神様! これ全部追加サプリ要素ですか!?
第一研究室の奥にある扉を開いて入る。するとちょっと薬品臭い匂いがうっすらとして、なんの匂いだろうと辺りを見回したらそこには2つの檻があった。
気が付いた時にはリディアさんはその片方に向かって声をかけた。……え? 檻に向かって?
「バルド~! 戻ってる? 戻ってるよね。支部長いたし!」
「ウン、モドッテル。リディア、ゲンキ。ヨカッタ。ソノコハ?」
檻から見えない死角からドシンドシンという音をたてながらやってきたのは……見上げる程の巨体で。ものすごっく大きくて、いわゆるお相撲さん? ……そんな人、ルルブで見たことないよ? と心の中で考えながら、バルドさんの顔を見上げた。私と目が合うとにこっと笑う。ちょっと不気味かなって思っちゃったのが申し訳なく思った。
「私がね、部下拾ってきたのを見つけて、飼ってるの。」
「リディア。ニンゲンカウノ、ヨクナイ。」
明らかにバルドさんは怒った顔をしてリディアさんを見た。まあ怒ってる、って言っても本当にお兄さんが妹を軽く怒るような感じの、なんだけど。
……リディアさん。あの。お兄ちゃんって呼んでる人に、怒られてるんですけど? 思わず苦笑してリディアさんの顔を見る。リディアさんは軽く手をひらつかせながら、笑っていた。本当、体調は良くなったみたいでよかった。っていうか、本当に気分で体調が変わっちゃうんだろうな、この人。物凄くご機嫌だもんね、あの大喧嘩の後から。
「冗談冗談! この時期にゼーレンの森に放り出されちゃった放浪民の子。保護したの。まあ私がじゃないけど。でもその部下にはご褒美あげたし、この子にもお家あげたし。怒らないでよ!」
「ソッカ。カッセル、トオザケタ、リユウ、イエ?」
「ああうん。ほら、カッセルってうるさいじゃん?」
……カッセルさんが人払いされた理由は、家。……想像してみた。うん。確かに……その話はとても面倒臭いことになりそう……そう思って、リディアさんの判断が正しかったことを理解した。
私の様子を見てバルドさんが優しく声をかけてくれた。
「キミ、オドロク、ムリナイ。オレ、デルキ、ナイ。ダイジョウブ。オレ、バルド。イエ、ヨカッタ。ゼーレン。ドウ?」
そう言いながら、檻から見えるところにある頑丈そうなベッドに腰を下ろした。私が見上げるのが大変そうだと思ってくれたのかもしれない。びっくりしたけど目が優しい。体が凄く大きくて、足で支えるのもつらそう。だから柔らかいベッドの上に座ったのかな? そんなことを考えながら、私もにこりと笑顔で挨拶をする。
「私はミコです。お家はちょっと封印の間があったぐらいで快適ですよ! バルドさん、よろしく……あれ? あの。よろしくって言っても私ここで何するんですか? ザメックさんがあまり無茶しないように見張る……ですよね?」
和やかな挨拶が取り交わされている中、私がふとした疑問を口にした時だった。リディアさんがアッと気がついたような顔をして口を挟んだ。
「ああうん。でも実はさ。」
気づいたようにバルドさんも理由を自分の口から話してくれた。
「オレ、ココカラデナイ。ミンナ、ミタラ、コワガル。ソレ、ダメ。ダカラ。ソレニ、ゴハン、ヨウイデキナイ。キッチン、ハイレナイ。アト、ショクゴ、クスリ、アル。」
「というわけなんだよ。」
なるほど……バルドさんの異形な姿は確かにみんなびっくりしちゃう。だからここからでないようにしてるってわけだね。さらにこの大きさだから普通のキッチンとかには入れないからご飯をここまで運んで、薬も準備して欲しいと……それを私がしっかりやるから、ザメックさんは集中してねっていうわけだ……
私が手を顎に当てて考えてる様子を見て、バルドさんがリディアさんに声をかけた。
「リディア、マダアル。ダヨネ?」
「ああ、うん。ディオンお兄ちゃんもと思ってるんだ。」
「リディア、デルノ?」
「その予定。お兄ちゃんが大暴れしてくれたみたいだしね。多分私が大暴れする必要は今回はないんじゃないかなーとは思ってるけどね。」
「ソウ。ヤクニタッタナラ、ヨカッタ。」
「もうあまり無茶しないでよ。ザメックおじさんが体戻せるようにって薬使ってるの知ってるんだからね。」
「ダイジョウブ。ソレヨリ、ディオン、ショウカイ。」
「ああ、うん。わかってるよ! またね、バルドおにいちゃん! ミコちゃん、大体理解した? 行くよ!」
「オニイチャン、ヤメル。クスグッタイ。」
リディアさんに手を引っ張られ強制的にバルドさんの檻から遠ざかりそうになったその時。何でバルドさんがみんなの前には出たくない、というだけでこんなところに入っているのかはわからないけど、薬とか戻すという単語が出るってことは……強化人間で、失敗したとか、そういう事なのかな? それだけ、どうしても気になった。だから聞くことにした。
「ああ! その! 1つだけ!」
「ナニ?」
「檻じゃなくてもいいですよね?」
「……ムカシ、ミンナ、オソッタ。コワイ。」
その一言で。強化人間として施術された時に、失敗したんだと、思った。
「その、ごめんなさい。」
「キニシナイ。キニナル、ワカル。マエ、オレ、モットコワイヤツ。デモ。」
「でも?」
「フクシュウ、ナニモナイ、シッタ。ダカラ、イマ、ゲルド、リディア、ミンナ、マモル。」
『守る』
リディアさんが固執してた単語が、バルドさんから聞くことになった。そういえばエリアーナさんもゲルドさんも、守ることには固執してる。もともとそういう気質がある所だとは思っていたけれど……リディアさんのあの性格が、ゼーレンに何かしら影響を与えている?
その予想はすぐにあっていることが証明された。
リディアさんに案内された先にはもう1つ檻があった。そしてその中にはバルドさんとは正反対にがりがりの男の人が様々なチューブに繋がれていた。特徴的だったのはそのチューブの1つが檻の外に伸びていて変わった機械に接続されていること。そしてその機械の台座には魔石が置かれていたことだ。
……どういうこと?
「ディオン! 元気?」
「ああ、リディア。君は相変わらず元気そうだね。その子は? ここに入らせてもらえてるってことは、知ってるんだよね?」
「軽くはね。全部は知らないよ。多分。」
「多分?」
「えっと。初めまして。ミコです。外が大変だから、お手伝いするためにきました。」
ディオンさんが首をかしげて不思議そうにしていたのでつい、自分から名乗ってお辞儀をしてしまった。
「ああ。そうなんだ。僕はディオン。ここで公国のための魔石づくりをしてるんだよ。正確には、魔石に魔力を込めてる、かな。」
あ、なるほど! この装置ってそういう事……うん? 待って。魔石は魔力が充填された状態で発掘されるのが基本じゃないの? ルルブにはそういう記載があったはずだけど? 魔石に魔力充填できるのも王国で魔力が溢れるポイントだけだから貴重……だったはずなんだけど?
「あ、なんか自分の知ってる常識と違うなって思ったね? 僕はそういう体なんだ。僕は食べたり飲んだりしたものを自分の生命力だけじゃなくて、魔力にも変換してる。そういう体なんだ。この体になってしまってから一時期はこうして喋れないぐらいだったけれど、最近はこうして本が読めるぐらいにはなったんだ。」
そう言って部屋の片隅に置いてある本を見せてくれる。……『この体になってしまってから』だから、この人も強化人間なんだ……ということは……リディアさんの使ってる魔石の魔力元ってディオンさん!?
「ディオンが作ってる魔石はね。一時期、王国で高ーく売れたんだよ。数年前に一旦途絶えちゃってからは、それをあてにしないように方針転換したけどね。今はディオンが充填してる魔石の魔力は大体、ゼーレンでしか使ってない感じ。」
……陽光果ってそういう意味もあるのか……魔石で得ていた収入がなくなったから次の収入として……
「それでね、ミコちゃん。ディオンの方は点滴の交換をお願いしたいんだ。とはいっても。ディオンの点滴の交換って、自動で交換された空のやつをこの場所からとって、次の点滴用のパックをこの場所に置くだけだから簡単だけどね。」
「これって?」
私がちょっと訝し気な顔をしたからだろう。ディオンさんが口を開いた。
「安心して。それは高栄養の点滴なんだ。生命力を魔力に変換する体なんだけど、その、かっこ悪いことにね。自分で細かい制御ができないんだ。最近の新しい薬のおかげである程度は抑制できるようになってきたし、昨日もそのおかげでゲルドに協力することができたけど、その点滴の栄養がないと僕は死ぬ。」
「ちょっとディオン! ダメじゃん! 何でそんな危ないことしたの!?」
「リディア。ゲルドが数が多すぎるという判断をして使うぞって言ってきたからね。ちょっとおまけしたんだ。多分、ゲルドも思ったより威力が出てびっくりしただろうね。」
自分が死ぬかもしれないのに、帝国を追い払うためなら迷わず手を貸して、ついでにゲルドさんを驚かせたことに対してくすくすと笑うディオンさん……この人ちょっと、悪戯好きっぽい笑い方をするなぁ……
そういえば、セシリアさんがゼーレンの強化人間は自分から、という話をしていたけれど……今の話を聞く限り、望まず、ってサイラスさんとリディアさんだけなんじゃ……しかもサイラスさんもリディアさんもなんだかんだ言いながら受け入れてはいる上、ザメックさんは戻す研究してる。
セシリアさんが言ってるような人を壊すような理由じゃない、ね。とりあえず。私はセシリアさんにそれまで知っていた内容だけで大丈夫と言ってしまったけれど、結果として事実っぽいのはよかったのかもしれない。きちんとありのままを話せれば多分、セシリアさんは納得するだろうと、そう思えた。
セシリアさんにきちんと伝えるためにも私はここでできるお仕事をしないとということで疑問に思っていたことを口にした。
「普段はバルドさんのご飯も、ディオンさんの点滴もザメックさんが1人で?」
「そうだよ。たまに私がバルドと一緒にご飯食べたり、ディオンと話しながら勝手に交換したりしてるけどね。」
「リディア。ザメックがたまに交換した覚えがないのに交換されてるって自分のことを疑ってるよ。交換した時は教えてあげて欲しいな。」
「あ~ おじさん、そろそろボケの心配し始めちゃってるか……それは悪いことしたね。」
リディアさんがここでもフリーダムしてる……なんというか、この都市全体。本当に隅から隅までリディアさんにとっては遊び場みたいな感覚のような……
「それでリディア。外の状況はどうなってるのかな。ゲルドが剣の出力を上げたいから借りるぞって言ってきたのはさっきの言った通り。その結果はどうなったのかな?」
「支部長はきちんと戻ってきたよ。ありがとね、ディオンお兄ちゃん。」
「……」
明らかに顔が赤くなるディオンさん。とっても嬉しそう。それを見て笑うリディアさん。ディオンさんの見た目の状況はまるで点滴を打たれてベッドから動けない重症患者を見舞いに来た妹状態なんだけど、幸せそう。多分、以前よりも改善してるんだろうなというのが分かる。リディアさんは、みんなが暗くならないようにって、みんなの妹役やってるみたいな感じなのかな……まあ、やりすぎなところあるけど。
「さてとまあ。お兄ちゃんたちは大丈夫そうでしょ? 少しの間頼むよ。ミコちゃん。」
「はい、わかりました。でもその前に。ディオンさん。」
「なんだい? ミコちゃん。」
「自分で望んだんですか?」
私にとっては重要な事だった。セシリアさんに事実を告げるかどうかの重要な質問。ディオンさんは笑いながら答えた。
「こうなるとは思ってはいなかったけれど、僕もバルドも元々ゼーレンのために戦える体じゃなかった。だからこの体になることは、望んだ事と相違ないよ。最初は、バルドはお嫁さんと娘さん、僕は両親の敵討ちしか考えていなかったけれど……今は必死に僕らを人に戻そうとしてくれてる、エリアーナやリディアのおかげで、目的は少し、違うね。今は、ゼーレンのみんなを守りたい、だね。」
「そうですか、ありがとうございます。」
ディオンさんに丁寧にお辞儀をする。その答えが聞きたかったんです。過去に過ちはあった。だけど。やり直すために今みんな頑張っていて……この先、この街で生きていくことになっても胸が張れるために。
そして私は顔をあげてリディアさんに尋ねた。
「それにしても……」
「うん? 何かな?」
「リディアさんってなんでも家族にしたがるなーって思って……私のペット扱いもそういうことですか?」
少し驚いたような顔をしていつものちょっと悪戯っぽい顔を見せる。もう無駄なんですからね。それ、図星言われた時に隠す顔ですよね。そしてきっとこういうんですよね。『さあ、どうだろね?』って。
「さあ、どうだろね? あ、そうそう。セシリアにはここのお手伝いしてることは伝えておくけど、セシリアはあくまで第三区画防衛の小隊長クラスだからここにはいる権限はないんだよね。カッセルさんにセシリアがミコちゃんの様子見にきたらミコちゃんを呼ぶように言っておくよ。セシリアにもカッセルさんにいうように言っとく。」
思った通りの言葉から始まって、私の知ってる優しいリディアさんの気遣い。だから私も自然にこの言葉が出た。
「ありがとうございます。リディアさん。気を付けてくださいね。」
「あははっ! 送り出される人増えちゃった! 嬉しいね! うん、気を付けていってくるよ!」




