外伝24話:巨大迷路の護衛ゲーム(後編) -Jz'ma qax elMedmzje-
'20.01/29 大幅な演出およびプロット変更。
'20.08/30 表現修正。
'20.09/14 表現修正。
外伝24話:巨大迷路の護衛ゲーム(後編) -Jz'ma qax elMedmzje-
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「お前今、『カンペキに』って言ったよな」
ティガルはなにか秘策を思いついたとでも言いたげに、スフィルを見下ろした。
「それが、なんですか」
「オレにはな、この迷路の見取り図を全部頭ん中にいれることもできねーし、しかも敵役の配置なんかチンプンカンプンなんだよ。だがどうやらお前には、あいつらの配置がわかるようだよな。しかも、『カンペキに』理論に則ってるってことまで。それって、ほぼカンペキに理論を理解できてないと吐けないセリフだろ。それってスゲーことだよな」
「昔、陸軍の叔父さんに兵法を叩き込まれただけです。そんなスゴイことじゃないですよ」
「問題なのはソコじゃねえ。カンペキってことは、敵指揮官の知識量は百パーセント。んでもって、それがわかるお前の知識量も同様に、ほぼ百パーセントってことだ。たとえ相手のほうが頭がいいとしても、ふたりとも百点満点だったとしたら、その差はまったく結果にあらわれない。つまり、お前は東方兵法って理論を利用して、ヤツの『カンペキ』な思考を読むことができるってワケだ。『カンペキ』であるがゆえに、お前はヤツの思考が手にとるようにわかる。そういうことだろ」
ティガルの言に、ノワンが首を振りながら遮った。
「おい、本気で言ってるのか? 随分と脳天気なことを言ってるが、考えてみろ。スフィルはヤツの思考を理解できるかもしれないが、だからといって裏をかくことができるとは限らない。ゲームだってそうだろ。対戦相手とまったく同じ思考ができるだけでは勝てない。勝つには相手の思考を呼んだ上で、その一枚上を進まなければならない。最大値ってのはつまり、一枚上が存在しないってことだ。――お前が言うほど、現実は甘くねえぞ」
「なら何だ? ここで諦めろってのか? お前、さっきスフィルを信じるって言ったばっかじゃねーかよ。随分と気が変わるのが早えこったな」
「現実を甘く見るなと言ってるだけだ。どうやらお前の知能じゃ理解できなかったようだが」
「はぁ? お前――」
言いかけたティガルは、一瞬だけちらりとスフィルに視線をやると、ピクピクと頬を震わせながら口角を上げた。
「なあ確認なんだがノワン、これは喧嘩じゃねーよな?」
「ああ、見解の相違というやつだな」
「お、オレたちチームのために、必死に案を出し合ってんだもんなー? そうだよなーノワン?」
「ああ、至極まっとうな議論というやつだな」
「そうそう、その確認ができればいいんだよ、オレは!」
静かな倉庫裏の日陰に、気まずい空気が流れた。
相変わらず、煽っている自覚のないノワンに、ティガルが我慢を強いられている様子だった。
ふたりとも、間違ったことは言っていない。ノワンが述べたのは現実で、ティガルが示したのは、それを凌駕するための――現実を超えるための思考法だ。
「でも、ふたりの言うとおりだと思います」
ぽつりとつぶやくと、ティガルとノワンが同時に顔を上げた。
「高度な兵法知識をもつ者同士の戦いでは、互いにどこまでも裏をかきあうことが前提となります。『兵は詭道なり』――裏をかいて相手を騙すことが、この兵法の基本概念なんです」
スフィルが教わった陸軍の軍略は、ほとんどのケースにおいて、敵を欺き出し抜くことを、勝利の手段としている。考えてみれば、この理論に正攻法など、端から存在しないのだ。
「ティガルの言うとおり、カンペキに基礎理論に忠実な敵の配置から、ボクはある程度、敵の位置を読むことができます。そしてノワン君の言うとおり、だからといって敵を迂回して簡単に脱出できるほど、ヌルい配置じゃない。ですからボクらがこれから見つけるべきは、敵指揮官の『盲点』だと思うんです」
「お前より格上の相手なんだろ。そんなやつからそう簡単に盲点が見つかったら、苦労はしないだろ」
皮肉めいた口調で横から声をかけてきたエズレに、スフィルは頷いた。
「すくなくとも、すでにひとつ、ボクらの行動は、彼の想定を超えているんです。敵指揮官のあの人は、当然、全ルートを使ってボクたちを誘導しようとしていたハズですが、そんな彼でも、ボクらがゼロ地点まで引き返すことは想定していなかった。だからこそあそこでの遭遇は、彼らにとってもハプニングだったんです」
ティガルはニッと笑った。
「お前の行動がヤツの思考を超えうることが、とりあえずひとつ、証明されてるわけだ」
「ええ。だからこの先も、この任務を成功させるには、彼の思考を超えていくしかありません。――もう、怯えません。今からボクは、ボクの最大にして圧倒的なライバルを出し抜く作戦を考えます」
真摯な目で班員を見渡す。
エズレは黙ったまま、視線をそらした。反論があればその場で何でも言う彼の沈黙は、そのまま肯定と捉えていいだろう。
ノワンは、無言でうなずいた。
「オレは最初から信じてるぜ」
相棒ティガルは、スフィルの背中を無造作に叩いてから、拳を突き出した。
「こうなったら、超えるしかねえ! 『いつか』じゃなくて今日! 打倒《青獅子隊》だぜ、相棒!」
「はいっ!」
相棒の拳に、スフィルの拳を重ねる。
遠くを見据えれば、雑木林の木々の向こうに、雲ひとつない青空が広がっていた。




