魔獣ネズミの逆襲と、傲慢の代償かにゃ?
街の下にある洞穴での陰謀を影から片付け、見習い騎士レオの元で極上の飯を食べていたキラには、知らず知らずのうちに「驕り」が生じていた。前世の知識と精霊猫としての高い脳スペックがあれば、この世界のあらゆる事象など簡単にコントロールできると過信していたのだ。
その慢心が、最悪の形で牙を剥いた。
「アニキ! 大変だ、北通りの穀物倉庫に、今まで見たこともねえサイズの巨大な魔獣ネズミが居座りやがった! 俺たちの仲間じゃ歯が立たねえ!」
相棒のボス猫が血相を変えて飛び込んできた。キラはフッと髭を揺らし、不敵な笑みを浮かべた。
「にゃ〜お(気にするな。俺の物理法則を応用した実験台にしてやる)」
トコトコと軽い足取りで倉庫へ向かったキラ。だが、そこで待ち受けていたのは、以前遭遇した個体とは比較にならない、子豚ほどもある巨体に鋼鉄のような剛毛を纏った『装甲魔獣ネズミ』だった。
(フン、図体だけの木偶の坊め。足元の空気の摩擦をゼロにして――)
キラが肉球を向け、脳内で数式を組み立てようとした、その瞬間。
キィィィィィッ!!!
装甲ネズミが放ったのは、物理的な突撃ではなかった。大気をビリビリと震わせる、強烈な「超音波の精神攻撃」だった。
鼓膜を直接引き裂くような高周波の振動が、キラの鋭敏な猫の聴覚にダイレクトに突き刺さる。
「みゃ、あッ……!?」
脳内の演算回路が、強烈なノイズによって一瞬で強制シャットダウンを起こす。世界を俯瞰する【解明の魔眼】もブレ、焦点が結ばない。そこへ、ネズミの硬質な尾が鞭のようにしなり、キラの小さな白い体を容赦なく弾き飛ばした。
ドサササッ! と穀物の袋の山に叩きつけられ、粉塗れになりながら転がるキラ。
「フシャァァッ!」とボス猫が割り込み、必死に盾となってくれたおかげで命からがら倉庫を脱出できたものの、キラは再び、冷たい路地裏の隅で激しく衝撃に打ちのめされていた。
(クソッ……計算が甘すぎた。ここは異世界だ。前世の物理法則の想定を遥かに超える、初見殺しの生体スキルが存在する。俺は……ただの過信した、無力な子猫に過ぎなかったのか……)
白い毛並みを粉と泥で汚し、キラは己の傲慢さを深く恥じながら、激しいノイズのなかで再び蹲るしかなかった。




