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外伝32話:完全無欠な過剰戦力青年 -Jelmahem HjkWesanak-

'20.08/31 演出変更しました。

'20.09/16 若干演出変更しました。

外伝32話:完全無欠な過剰戦力青年 -Jelmahem HjkWesanak-


 * * *


「エ、エルマ君……?!」


 突然のイェルマヒムの登場に、一瞬言葉を失ったスフィルは、だがすぐに(われ)に返った。


「エルマ君、今思いきり『ゴキッ』て言いましたよね?」


「案ずるな。オレは無傷だ」


「でしょうとも! 敵役の人の心配をしてるんですよ!」


 気の毒にも、腕を()られた敵役の憲兵は現在、肩を押さえて悶絶(もんぜつ)しながら、芋虫(イモムシ)のように地面をうごめいている。


「これに()りたら、二度とオレの前に立ちふさがるなどと愚行(ぐこう)を犯さないことだろう」


「これじゃもう、したくてもできないと思いますよ」


「そのとおり。オレは来週、()れて憲兵学校警護課を、『主席で』卒業する予定だからな」


「違いますよ、この骨折じゃ当分(とうぶん)任務にあたれないってことです!」


「まさか異議(いぎ)を申し立てられるとは――面白い。主席卒業するのはお前だとでも言いたいのか?」


「ちょっとやりすぎだって言いたいんですよ」


 イェルマヒムはやれやれと首を振った。


「キサマのような生半可(なまはんか)な人間には、すべてをカンペキにこなすオレの(おこな)いは、常に『ちょっとやりすぎ』に思えるんだろうな。だが、半端(はんぱ)者のキサマと、完全無欠なる職務(まっと)うをモットーとするオレ――果たして主席で卒業できるのはどちらだろうな」


「なんで話がすべて主席卒業のほうに引っ張られていくんですか」


 この怪力(かいりき)青年がスフィルをライバル()してくるのは今日に限った話ではないが、いつもの彼は、ここまで話の通じない人間ではなかった気がする。


「決まってるだろ。今日の試験で、オレとキサマのどちらが主席で卒業するかが決まるんだぞ。そんな大事な日になぜ、キサマとソレ以外の話をしなければならない。今日もいいお天気で護衛()よりだとか、お庭にきれいな蝶々(ちょうちょ)が飛んでたとか、そんなくだらない話はしたければ、オレ以外としろ。ソコの貴族とかな」


「ダレが貴族だ! この脳筋野郎!」


(だれ)が脳筋だ」


 咄嗟(とっさ)に反応したティガルに、イェルマヒムは同じくらい素早(すばや)く反応した。

 力業(ちからわざ)による接近戦を得意とする彼を、「脳まで筋肉」と厭味(イヤミ)をこめて、ティガルは「脳筋」と呼んでいるのだ。もっともイェルマヒムは、実技だけでなく座学(ざがく)もトップレベルなので、「脳筋」という呼称(こしょう)妥当(だとう)かは(あや)しいところである。


「なに一方的にスフィルにライバル()してんだよ、エルマ。スフィルはお前なんか、(はな)から眼中(がんちゅう)にねーっての!」


「なんだと?」


 イェルマヒムの(するど)眼光(がんこう)が、上からこちらを(にら)んできた。思わず怖気(おじけ)づいてしまうほどの覇気(はき)である。


「そ、そんなことないですよ? エルマ君のことは、この上なく強いライバルだと思ってますよ、ボク!」


「そんな腹立たしいフォローは()らん! 大体、現在の総合成績トップはオレだぞ!」


「お、おっしゃるとおりです」


「しかもオレは、ここに来るまでに27人もの敵を撃破(げきは)している。班全員ではなく、オレひとりでだ。――スフィル、キサマはこれまでに何人を()った?」


一々(いちいち)数えてられませんよ、そんなの」


 (あき)れたスフィルに、イェルマヒムは説教する口調(くちょう)で言った。


「ヌルいぞキサマは! そんなヌルい意識で、警護課の主席候補(こうほ)を名乗ることが許されるか!」


「ひと言も名乗(なの)ったおぼえはありませんけどね」


「いいか、オレたち一班は今日、憲兵学校史上最高撃破(げきは)数を(たた)き出す。キサマにその邪魔(じゃま)はさせん」


「するつもりはないですよ」


 今日のイェルマヒムは(みょう)不機嫌(ふきげん)らしく、早々から敵意丸出(まるだ)しだ。

 スフィルはじっと、彼の凛々(りり)しい眉間(みけん)に深く(きざ)まれた(しわ)を、不思議(ふしぎ)に思いながら観察していた。

 イェルマヒムはそんなスフィルの視線に気づいたのか、「それにしても」と、スフィルたち三班の面々を見渡した。


「驚いたな。よりによってキサマらザコ三班が、ほかの二班や四班より長く生き残ることになるとは。今回の試験は、本当に番狂(ばんくる)わせばかりだ」


「おい、ちょっと待てよ!」


 イェルマヒムの言に、ティガルが()頓狂(とんきょう)な声をあげた。


「まさか、ほかの皆はもう、全員脱落したのか?」


「そうだ。つまり今生き残っているのは、今ここにいるオレたちだけだということだ。もはや――オレとキサマのどちらが主席で卒業するか。この試験にそれ以外の論点(ろんてん)は存在しないといえる」


「あの、ほかにも気になりませんでしたか。たとえば、例年とはケタ違いの難易度とか、敵数が異様(いよう)に多いこととか……」


 イェルマヒムは、よく話がわからないとでも言うように、凛々(りり)しい目を細めてみせた。


「それは――オレとキサマのどちらが主席卒業するかよりも、深刻(しんこく)な話か?」


「もちろんですよ!」


「まさかキサマは、自分の主席の座よりも、ワケのわからん公安の(おろ)か者共のほうが大事だとでも言うのか?」


「敵が公安って、気づいてたんですか」


「当然だろ。もっとも、ずっと逃げ回っていたらしいキサマには、まだこの試験における(こと)の重大さがわかっていないようだがな」


「それ、どういう意味ですか」


 彼ら一班は、スフィルたちがまだ知らない敵の情報を(つか)んでいるのかもしれない。


「オレが指摘(してき)しているのは、キサマの認識(にんしき)における単純な誤解(ごかい)だ」


 そう言うと、イェルマヒムは腕を組んでスフィルを見下ろした。


「キサマ、公安の連中と主席卒業、どっちが大切だと思っている」


「あ、やっぱり主席卒業の話でしたか」


「それ以外に何がある!」


 イェルマヒムは苛立(いらだ)たしげに反語(はんご)一喝(いっかつ)した。

 あれほど通常とは違う敵の数も動きも、どうやらこの怪力(かいりき)青年にとっては取るに足らない些末(さまつ)な情報らしい。


「キサマには意識が足りない! 言っておくが、この学校が開校してから約百年、オレとまともに肩を並べることができたのは、キサマだけなんだぞ、スフィル」


「エルマ君が在籍(ざいせき)してたのは、その百年のうちたった三年ですよ」


「キサマは数千年の人類史上初めて、このオレに認められたチビだということだ」


「正確には18年のエルマ君の人生史上ですよね」


「そうか、あくまで謙遜(けんそん)するというわけだな。さすがはオレが唯一(ゆいいつ)ライバルとして認めた男だ」


 どうやら今日のイェルマヒムは、とことん人の話が聞こえないらしい。

 仕方なくスフィルは、彼のうしろへと視線をやった。そこには副班長(サブリーダー)のセツナと、そのうしろに(かく)れるようにして赤い長外套(クローク)羽織(はお)った護衛対象がいる。(ひか)えめな印象の国王役の少女で、彼女はエズレと同輩(どうはい)の護衛官だ。

 一班の護衛官はあと二人いるはずだが、今この場にはいない。脱落したのでなければ、今ごろダカのいる倉庫の前あたりで、見張りについているのだろう。

 スフィルとしては、せっかく会ったからには、一班から試験に関する情報を聞き出したいのだが、これほどイェルマヒムに話が通じないとなれば、別の人間と話すしかない。

 スフィルは副班長(サブリーダー)のセツナに向きなおった。


「セツナさん、今回の試験の敵の異常さはご存知(ぞんじ)ですよね。どう思われますか」


 セツナは切れ長の目を(ほそ)めて考える姿勢を取ると、やがて()を上げたように肩をすくめてみせた。


「さあね。私、陸軍には(くわ)しくないの」


 セツナから当然のように「陸軍」の単語が出てきて、スフィルは目を(みは)った。

 代々護衛官の家系らしい彼女が、まさか陸軍に明るいとは考えられない。どうしてこれが陸軍らしい動きだと()きとめられたのか尋ねようとしたところで、セツナがいつもの冷静な分析口調(くちょう)(くず)さずつづけた。


「ウチの班が把握(はあく)してるのはせいぜい、二班は第四ステージ序盤の門付近(ふきん)で脱落、四班は第三ステージの長い廊下で(はさ)まれて脱落したってことくらいかな。もうずいぶん前だけどね」


「なんで知ってんだよ、そんなこと」


 驚きの声をあげたティガルのとなりで、彼女はなんてことないように告げた。


「来る途中(とちゅう)で、飾手拭(カツァフ)を取られて寝ころがる皆に会ったの」


 それほどに仲間の()った(あと)遭遇(そうぐう)するということは、どうやら一班は、安全な場所に(かく)れることなく迷路をさまよっていたらしい。

 彼らは全員イェルマヒムのスカウトでチームを組んでいるだけあって、護衛班(チーム)としての体力も(ケタ)違いのようだった。さすがは、実力が頭ひとつ飛びぬけた一班だ。


(ウソ)だろ、この体力バケモノどもめ」


「ですって。エル、()められましたね」


 セツナは(つか)れなどまったく感じていないようかのように、平然とイェルマヒムを見上げた。

 客観的に考えれば、彼らの底なしの体力は、護衛官として手放しの称賛(しょうさん)(あたい)するのだろう。

 だが。


(いや……おかしいだろ、絶対)


 三班の面々は、一周回って唖然(あぜん)とした顔を向けるしかなかった。

 同僚(どうりょう)たちのドン引きの目を、(うたが)いの目と誤解(ごかい)したらしく、イェルマヒムは得意げにつけ加えた。


証拠(しょうこ)の品もあるぞ、ほら」


 彼が大きな(カバン)から引っ張り出したのは、あふれんばかりの量の飾手拭(カツァフ)だった。


「うわ。お前今日、兵舎(へいしゃ)洗濯(せんたく)当番なのか?」


 あまりに大量に集められた飾手拭(カツァフ)皮肉(ひにく)って、ティガルがそんなことを言った。

 おそらく敵から(うば)い取ったものを、記念に持ってきているのだろう。あとであらためて撃破(げきは)数をかぞえるつもりなのかもしれない。

 それとなぜか、護衛対象役が目印として羽織(はお)長外套(クローク)まである。薄手(うすで)布地(ぬのじ)だが、(カバン)に入れて持って回るのは面倒に違いない。

 わざわざ持ってくる価値(かち)のあるものなのかと、スフィルがイェルマヒムを見上げれば、同じことを思ったらしいティガルが質問した。


「なんで護衛対象の赤いマントまで()ぎ取ってきてんだよ、お前」


「それは、オレが死ぬ間際(まぎわ)のあいつらと約束したからだ。必ずあいつらの(かたき)を取り、主席で卒業するとな」


 相変わらず、今日のイェルマヒムは、とことん主席卒業から離れる気はないらしい。

 さすがに奇妙(きみょう)だと思ったらしいティガルが、スフィルに小声でささやきかけた。


「おいスフィル、あの野郎、なんで今日こんなにうるせえ主席魔になってんの?」


 彼のことだから、(みょう)にスフィルと張り合おうとするのも何らかの意図(いと)があるのだろうが、現状では皆目(かいもく)見当もつかない。


「どうやらエルマ君は、ここ()()()間トップの座を(おびや)かされたことがないそうで。今日はボクにその座を(おびや)かされる()()()(らい)の危機だそうです」


「うわ。アイツ、ついに脳にまで筋肉が侵食(しんしょく)して、自分の年もまともに数えられなくなっちまったのか」


「聞こえてるぞ、貴族野郎」


 イェルマヒムがこれ見よがしに指をコキコキと鳴らし始めたので、ティガルはすぐに口をつぐんだ。


「ところで、エルマ君たちはどうしてここに?」


「キサマと同じ受験者だからだ。まさかこのオレが、早々に脱落(だつらく)しているとでも思ったか?」


「いえ、そうじゃなくて」


 まさかこんなゴールから遠い場所で、彼ら護衛一班と会うとは思ってもみなかったのだ。


「この先のステージって、エルマ君たちでさえも逃げなきゃいけないほど突破(とっぱ)困難だったんですか」


「逃げるだと?」


 イェルマヒムがぴくりと精悍(せいかん)(まゆ)を動かした。

 しまった、「逃げる」は禁句だった。勇猛果敢(ゆうもうかかん)な彼は、なによりも卑怯(ひきょう)臆病(おくびょう)(きら)う。

 スフィルは(あわ)てて言いなおした。


「いえ、その――戦略的撤退(てったい)


「なんと言おうと同じだ! すべての逃げと撤退(てったい)は、オレがこの手で粉砕(ふんさい)する!」


 彼が(にぎ)った(こぶし)の中で、何かがバキバキと音を立てて割れた。直後に彼が無造作(むぞうさ)に地面に投げ捨てたのは、ガラス製の眼鏡(メガネ)だった。


「いいんですか。今(いか)りで眼鏡(メガネ)割れたみたいですけど」


「問題ない。コイツのだ」


 イェルマヒムは地面に転がる敵役の男を、(あご)で指し示した。彼は(いま)だに痛々しいうめき声をあげている。


「うわぁ……かわいそうに」


 彼がやりすぎるのはいつものことだが、それでも、関係ない課の試験に()り出された挙句(あげく)に、腕と眼鏡(メガネ)まで折られてしまった公安の敵には、同情を禁じ()ない。

 常に完全無欠な職務(まっと)うをモットーとするらしいイェルマヒムだが、彼のこだわりに(はん)して、残念ながらこの学校に、格闘術で彼と肩を並べられるだけの実力者はいない。そのため彼の周辺は、常に過剰(かじょう)戦力となってしまっている。

 敵にいたらこの上なく厄介(やっかい)な存在だが、味方にいれば、彼ほどに心強い相手はいない。

 スフィルは覚悟を決めて、うしろの雑木林の日陰のあたりを指差した。


「エルマ君、ちょっとボクたち、こっちで作戦会議してきたいんですけど。待っててもらっても良いですか」


「ん? ああ、勝手にしろ」


 スフィルは三班の面々を手招(てまね)きすると、ぐるりと円をつくって座った。


「皆さん、さっきの第四ステージ突破の案なんですけど、こう言うつもりでした。――エルマ君の班と、協力しませんかって」


 先ほど「近くにほかの班が来ている」と言われて、スフィルはふと思いついたのだ。もしこの先で他班と接触(せっしょく)したとしたら、「二点突破(とっぱ)法」――二手(ふたて)に分かれて、片方を(おとり)にする戦法が使えるのだと。

 どうして一班の彼らが、こんな辺鄙(へんぴ)な場所まで引き返したのかはわからないが、それでも彼らとの接触は、千載一遇(せんざいいちぐう)好機(こうき)なのだ。


冗談(ジョーダン)よせよ! (だれ)があんな(くさ)れ脳筋野郎と()んでやるかってんだ!」


 ティガルの拒絶(きょぜつ)は、スフィルにはある程度予測がついていた。

 だからこそ、この案を言うことにはためらいがあった。ティガルは一班班長(リーダー)のイェルマヒムと、仲が悪いのだ。

 相棒をどう説得したものかと考えていると、横でエズレが(あき)れまじりにつぶやいた。


「ティガル、敵多すぎじゃないですか。ほかの班の人とも仲悪いなんて」


「るせーな。人間、相性(あいしょう)ってモンがあるんだよ」


 ティガルは、好き(きら)いが異様(いよう)に激しい。

 好きなものには一途(いちず)に好意を寄せるし、(きら)いなものはとことん排除(はいじょ)しようとする。

 食べ物も人との相性(あいしょう)も、彼ほど好き(きら)いがきっぱりと分かれた人間はそういない。


「でも護衛官として、任務にそういう私情をもちこむのってどうなんですか」


 ごく自然にエズレが言ったセリフに、一同は瞠目(どうもく)した。

 まさかあの体力のない自称エリート二世護衛官が、先輩にきわめて的を()た指摘をするなど、(だれ)も思ってもみなかったのだ。


「なんだよ。おれ今、なにか変なこと言ったか?」


「いえ、なにも変なこと言ってないから驚いたんです。――エズレ君なのに」


「はぁっ?! 失礼なッ! 王子権限で(しょ)すぞお前ら!」


 エズレは瞬時に一喝(いっかつ)したあと、コホンと咳払(せきばら)いすると、興奮(こうふん)した口調(くちょう)でつづけた。


「ティガルと仲が悪かったとしても、おれは協力に賛成だぜ。あんな強いやつらと協力すれば、万事(ばんじ)解決じゃないか! おれが(おそ)われずにゴールできる可能性も上がるってことだろ?」


「賛成とか反対とか、そういう次元の話じゃねえと思うんだがな。そもそも連中との協力は不可能だ」


 答えたのはノワンだった。

「なんで」とふり返ったエズレに、


「イェルマヒムには、スフィルに協力する動機(どうき)がねえからだ。あいつが目標とするのは主席卒業で、スフィルはそれを(おびや)かす存在でしかねえからな。たとえ協力して双方(そうほう)が任務成功しても、主席の座を(うば)われるくらいなら、協力せずに双方(そうほう)脱落して、相対的にスフィルより高い成績になることを選ぶに決まっている。あいつらが邪魔(じゃま)してくることはあれど、協力は望めねえだろうな」


「とにかく、エルマたちと協力だけは却下(きゃっか)だぜ。オレの私情云々(うんぬん)って話じゃねえ。エルマはスフィルを落とすことしか考えてねえし、セツナは班長のエルマを勝たせることしか考えてねえ。そういう意味で、あいつらは危険なんだよ」


 たしかに、ティガルの言うとおりである。

 彼らが協力するとは思えないし、たとえ協力を約束できたとしても、裏切らないとはもっと思えない。


「でもティガル、『信頼関係』ですよ」


 護衛で何よりも大切だと、常日(つねひ)ごろから教官に言われている言葉。


「すでに半分が脱落するほどの難しい試験で、任務達成できるとしたら、そのカギは、一見(いっけん)協力が難しい人との連携(れんけい)にあるんじゃないでしょうか。っていうか、そうとしか考えられません。だって今、訓練生同士の『信頼関係』が(ため)される、絶好の機会じゃないですか」


「信頼ってのはな、スフィル。双方の合意(ごうい)がなきゃ成り立たないだろ。こっちがいくら協力したくても、あいつらに取りつく島がないんじゃ意味がねえ」


「そうでしょうか。ボクはエルマ君なら、協力できたら間違いなくこちらが優勢になるって信頼してます。そしてエルマ君もたぶん、ボクのこと、ある意味では信頼してくれてますよ。ボクが彼の主席卒業の地位を(おびや)かすライバルだと――それもある意味、ボクの実力への『信頼』です。ボクたちの『信頼関係』は、使いようによっては武器になるかもしれません」


 スフィルの目に、その本気度を見て取ったティガルが、(かわ)いた笑みを浮べて手を広げた。


「ハハ、勘弁(カンベン)してくれよな。信頼以前に、オレはあの主席魔を信用できねーってのに」


「ボクは(おお)マジですよ。こんな状況(じょうきょう)でなによりも武器になるなのは、やっぱり協力なんですよ。勝算は少なくても、交渉する価値(かち)は充分にあると思います」


「信頼と協力、か」


 ティガルはちらりとノワンのほうを一瞥(いちべつ)した。


「たしかに、いつもどんなに仲が悪くても、同じ護衛官である以上、信頼は必要だよな。任務成功のためには、こんなときくらい、私情を捨てて協力するべきだ。オレは協力に賛成するぜ。――なあ、ノワン」


 ティガルはイェルマヒムについて言っているように見えて、その(じつ)は、先ほどから気まずいノワンへの停戦を申し込んでいた。

 ノワンはティガルの視線に気づいたのか、ちらりとティガルに視線をやると、何事(なにごと)もなかったかのように淡々と返した。


「俺はスフィルを信頼している。スフィル、お前にあの一班を協力させる勝算と覚悟があんなら、俺が反対する理由は何もねえ。お前の戦略に(したが)う」


 ノワンがティガルの停戦申し入れに気づいていないのか、それとも気づいた上で無視しているのかは、判別のしようがなかった。


(あいつやっぱ、オレと協力する気ねーのかな)


 無言でスフィルに目配(めくば)せするティガルの表情から、そんな懸念(けねん)が伝わってきた。

 その可能性がないとは言いきれないが、仲間との情報伝達に(うと)く、よく無自覚に人を(あお)ってしまうノワンのことだ。単純にティガルの視線の意味に気づいていない可能性のほうが、圧倒的に高い。


「では、満場一致ですね。皆さん、生き残った護衛班、『全員で』協力して、この試験を乗り切りましょう」


「了解」


 イェルマヒムに協力を望むことが、これ以上にないほど難しいのはわかっている。

 だが、任務成功のためには、無理だなどと言ってはいられない。でなければ、《青獅子隊》のサトリを相手にして、勝てる未来はない。

 スフィルは立ち上がると、協力の提案をするために、あらためてイェルマヒムと対峙(たいじ)した。


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