外伝31話:協力者か敵対者(後編) -elZemwan nur elZektar-
'20.08/31 演出変更後、長くなったので分割しました。
'20.09/01 また演出変更しました。すいません。
'20.09/15 性懲りもなくまた演出変更しました。
外伝31話:協力者か敵対者(後編) -elZemwan nur elZektar-
* * *
「スゲーじゃん! さすがはオレの相棒だぜ! この作戦でいけば、敵のウラをかいてゴールまで行けるなっ!」
ティガルはいつもよりも数段声のトーンを高くして言った。つとめてテンションを上げている様子だ。
つい先ほどのことで、後ろめたさを感じているからだろう。スフィルとの約束を破ってノワンに喧嘩腰になってしまったことだけではなく、ノワンがあれほどに態度を豹変させるほどのものを、知らずとはいえ侮辱してしまったことが、ティガルの気にかかっているようだ。
それゆえか、先ほどからティガルの意識は、ノワンに注がれているようだった。
スフィルはノワンが首の怪我を見られることを異様に嫌うことをよく知っているので、この突然の事態の収拾のつけ方に困っていた。
ノワンは終始、沈黙したままだ。
冷静さを失ったことを悔いているのか、それともティガルに弱点を見られたことを恥じているのかは、その鼻先までストールで覆われた、鉄壁の無表情からは読み取れない。
おそらくもう、これから喧嘩に発展することはないだろうが、その代わりに皆、表層では普通を装いながら、内心気まずい思いをする、この不快な空気に晒されている。
果たしてこんな調子で、この先任務遂行できるのかと思いやられるが、まずは目の前の作戦を展開するしかない。
スフィルは倉庫の壁を見つめる面々を見つめ、人差し指を立てた。
「まだひとつだけ、問題があります」
「この作戦、まだ何かあんのか?」
「第四ステージか」
ぼそりとつぶやいたのはノワンだった。
「ええ。そのとおりです」
「第四ステージって、さっき行ったトコだよな」
先ほど通り過ぎた「門」の直後の、想定では路地になっている道だ。
先ほどまでに訪れた第三ステージまでは、敵の位置と周回ルートをおぼえているが、その先の敵の位置は、未知の領域だ。
「第四ステージからは、兵法理論に則り、あくまでボクの『推測』で、敵の見張り位置を描いています。でも、この位置はアテにならないと思ったほうがいい。ここはもともと、合図があれば四分の一に集中させる箇所ですから、もともと見張りがどこにいるか、把握しようがないんです」
どのみち「門」からの合図があったら集まるよう命令されているのだから、それまでにどこかを見張る意味がない。ゆえに、第四ステージに潜伏する敵がどこを見張るか、あるいはどこを見廻るか、指示を受けているとは思えないのだ。
「なるほどな。そのどこにいるかわからない敵が、問題ってワケか」
「そうです。第四ステージの敵数は、良ければゼロ、悪ければ数十。ですから念のため、そこを通る際は、敵をどこか別の位置に引きつけてから進みたいんです」
ティガルはスフィルの言わんとする事を察したらしい。
「なーるほどな。つまり、見廻りの連中から軍笛を奪って、陸軍の信号で偽の合図を出すってことか。それで相手を引きつけて、がらんどうの中を進むってワケだな」
「ええ、まあ……平たく言えばそうです。それができれば、いいんですけど」
「無理だろうな」
ためらいがちに言ったスフィルに、ノワンが無遠慮に一刀両断した。
「言うのは簡単だが、リスクが高すぎる。瞬時に全員を倒し損ねれば、逆にヤツらのもつ笛で救援を呼ばれる。そうなったら元も子もねえぞ」
「でもよ、さっきだって、見張り五人を簡単に倒せただろ。スフィルが笛をもつ一匹をおびきよせてよ」
たしかに先ほど、スフィルたちは、公安のザイレムを筆頭とする五人の見張りを、囮作戦で壊滅させた実績がある。
「それはあくまで『見張り』だろ。『見廻り』は、常に歩いて警戒している。そんな連中を不意打ちで襲うのは、何十刻ものヒマな任務で気のたるんだ見張り連中を相手にするのとは、ワケが違うって話だ」
そう。スフィルの懸念も同じだ。
すなわち、奇襲に失敗すれば即敗北確定の、待ったなしの勝負にでなければならないのだ。
「じゃあほかに、どうしろっていうんだよ!」
苛立たしげに言ったティガルに、
「俺が知るかよ」
ノワンはフイと側方を向いた。
ティガルの頭にピキリと青筋が立ったが、それ以上ノワンに追撃することはなかった。
笛を奪う作戦は、リスクが高い。それは言ったティガルも承知しているのだろう。だからといってほかに代替案がないのは、ティガルも同じだった。
――ほかの選択肢。
一同はその場で沈黙した。
数秒間その様子を見たあと、スフィルはおもむろに口を開いた。
「ひとつだけ、考えている作戦があります」
先ほどから、たったひとつだけ、代替案と呼ぶべき案を考えている。
一応、存在はするのだ。
現実性は薄いが、もし条件がそろえば、最高の効果を発揮する作戦が。
スフィルが顔を上げ、全員を見わたした、その時だった。
見張りについていたダカが、血相を変えてこちらに走ってきた。
「まさか、また敵が――?」
「やはり来たか……」
ノワンがぼそりとつぶやいたのと、ほぼ同時だった。
倉庫の向こう側から、聞き慣れない男の声がした。
「今、音がしたぞ! この倉庫の裏だ!」
(しまった――)
誰かの足音を聞かれたらしい。敵は走ってこちらに駆けてくる。
(どうする――?)
迷っている時間はない。
すぐにでもこちらに来る敵に、迎撃しなければ。
先ほどまでのように、敵に対して準備しているひまはない。
策を講じる暇もなく、絨毯の裏に、三人の敵役の男が飛び出してきた。
ようやく殺害対象を見つけたよろこびからか、彼らはニヤリと笑みを浮かべている。
「いやぁ、探したぜ。こんなとこに逃げてたのか、護衛班」
「殿下、お下がりください」
スフィルはすぐにエズレを下がらせ、その前方でティガルとノワンが、細剣を抜いて立ちはだかった。
最悪な状況だが、こうなった以上はやるしかない。
彼らがじりじりと間合いを詰めてきた、その時だった。
「そいつら、人違いじゃないか?」
敵の背後で、声がした。
敵役の三人が慌ててふり返ると同時に、彼らのひとりが吹き飛ばされた。
「テメエは……っ!」
残りの敵が、試験用に布の巻かれた剣で殴りかかった。
だが次の瞬間、剣が相手に当たる前に、敵のひとりが顔面を拳で殴られ、その場に仰向けに倒れた。ティガルとノワンが助太刀に行くまでもなかった。
最後のひとりは、果敢にも闖入者に襲いかかり――
ゴキリと、嫌な音がした。
それと同時に、最後の敵役の男は、崩れ落ちるように地面に倒れた。
「うがあ……っ!」
あまりの痛みからか、彼は声にならない声で悶絶している。その彼は襟首を掴まれ、彼の飾手拭と共に、地面に投げ捨てるように抛られた。
敵が乱入したはずの倉庫裏の雑木林は、一瞬のうちに、元の静けさを取り戻した。
スフィルたちは、唖然としてその光景を見ていることしかできなかった。
「ったく、真の標的を間違えるとは、マヌケな連中だな」
三人を一瞬で倒した青年は、その場で手を払い、それからスフィルを一瞥した。
「よお、スフィル。これで貸しイチだぞ」
「エ、エルマ君……?!」
護衛官を示す青いスカーフを肩に掛けた、背の高い筋肉質の青年。
護衛一班の班長、イェルマヒムだった。




