表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/72

外伝37話:交渉の逆襲 -alJz'ma Jelmahemka-

'20.09/11 文章を修正。主だった変更はありません。

'20.09/16 表現を修正。主だった変更はありません。

外伝37話:交渉の逆襲 -alJz'ma Jelmahemka-


 * * *


 状況(じょうきょう)が、まったく読めない。

 執拗(しつよう)な戦略を繰り出すグラム教官の魔の手から、高貴なる護衛対象をお護りする。この試験は、そういう戦いだったはずだ。

 なのにそれがどう間違って、同じ護衛官であるイェルマヒムを脱落させるために戦わなければならないのだ。


「ここで、オレとキサマのどちらかの飾手拭(カツァフ)が落とされるまで戦う。そうすればいずれが勝ったにせよ、一班はこの先で三班に協力してやることを約束しよう」


 イェルマヒムの主張は、ひと言で言えばムチャクチャだった。


「待ってください! もしそんなことをしてエルマ君が脱落すれば、相当(そうとう)成績を落としますよ! それに仲間の護衛班に、エルマ君なしでゴールまで行けって言うんですか!」


「オレは心配していない。ここでキサマに負けるとは思っていないからだ」


「それはでしょうけど!」


 イェルマヒムは現在、総合成績が警護課でトップだが、それだけではない。13課に分かれる前の基礎訓練でも、訓練兵約340人中、ぶっちぎりの1位だったのだ。しかも、格闘術に関しては文句なしの「(アハル)」である。

 そんな生粋(きっすい)のエリートたる筋肉青年に、スフィルが一対一で勝てるわけがない。


「そもそも、そんな提案(ていあん)、ボクが乗るわけないですよね?」


「オレがキサマに勝ったら、オレが責任を持って、キサマの班まで護ってやる。オレが護るか、キサマが護るか――キサマの護衛対象が生き残る確率が高いのは、()たしてどちらだろうな」


「イヤですよ! 大体これは、ボクの卒業試験でもあるんですよ! しかも(あこが)れの《青獅子隊》が来てるのに、エルマ君に全部(たく)せるわけないじゃないですか!」


「なら、この決闘でキサマが勝てばいい話だ。そうすればオレの護衛対象は、キサマが護ることになる。二人もの護衛対象を護るとなれば、試験官からの評価は高いだろうな」


「二人の護衛対象って……ムチャ言わないでくださいよ!」


 護衛対象の人数が倍に増えるということは、単純に考えても、それにかかる労力(りょうりょく)も倍になるということだ。イェルマヒムなしで二人の護衛対象を護らなければならないとしたら、任務達成がますます遠くなる。

 決闘(けっとう)で勝ったにせよ負けたにせよ、スフィルにとっては良いことなしだ。

 頭は良いはずのイェルマヒムが、どうしてそんな、提案(ていあん)というより自分ひとりの願望にすぎない話をしてくるのかがわからない。


「なんだ。キサマから話を持ちかけたくせに、協力を(こば)むのか」


「ボクが(こば)んでるのは、協力ではなく決闘(けっとう)のほうですよ」


「まったく。この話、乗らない手はないと思うがな。せっかくオレが、キサマの班の、足手(あしで)まとい(きわ)まりない護衛対象を護ってやると言っているんだぞ」


「なんだと……?」


 今まで倉庫の影に(こし)を下ろしていたエズレが、立ち上がってイェルマヒムを見据(みす)えた。

 仏頂面(ぶっちょうづら)のまま彼を見下ろしながら、イェルマヒムは淡々(たんたん)と言った。


「キサマはエズレ・フェレルリークだろう。あの伝説の護衛官ハーナム教官のご子息(しそく)だとか」


「それが何だってんだよ」


「見たところ、スフィルがわざわざこんな奥まで引き返した原因はキサマだな」


「な……っ!」


 目を見開いたエズレがなにか言いかけたが、イェルマヒムは構わずつづけた。


「先ほどは三班を落ちこぼれ集団だと言ったが、あのバカ共は、たとえ落ちこぼれでも、卒業まで()ぎつけた護衛官であるだけマシだ。だがエズレ・フェレルリーク、キサマは違う。役立たずどころか、班の足手(あしで)まといだ」


 いつものように、子犬が()えたてるような威勢(いせい)のいい反論(はんろん)は来なかった。

 ふり返ったスフィルは絶句(ぜっく)した。

 エズレは黙ったままうつむいていたのだ。その(くちびる)は、ふるふると(ふる)えていた。

 ただごとではない雰囲気(ふんいき)だった。

 スフィルは(あわ)てて間に割って入った。


「ウチの班のことは、エルマ君には関係ないでしょう。それにエズレ君は護衛対象役なんですから、体力は関係ありません。エルマ君は本物の国王陛下や王子殿下にも、同じことを言うんですか!」


「まさか護衛対象役の後輩だから、体力がなくても許されるとでも思っているのか? ――(はじ)を知れ」


 イェルマヒムはスフィルの向こう側にいるエズレに対して言った。


「そんな軽い気持ちで護衛対象役に立候補(りっこうほ)したなら、二度とするな。本気で戦ってるオレたち受験者には、大迷惑(めいわく)だ」


「うるさいッ! 軽い気持ちとか、勝手に決めつけんじゃねえッ!」


 ついにエズレが声を上げた。

 だがそれに対して、イェルマヒムの待ってましたとばかりの猛攻撃(もうこうげき)がつづいた。


「違うとでも言うのか? (たい)した才能もないくせに、(たい)した努力もしない。そんな平凡(へいぼん)(おろ)かな男が、よく伝説の父親と同じ道を歩もうと思えるよな。親の威光(いこう)()りれば、実力がなくても護衛官になれるとでも思ってるのか」


「っざけんな!」


 突然、エズレがイェルマヒムに(なぐ)りかかった。


「エズレ君!」


 彼の攻撃がイェルマヒムに当たる直前、すんでのところで、スフィルが止めに間に入った。

 危なかった。

 彼がイェルマヒムに指一本でも()れていたら、倍返(ばいがえ)しでは()まなかった。下手(へた)にこの過剰(かじょう)戦力青年に攻撃などしようものなら、目には死を、歯にも死をだ。


「離せよチビ! あの筋肉野郎、ぶっ飛ばしてやる!」


 スフィルに押さえられながら、エズレはギャンギャンと()え立てた。


(くや)しいのはわかります。でも、これはおそらくエルマ君の作戦です。挑発(ちょうはつ)に乗って手を出したら、脱落(だつらく)させられますよ」


「作戦だと? フッ、こんな犬っコロ、わざわざオレが挑発(ちょうはつ)する価値(かち)もない」


 スフィルの言葉はうしろのイェルマヒムにも聞こえていたらしく、彼は心外(しんがい)だとばかりに首を振った。


「いいか、オレはただ、正々堂々とスフィルと勝負したいんだ。こんなザコのせいでスフィルが脱落(だつらく)したら、オレはまるで不戦勝(ふせんしょう)になってしまう。そんなのはオレの勝ち方じゃない。――そうだろう、スフィル」


 それが目的だったのか。

 スフィルはようやく、先ほどからのイェルマヒムの言動に合点(がてん)がいった。

 スフィルとの決闘(けっとう)に持ち込み、接近戦に弱いスフィルを先に脱落(だつらく)させておく。そうすれば彼の主席の座は安泰(あんたい)というわけだ。

 だからこそ先ほどから、口を開けば話が主席卒業のほうに流れ、スフィルがそれになびかないとわかると、今度はエズレを挑発(ちょうはつ)し始めた。

 護衛対象を侮辱(ぶじょく)して(きず)つければ、スフィルが(おこ)りだすと、彼はわかっているのだ。

 背後(はいご)に立つイェルマヒムに対して、背筋が(こお)るように感じる。


 ――相手を(おこ)らせ、その理性を(うば)う。


 まさに今、イェルマヒムは、そのスフィルの技を(もち)いて逆襲(ぎゃくしゅう)仕掛(しか)けているのだ。


(まさか、お父さん直伝(じきでん)交渉(こうしょう)術を見破(みやぶ)った上に、すぐに会得(えとく)して反撃(はんげき)までしてくるなんて……!)


 軽く目眩(めまい)がするほどの強者(つわもの)だ。

 イェルマヒムは、敵意を()き出しにしたエズレに、わざわざ近づいてきた。


「まったく、最強護衛官の一族が聞いて(あき)れる。教官も、さぞかしがっかりされただろうな。長男がこれほどに才能のない出来損(できそこ)ない息子だとは」


 突然、エズレがイェルマヒムの胸座(むなぐら)(つか)みかかった。

 (あわ)てて止めに入ろうとして、スフィルは言葉を失った。

 エズレの(ゆが)んだ顔からは、音もなく涙が流れていたのだ。人格の(おく)深くまで、(えぐ)られ傷つけられた人間の顔だった。


「うるさいッ! お前に何がわかる!」


「少なくとも、キサマが猛烈(もうれつ)にスフィルの足を引っ張っていることは理解できるが」


「黙れッ!」


「親の威光(いこう)()りているキサマに、そんな一丁前(いっちょうまえ)な口を(くち)く権利があるのか? 出来損(できそこ)ない息子のくせに」


「黙れ! 黙れ黙れ黙れッ!」


 エズレは周りのスフィルたちの存在を忘れているかのように、泣きながら取り乱していた。イェルマヒムの服を握りしめる(こぶし)は、(はた)からでもわかるほどに大きく(ふる)えていた。

 なにが原因かはわかる。

 ハーナム教官を引き合いに出したことが、これ以上にないほど彼を傷つけたのだ。

 イェルマヒムはそれを知りながら、彼の反応をすべて計算した上で、さらに鋭利(えいり)刃物(はもの)でトドメを()したのだ。


 ――出来損(できそこ)ない息子、と。


 いくら挑発(ちょうはつ)のためでも、言って良いことと悪いことがある。

 これ以上は、黙って見ていられない。

 スフィルは今にも(なぐ)りかかりそうなエズレの(こぶし)の上に手を置き、静かにイェルマヒムを見上げた。


「エルマ君、やめてください。これ以上ボクの護衛対象を傷つけないでください」


 これほどに人の傷を(えぐ)っておきながら、イェルマヒムは淡々(たんたん)としたものだった。


「断る。――と言ったら、どうする」


愚問(ぐもん)です。――ボクの主席卒業祝いの席で、あなたの頭蓋骨(ずがいこつ)葡萄酒(ワイン)を入れて、エズレ君と乾杯(かんぱい)してやりますよ!」


「ようやく本気になったか、()がライバル。やってみるがいい。できるものならな!」


「スフィル……」


 ふり向いたエズレの(ほお)は赤く、涙で()れていた。

 イェルマヒムはただの挑発(ちょうはつ)手段(しゅだん)のために、あんな悪口を言ったのかもしれない。

 だが、ただの手段だとは、何の言い訳にもならない。それによってエズレは、()()()傷つけられたのだ。

 それが何よりも許せない。護衛対象は――エズレは、道具じゃない。

 剣の(つか)に手をかける。

 だが。


 ――ダメだ。今ここで挑発(ちょうはつ)に乗るな。


 理性がそう警鐘(けいしょう)()らしている。

 ここで剣を抜けば、勝てる確率はゼロ。

 剣の(つか)(にぎ)(こぶし)(ふる)える。

 さすがはイェルマヒム、尋問(じんもん)術のプロフェッショナルなだけある。どうやら彼は、スフィルの弱点を正確に見抜(みぬ)いているらしい。

 だからこそ彼は、スフィルを挑発(ちょうはつ)するために、スフィル自身ではなく、その護衛対象を攻撃の(まと)としたのだ。

 自分の悪口には()えられても、護衛対象を傷つけられれば(だま)っていられない。そんなスフィルの(さが)を、彼は熟知(じゅくち)しているのだ。

 スフィルが剣に手をかけ沈黙している様子をちらりと見て、イェルマヒムが(かた)をすくめた。


「残念だがキサマの護衛班長(リーダー)は、オレに負けるのが(こわ)くて、護衛対象が(きず)つけられても声もあげられないらしい。――いや、それとも反論(はんろん)できないのは、オレが言ったことがすべて事実だからか」


「黙ってください」


 すべて事実。――少なくとも、エズレがそう認識(にんしき)していることはわかる。

 エズレはイェルマヒムの服が(しわ)になるほど固く(にぎ)りしめたまま、肩を(ふる)わせて嗚咽(おえつ)()らしていた。

 イェルマヒムが彼の弱点を、すべて正確に射抜(いぬ)いたことは間違いない。

 偉大な父親に比べて平凡(へいぼん)で、護衛官として不相応(ふそうおう)肥大化(ひだいか)した劣等感(れっとうかん)(かか)えている。

 だからこそあれほど、生傷(なまきず)(えぐ)られたように傷つき、(くや)しさに涙している。

 とくにそれを、(えら)い憲兵の息子として期待通りに育った優等生であるイェルマヒムに言われたのが、よけいにその(みじ)めさに拍車(はくしゃ)をかけたのだろう。

 イェルマヒムはそれもすべて計算の上で、彼を馬鹿にしたのだ。

 彼のことを思うと、決して、許せる行為(こうい)ではない。

 だが、ここでイェルマヒムの挑発(ちょうはつ)に乗るわけにはいかない。

 どうあがいてもスフィルには、剣技で彼に勝てるほどの実力はないのだ。

 一度乗ってしまったら、すべておしまいだ。

 剣の(つか)(にぎ)った(こぶし)が、わなわなと震えた。


「スフィル、下がってろ」


 その時、突然うしろから、低く落ち()いた声が聞こえた。

 間に割って入ったのは、ティガルだった。


「もういいだろエルマ。素直(すなお)に協力する気がねーなら、とっとと試験官から見える場所へ消えろよ。いつまでもこんなとこに(かく)れてたら、お前のパパが悲しむぜ?」


「――なんだと」


 途端(とたん)にイェルマヒムが目を光らせた。

 彼に対して親の話は、禁句中の禁句だ。言えば半殺しにされること間違いないので、先ほどの交渉(こうしょう)(ふだ)としても使わなかったほどだ。

 イェルマヒムは、エズレとは対象的に文句なしの優等生で、憲兵の親の期待通りに育っているはずだが、彼は親の話を、これでもかというほど(きら)うのだ。先ほどエズレを挑発(ちょうはつ)しようとしてすぐに親の話が出たのも、それを言われると腹が立つことを、自分がイヤというほど知っていたからなのだろう。

 イェルマヒムのただならぬ殺気(さっき)にもひるまず、ティガルはあざ笑うような顔でつづけた。


「お前さ、エズレのこと言えねーだろ。親の七光(ななひかり)はオマエのほうだって話。親のコネで配属決定してるクセに、どの口が『親の威光(いこう)』とか言うんだよ。笑っちまうぜ! しかもお前、新区(リクトフィオン)州とかいう田舎(いなか)部署のパパの元に帰るんだってな? いい年してパパと働くとか、オマエいくつだよ!」


 ひとりでゲラゲラと笑うティガルの周りの空気が、一気(いっき)に冷えきった。

 先ほどまでイェルマヒムに(なぐ)りかかろうとしていたエズレでさえ、こわばった顔でティガルを凝視(ぎょうし)している。

 そんな空気も()(かい)さず、ティガルは陽気(ようき)な声をあげた。


「おもしろかったよなぁ、このあいだの13課対抗試合。観客席のど真ん中にお前のパパとママが陣取(じんど)ってよ、(はた)なんかフリフリして、人目(ひとめ)もはばからず『私たちの可愛いエルマちゃーん』って。どーせ今日もお前のパパとママ、応援(おうえん)に来てんだろ? 今から観覧(かんらん)席を見上げて手を振り返して、過保護なパパとママを安心させてやれよ、なあエルマ()()()


 ついにイェルマヒムがティガルの胸倉(むなぐら)をつかみ、(こぶし)(ふり)り上げた。それに対してティガルは少しも(おく)する様子もなく、(たの)しげに目を(ほそ)めた。


「おっとぉ、なんだ、やる気かエルマちゃん。剣術の決闘(けっとう)なら望むところだぜ。力押し脳筋野郎のお前が、オレに剣で勝てるといいけどなあ」


 すぐにセツナが割って入った。


「エル、ここでティガルと一戦(まじ)えるのは得策(とくさく)とはいえません。今すぐに引きましょう」


「俺がこんな貴族のボンボンに負けるとでも言いたいのか、セツナ」


「今までの訓練から考えると、ティガルの剣術相手に勝率は約25パーセント。()けたほうが無難(ぶなん)です。それにあなたの主席卒業の脅威(きょうい)になりうるスフィルくんならともかく、ここでこんなボンボンを落としたところで、エルにはなんの価値(かち)にもなりません」


「だが、ここで引いては男が下がる」


「そうだぜエルマちゃん。ママを満足させるくらいの剣術を見せてみろよ」


 イェルマヒムが瞬時に細剣を構えた。


「ダメです、エル! 安易(あんい)挑発(ちょうはつ)に乗って主席卒業を(のが)す気ですか! それこそ、その(ぼっ)ちゃんの思うつぼですよ」


 しばらくティガルを(にら)んでいたイェルマヒムは、ひとつため息をつくと、細剣を腰の(さや)に戻した。


「……フン。命拾いしたな、貴族野郎」


 左手で(つか)んでいたティガルの短外套(ケープ)を離して捨てゼリフを吐いたのち、イェルマヒムはくるりと向きを変えた。


「行くぞ、お前たち」


 彼の言葉に、倉庫の壁(ぎわ)で休んでいた国王役のシオナが立ち上がった。


「ウソ……ティガルって、あの筋肉先輩に勝てるほど剣強かったんですか」


 唖然(あぜん)として見上げたエズレに、答えたのはノワンだった。


「こいつは天邪鬼(あまのじゃく)だからな。剣筋もひねくれてて、動きを読むのが難しいってだけだ」


「なんだよノワン、素直(すなお)に強いって言えよ」


 イェルマヒムを(あきら)めさせたティガルは、どうやらすこぶる機嫌(きげん)がいいらしく、現在気まずい関係になっていたはずのノワンの(かた)に、自慢(じまん)げに(うで)を乗せた。

 ノワンは突然のスキンシップにぎょっとしたのち、顔をそむけて口疾(くちど)につぶやいた。


「まあ……剣術に関しては、役に立たなくもないといったところか」


「だろだろー? オレの強さに皆ひれ()しやがれってんだ」


 上機嫌(じょうきげん)に笑うティガルを見やるセツナは、彼女には(めずら)しく、苛立(いらだ)ちを顔ににじませていた。


「やれやれ、ほんとに残念。貴族さんのおかげで、決闘脱落計画はご破産(はさん)ね」


 それだけ言うと、セツナは彼女の護衛対象にふり返った。


「行くよ、シオちゃん」


「は、はいっ」


 セツナの声に、国王役の後輩が急ぎ足でつづいた。

 彼女は疲労困憊(ひろうこんぱい)している様子だったが、健気(けなげ)にも、先輩たちの迷惑(めいわく)にならないよう必死に()えているようだった。

 イェルマヒムとセツナは、さっさとこの倉庫の裏を後にしようとしている。これからあの迷路の中を、敵をなぎ倒しながら進むつもりなのだろう。


「エルマ君」


 スフィルは彼らの()りゆくうしろ姿に問いかけた。


「そんなにボクと勝負したいなら、乗ってやりますよ」


「スフィル、お前……!」


 せっかくティガルが、決闘で脱落させられそうなところを守ってくれたのだ。

 だが、このまま何の成果(せいか)もなく、彼らを戻らせるわけにはいかない。


「ひとつだけ、方法があります。エルマ君とボクの、どちらが正しいかを証明する方法が。――エルマ君、ボクと勝負しませんか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ