラは肉球をすっと前に突き出した。
彼が操る【空気の密度・温度管理】の回路が駆動する。火球がキラに到達する直前、キラはその軌道上の大気を意図的に、爆発的に「膨張」させた(断熱膨張による瞬間的冷却と気圧差の生成)。
ドォンッ!!!
猛烈なカウンターの気流が、迫り来る火球をキラの数十センチ手前で完全に相殺し、左右へと綺麗に霧散させてしまった。
激しい爆風が地下の洞穴を吹き抜ける。しかし、煙の向こうから現れた白猫は――もふもふの毛並み一筋すら揺らすことなく、完璧な美しさでそこに佇んでいた。
「なっ……魔法を、大気だけで防いだと……!? バカな、ただの子猫が!」
驚愕に目を見開く魔術師。キラはさらに追撃として、魔術師の足元の空気を断熱圧縮し、バチバチと激しい物理の火花を発生させて威嚇した。腰を抜かして這いつくばる魔術師を、猫耳ネットワークのボス猫たちが一斉に襲いかかり、完全に無力化する。街を揺るがす陰謀は、一歩も触れることなく、スマートに解決された。
翌朝。
何も知らずに目を覚ましたレオは、ベッドの脇で丸くなっているキラを見て破顔した。
「おはよう、シロ。今日もいい天気だぞ!」
差し出された最高級のスープ。キラはトコトコと歩み寄り、前世の栄養学でさらに美味しく脳内補正されたそれを、ペロペロと上品に平らげた。
街の影の支配者としての冷徹な気配はどこへやら。
全てを裏から完璧に片付けた白猫は、至福の満足感に満たされ、お腹を見せて無防備にベッドの上をごろりと転がり、喉を鳴らすのだった。
(第一章:路地裏の飢餓と『掛け算の栄養学』編 ・ 完)




