神様に見放された者達の聖戦
ゼーレン内部で城壁改修が始まった昼過ぎ。
ゼーレンの正面城門近くに帝国兵たちが列をなし始めていた。
帝国軍の大部隊の指揮権を一時的に付与されていたグレイブが指示を出しながら呟いた。
「まったく。途中でここの支部長が出てくるトラブルがあったがその後大きな追撃はないってことは、相手は籠城を決め込むことにしたってことだろうな……そりゃまあ、この軍勢相手じゃそうするわな。さて、ここに陣を張るぞ! 長期戦だ!」
「はっ!」
そういい帝国兵たちの一部が荷車を解こうとした瞬間だった。
ギィィ……
「グレイブ隊長! 城門が開きます!」
それを合図にするように帝国兵たちが槍を構えるとともにグレイブが城門へと歩み出た。
「何!? 正気か!?」
そこから現れたのは、男女2人ずつ。計4人だけ。そして再び城門が閉まる。
グレイブから見たその4人の構成は明らかに異常だった。
大剣を担いだ大男。王国や帝国でも徐々に使われるようになってきた魔力を動力源とする、いわゆる『魔力剣』と言われる部類の剣を携えた女剣士。ここまではいい。
露出度が高い、軍服だけを着た子供のような女と、明らかに前線に出るべきじゃない弓兵の男。この2人はいったい何をしに出てきたのか。皆目見当がつかないのである。
「4人……正気か……?」
一方、出てきた4人――ゼーレン防衛隊の4人の反応は非常に軽かった。今目の前に数千、いや、万はいるであろう状況下であるにも関わらずである。
「あ、あれあれ! エリアーナあそこの人だよ、あれが隊長さん!」
「帝国の軽鎧……少し材質がよさそうね。剣は合金剣ではなく、鋼ね……珍しい。」
「ええ~ 見るとこそこ? もっとほら、良いイケオジ、とか渋いとかないの?」
「戦力評価にならない。」
「エリアーナは相変わらずだなぁ……良いじゃん、戦う前にさ~ もっと品定めしてもさ~」
もはや煽っているのと変わらない、そのリディアの発言にグレイブは怒りをあらわにした。
「……ふざけてるのか?」
その怒気を含んだ発言にも全く動じることなく、トーマスは口を開いた。
「いや、リディアはいつもこうだ。今だけだよ。神に祈りを捧げて逃げることができるのは。」
「おいトーマス……あまり脅すな。」
さらに煽るようなトーマスの発言を聞いたカイはトーマスを手で制しながら、グレイブの方へと一歩歩み出た。
「あんたが隊長さんか? 俺たちはこのゼーレンを守る、特殊部隊、ゼーレン防衛隊だ。ここに陣なんて張られちゃ困るんでね。蹴散らしに来たわけだが……あんたは数日前の水、見たか?」
「あれか。降ってきた後に凍った。やっぱお前らの仕業か。」
その反応にエリアーナが淡々と答える。
「あれは私ね。あれは私一人でできる。今からやってあげることもできるけれど、それを実践されても貴方達も困るでしょう。何もできずに、壊滅することになるのだから。」
「どいつもこいつもナチュラルに煽るねぇ。公国の若いのは血気盛んなのか?」
「あははっ、エリアーナのこの言葉にまで煽られてるって思っちゃうの? うっわ、煽り耐性なさすぎ! エリアーナはそんな気一切ないと思うよ。ナチュラルで煽ってるのは生まれつきだと思うし!」
「黙りなさい、リディア。それで、帝国のこの今出てきている軍の隊長は、貴方ね?」
エリアーナの問いかけに舌打ちをしつつもグレイブが答える。
「ああそうだ。」
「今回はカイから話があるの。」
そういうと一歩進み出たカイをエリアーナがさらに押し出した。
「ほう? 話ってなんだ? 若い司令官さんよ。」
「違う違う。俺はそんな役割じゃねぇ―よ。どうしてそう思ったんだよ! 俺は、そうだな……」
「え? カイ? そうだね、カイは鉄壁の守護者で良くない? 堅いし。」
「リディア、お前、適当に言うな!」
「でもさ、カイは特に役職ないしさ。そっちの隊長さんは隊長さんだから隊長さんって呼べるけど、隊長さんがカイをどう呼べばいいのかわかんないのは可哀想じゃない?」
その紹介とも言えなくもない発言を聞いてさらにため息をつくグレイブ。しかし、すぐに気を取り直し顔をあげ、少し不敵に笑って見せた。
「ややこしいな、おい。だけどその通りだ。そこの嬢ちゃんの言う通り、鉄壁の守護者さんって呼ばせてもらうことにするわ。」
「そこの嬢……あのなぁ……リディアは俺と同い年なんだけどな……本当お前さ、子供っぽく見られるよな。」
「え、若く見えるっていい事じゃん。」
「お前らが仲いいのはもう十分に分かった! とにかく鉄壁の守護者さんは何のためにたった4人で出てきたのか説明してくれるんだよな?」
グレイブはそう言い、腕を組んだ。
「ああ。まあ簡単に言うとだな。お前さ、俺と一騎打ちして負けたら引いてくれ。全軍とは言わない。今ここにきている奴らだけでいい。」
「ほう? じゃあ俺が勝ったら?」
「お前が勝ったら明日の昼まではここは好きにしてもいいぞ。」
「は? 負けたら引くのに勝ったら1日だけは釣り合わないだろうが。」
「釣り合わない? そんなことはないよ。釣り合うことを今から証明しようか。」
そういうとトーマスは弓を引く。すると、光の矢が数本突如現れその場が騒然とする。
「今回は外してあげるよ。」
そういい、彼が弦から手を放すと光の矢が帝国兵の後ろの木の根元に刺さる。全て、別の木の根元に。そして、着弾した木はその光の矢が光ると同時に裂けるように全て倒れた。
「僕は10本まで同時にいけるんだけど。これを避けながら戦える自信はあるのかい?」
「ちなみにトーマス潰す気なら俺が全部阻止するからな。」
「ゲルド支部長がどういう戦い方をしたか覚えてる兵がいるのなら教えてあげる。支部長ほどではないけれど、私も似たようなことができるわ。やる?」
エリアーナが剣を構えると
「トーマスの矢や、エリアーナの剣に集中してたらいつの間にか首飛んでるかもよ? ほらほら、これね、鞭モードってのも作ってもらってるんだ~」
リディアがマジックポッドを変形させて鞭の形状に変形させた。
その4人の戦闘態勢に背筋を凍らせたのはグレイブだった。
(なんだこいつら……! 見たこともない武器を持ってる上に1人1人が放ってる殺気が常人じゃねぇ……! 戦いなんて息をするのと変わらないぐらいの雰囲気を、この歳で身に着けてるのか、公国は……!)
「それで、おじさんどうするの? 私さ~ おじさん達が進軍してくるときの話をさらっと聞いたんだよね。兵士さん、死なせたくないんでしょ? 本当はさぁ、私は帝国兵は皆殺しにしちゃいたいんだけどさ。この数でしょ? 流石に全員等しく痛くないように殺してあげるのは無理なわけ。だから~ カイの要求を飲んだ方がお得だと思うんだよね~」
そんな時だった。グレイブの腕を、近くにいた一般兵が引いたのは。
その一般兵は声も体も震わせながら、グレイブに伝えようと必死に声を絞り出した。
「た、隊長……あの女……」
「あ? どうした?」
「あの、リディアって呼ばれてる女……帝国国内で見たことあるかも……」
「何?」
「ほら、えっと。2か月ぐらい前……どっかの支部が閉鎖されたじゃないですか。その時に、酒場とかであんな感じの女が色んな男をひっかけてたような……」
その兵士の証言を聞きグレイブは帝国内で少佐クラス以上だけに伝えられたある機密情報を思い出した。
(おいおいおい……その支部の閉鎖の理由は確か、おそらくスパイが侵入して情報抜いた後、置き土産代わりに斬殺してったんじゃないかって結論が出てるやつだぞ……今の言い分と状況が一致しすぎてるだろうが……)
改めて4人の姿を見る。光の矢を番えた弓兵。大きく展開し辺りを消し炭にした支部長と同等のことができると豪語する女剣士。鮮血の処刑人と呼ばれているかもしれない子供女。そして、真っ向勝負を挑んできている大剣を担いだ男。
誰と戦うのが一番『マシ』か。グレイブはすぐに答えを出した。
(チッ、しょうがねぇ……)
「おい、鉄壁の守護者さんよ。今のあんたらのパフォーマンスを見てな、うちの兵はあんたらの奇想天外な戦術に及び腰なんだわ。士気を高める意味でも、隊長がしっかりしてるとこ見せるのは十分価値がある気がしてきたわ。受けてやるよ。」
「ああ……奇想天外って言われると、そうかもな。その点には同情するよ。俺がそっちの立場でもそう思うだろうしな……」
「え? 何で私の方を見るのかな~?」
「さてな? じゃあ、早速始めようぜ。」
そういってカイは一歩踏み出そうとした後に一度後ろを振り返った。
「あ、いけね。エリアーナ。わりぃ。これ外してくれ。俺、これ自分で外せないんだわ。」
「ああ。そうね。」
そういうとカイは自分の背負っていた大剣をエリアーナに渡す。エリアーナは渡された大剣の柄付近にある装置を手慣れた手つきで素早く外した。
「えー! ボンバーしちゃえばいいのに~」
「やり辛いっての! 乱戦だったら良いけどよ、一対一で使う武器じゃねぇ―の。」
(なんだあの筒は……鉄壁の守護者さんも妙な武器を持ってたってことか。それを取り外してるってことはまともにやってくれる気はあるのか。……この人数差で? 真面目か?)
「待たせたな! じゃ、やろうぜ! 言っとくがな、負ける気はないぜ?」
「それはこっちの台詞だ。ここに居るだけじゃない……3万の兵を任された以上、こんな一騎打ちで負けて引き下がるしかありませんでした、なんて言えねえんだよ!」




