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外伝24話:巨大迷路の護衛ゲーム(後編) -Jz'ma qax elMedmzje-

'20.01/29 大幅な演出およびプロット変更。

'20.08/30 表現修正。

'20.09/14 表現修正。

外伝24話:巨大迷路の護衛ゲーム(後編) -Jz'ma qax elMedmzje-


 * * *


「お前今、『カンペキに』って言ったよな」


 ティガルはなにか秘策(ひさく)を思いついたとでも言いたげに、スフィルを見下ろした。


「それが、なんですか」


「オレにはな、この迷路の見取り図を全部頭ん中にいれることもできねーし、しかも敵役の配置なんかチンプンカンプンなんだよ。だがどうやらお前には、あいつらの配置がわかるようだよな。しかも、『カンペキに』理論に(のっと)ってるってことまで。それって、ほぼカンペキに理論を理解できてないと()けないセリフだろ。それってスゲーことだよな」


「昔、陸軍の叔父(おじ)さんに兵法を叩き込まれただけです。そんなスゴイことじゃないですよ」


「問題なのはソコじゃねえ。カンペキってことは、敵指揮官の知識量は百パーセント。んでもって、それがわかるお前の知識量も同様に、ほぼ百パーセントってことだ。たとえ相手のほうが頭がいいとしても、ふたりとも百点満点だったとしたら、その差はまったく結果にあらわれない。つまり、お前は東方兵法って理論を利用して、ヤツの『カンペキ』な思考を読むことができるってワケだ。『カンペキ』であるがゆえに、お前はヤツの思考が手にとるようにわかる。そういうことだろ」


 ティガルの言に、ノワンが首を振りながら(さえぎ)った。


「おい、本気で言ってるのか? 随分(ずいぶん)と脳天気なことを言ってるが、考えてみろ。スフィルはヤツの思考を理解できるかもしれないが、だからといって裏をかくことができるとは限らない。ゲームだってそうだろ。対戦相手とまったく同じ思考ができるだけでは勝てない。勝つには相手の思考を呼んだ上で、その一枚上を進まなければならない。最大値ってのはつまり、一枚上が存在しないってことだ。――お前が言うほど、現実は甘くねえぞ」


「なら何だ? ここで(あきら)めろってのか? お前、さっきスフィルを信じるって言ったばっかじゃねーかよ。随分(ずいぶん)と気が変わるのが早えこったな」


「現実を甘く見るなと言ってるだけだ。どうやらお前の知能じゃ理解できなかったようだが」


「はぁ? お前――」


 言いかけたティガルは、一瞬だけちらりとスフィルに視線をやると、ピクピクと(ほお)(ふる)わせながら口角(こうかく)を上げた。


「なあ確認なんだがノワン、これは喧嘩(ケンカ)じゃねーよな?」


「ああ、見解の相違(そうい)というやつだな」


「お、オレたちチームのために、必死に案を出し合ってんだもんなー? そうだよなーノワン?」


「ああ、至極(しごく)まっとうな議論というやつだな」


「そうそう、その確認ができればいいんだよ、オレは!」


 (しず)かな倉庫裏の日陰に、気まずい空気が流れた。

 相変わらず、(あお)っている自覚のないノワンに、ティガルが我慢を()いられている様子だった。

 ふたりとも、間違ったことは言っていない。ノワンが述べたのは現実で、ティガルが示したのは、それを凌駕(りょうが)するための――現実を超えるための思考法だ。


「でも、ふたりの言うとおりだと思います」


 ぽつりとつぶやくと、ティガルとノワンが同時に顔を上げた。


「高度な兵法知識をもつ者同士の戦いでは、(たが)いにどこまでも裏をかきあうことが前提(ぜんてい)となります。『兵は詭道(きどう)なり』――裏をかいて相手を(だま)すことが、この兵法の基本概念(がいねん)なんです」


 スフィルが教わった陸軍の軍略は、ほとんどのケースにおいて、敵を(あざむ)き出し抜くことを、勝利の手段としている。考えてみれば、この理論に正攻法など、(はな)から存在しないのだ。


「ティガルの言うとおり、カンペキに基礎理論に忠実な敵の配置から、ボクはある程度、敵の位置を読むことができます。そしてノワン君の言うとおり、だからといって敵を迂回(うかい)して簡単に脱出できるほど、ヌルい配置じゃない。ですからボクらがこれから見つけるべきは、敵指揮官の『盲点』だと思うんです」


「お前より格上の相手なんだろ。そんなやつからそう簡単に盲点(もうてん)が見つかったら、苦労はしないだろ」


 皮肉(ひにく)めいた口調(くちょう)で横から声をかけてきたエズレに、スフィルは(うなず)いた。


「すくなくとも、すでにひとつ、ボクらの行動は、彼の想定を超えているんです。敵指揮官のあの人は、当然、全ルートを使ってボクたちを誘導しようとしていたハズですが、そんな彼でも、ボクらがゼロ地点まで引き返すことは想定していなかった。だからこそあそこでの遭遇(そうぐう)は、彼らにとってもハプニングだったんです」


 ティガルはニッと笑った。


「お前の行動がヤツの思考を()えうることが、とりあえずひとつ、証明されてるわけだ」


「ええ。だからこの先も、この任務を成功させるには、彼の思考を()えていくしかありません。――もう、(おび)えません。今からボクは、ボクの最大にして圧倒的なライバルを出し抜く作戦を考えます」


 真摯(しんし)な目で班員を見渡す。

 エズレは黙ったまま、視線をそらした。反論があればその場で何でも言う彼の沈黙は、そのまま肯定(こうてい)(とら)えていいだろう。

 ノワンは、無言でうなずいた。


「オレは最初から信じてるぜ」


 相棒ティガルは、スフィルの背中を無造作(むぞうさ)に叩いてから、(こぶし)()き出した。


「こうなったら、超えるしかねえ! 『いつか』じゃなくて今日! 打倒(だとう)《青獅子隊》だぜ、相棒!」


「はいっ!」


 相棒の(こぶし)に、スフィルの(こぶし)(かさ)ねる。

 遠くを見据(みす)えれば、雑木林の木々の向こうに、雲ひとつない青空が広がっていた。



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