神様! NPCが有能すぎます!
この人が、ゲルド支部長……
リディアさんとエリアーナさんに連れられてゼーレンの司令室に案内された私。最初、リディアさんとエリアーナさんが先に入っていった。その後、2人が出てきて司令室に緊張しながら足を踏み入れることになったのだけど……
そこにいたのは2mはありそうなとても大きな男の人……ゲルド支部長。夢で見た通りの巨体。そしてその隣には、片眼鏡が特徴のカッセルさん。
初めて私は自分自身の目で見ることになった2人の空気はとても重くて、そして怖かった。そんな私の不安を払うかのようにリディアさんがどんっと叩いてから彼女はゲルド支部長の方へと駆け寄っていった。
「なるほど。その子が報告で聞いていた、ゼーレンに突如現れたファルシア公国の伝承に伝わる巫女を名乗る、『ミコ』か。」
頭のてっぺんから足先まで一通りじっくりと見られて、やっぱり体がこわばってしまう。エリアーナさんが目でゲルド支部長を制した後、リディアさんに合図をするように視線を送る。
「でしょ~ 部下が拾ったの見つけて、私が実質回収したんだよ。偉いでしょ。褒めて褒めて!」
リディアさんがゲルド支部長にすり寄る。まるで猫みたいに可愛がってほしいと言わんばかりのその動きに少し違和感を覚えた。それと同時にリディアさんの夢の内容を思い出してしまう。思わず、心の中で苦笑する。これが『調整』を求める、リディアさんの姿……確かに、エリアーナさんから見たら、苦しいかもしれない……
ちらりとエリアーナさんを見上げると表情があまり変わっていない。次の瞬間に思い出したのは薬の存在。……さっきの目の合図は私のためではあるけれどそれは、ゲルド支部長の前で委縮しないようにという、戦略的な配慮だった、と理解してエリアーナさんの怖さも垣間見てしまった。そこまでしないと、この土地は守り切れなかったのか……と思うと……
そう考えている私の思いなど、今のエリアーナさんには理解できないのだろう。淡々とリディアさんに注意を呼び掛けた。
「リディア。真剣な話をしてる。今は控えなさい。」
「え~ でも事実だし~」
今の私は理解できてしまう。この2人が今どういう感情でどういうやり取りをしているのかが、細かに……神様。私自身は、これにどういう感情を抱けばいいんですか。本来ならこういうやり取りって苦笑しつつも笑って見守るのがいいんだろうけど……わかっちゃってると、正直辛いです。そう思いながら、笑顔を作った。笑顔を作るのがあまりに自然で……自分で自分が怖くなる。もしも、戻ったとして、私って普通の生活に戻れるのかなって。
「野良猫を拾ったようなノリで報告するには時期も重大性も桁違いだぞ。まったく、リディア。お前は変わらんな……」
カッセルさんがリディアさんに注意をする。あからさまに嫌そうな顔をするリディアさん。その顔はなんだろう……リディアさんの夢を見た後で見ると、仮面を外しての本当に嫌そうな感じを、上手く仮面で誤魔化そうとしているような……そんな印象すら受けた。それでわかった。リディアさんは本当にカッセルさんのことは嫌いなんだ。でも理解はしているから、あまり大事にしないようにしてる……大人の対応。
「カッセル。それがリディアのいい所でもある。それで。帝国軍が一時退却したかどうかの確認が最重要でこの報告の場を設けたと思っていたが……このような事とはな。問題がないことは確認しているのなら私にわざわざ報告する必要性はない。お前に実権はほぼ渡しているんだからな、エリアーナ。」
ゲルド支部長がそういうと、リディアさんはカッセルさんより自分の方を選んでもらえたととって嬉しそうな表情を見せた。カッセルさんは苦い顔。……な、なんだろう、この関係性。その、ゲルド支部長の右腕はどっちだ、みたいに競い合ってるようにも見えるんだけど……でも発言的にゲルド支部長の右腕ってエリアーナさんなのでは……? なんで2人とも見当違いな戦いを……?
そんな私の戸惑いなんてお構いなしにエリアーナさんはゲルド支部長に報告を続ける。エリアーナさんはエリアーナさんでこの2人の動きはきちんと見た方がいいのでは? でも薬効が強い間は無理なのかな? うーん……
「はい。ですが、昨日のこともありますので確証が得られた事項は報告しておくべきと判断いたしました。また、先ほど報告した案件に関して、彼女は非常に深く関与しております。彼女について報告は不可欠かと判断いたしました。」
私の心の中で色んな整理がついていく中、話はどんどん進んでいく。というか、エリアーナさんが進めていく。リディアさんとカッセルさんをこのまま放置は良くないだろ、とは思うものの、私の立場をゼーレンの中でどこに置くのか、って問題が解決に向かうのは正直ありがたい。私はあくまで情報提供者。それを受けて動くのはゼーレンの人達。
……あれ、でも、普通シナリオってPCが立ち回って状況を動かすよね……? これ、もしかして神様がPLを投げ込んじゃったからってエリアーナさんを使ったGMアシストによる謝罪のつもりだったりする?
そんなことも頭によぎりながらも話は「私」から「今のゼーレンの状況」へと進んでいく。
「ふむ、わかった。昨日のことがあり、私が出ている間にリディアの回収した情報の重大性が判明し、その対抗策を実行……報告もわかりやすかった。その上で聞こう。私は最後か?」
問い詰めるような言い方のわりに、ゲルド支部長の表情は柔らかい。エリアーナさんもそれに気づいてか、少しだけ頬を上げて答えた。
「はい。ゲルド支部長は万が一この作戦が失敗した際に、市街戦になった時の対応をお願いしたいと考えております。」
ふっ、と軽く笑ってから、ゲルド支部長は私の顔を見た。自然とぴんと背筋が伸びた。その様子を見てリディアさんがちょっと笑う。それを見たら少しだけ緊張は和らいだ。リディアさんが普段無邪気な振りをしているのは、もしかしたらゲルド支部長やエリアーナさんといった真面目な人達の威圧感を和らげるためなのかも……その隠れた優しさにまた少し、リディアさんのことが好きになった気がした。
「……ミコだったか。この娘にバルドとディオンの話は?」
「しておりませんが、作戦内容的に、説明の必要があるという判断をしております。どこまで説明するかはゲルド支部長のご判断にお任せいたします。」
「そうか。」
そういうとゲルド支部長は私の顔を真っすぐに見た。私はできるだけ恐怖を隠して見つめ返したが、彼は一瞬目を細めた後、ふっ、と笑った気がした。でもそのおかげで少し、気が緩んだかもしれない。その様子を見てからゲルド支部長は話を続けた。
「ならば話すべき内容は、ゼーレンを守るために私とともに人間を捨てた人間である……という所までで良いか。後は本人たちと話すといい。あとは……ミコ。ゼーレンの守護者であるエリアーナがお前がいても問題ないと言ったこと。これはこの街の中で最も強い盾を得たと考えていい。街の中のことは心配無用。外のことは我々に任せよ。」
そう言って少し不気味な笑顔を見せてくれるゲルド支部長。あの、すみません。こんな大きな方に、笑って大丈夫だと言われると、逆にちょっと怖さがあります!!
「あ、ありがとうございます……」
ちょっと緊張しすぎてしまった感はあった。申し訳ない……
「エリアーナ。リディア。お前達は外の脅威に備え、計画通りに動け。私が必要であればすぐに言え。カッセル。お前は……」
ゲルド支部長がエリアーナに指示を出しつつ、カッセルさんにだけは自分で指示を出そうとした。なるほど、カッセルさんだけはちょっと異質扱いなのかな……と思っていると、ゲルド支部長が意外な方向を向いて尋ねた。
「リディア。カッセルをどうしたい?」
「え?」
猫のようにゲルド支部長の体にすり寄っていたリディアさんを見下ろすように、カッセルさんをどうするのかを尋ねたのだ。それに一番疑問をぶつけたのは当然カッセルさんだった。
「支部長。何故、私の扱いをリディアに?」
「リディアが連れてきた娘だ。リディアが誰が世話係に向くかはわかっているはずだ。私としては動ける人材はお前しかいないという判断だが……お前が適任かどうかを聞いているだけだが何か問題でもあるのか?」
リディアさんはゲルド支部長の顔をじーっとみて、何かを察したのか体から離れて、顎に指をあてて考えるような仕草をしながら答えた。
「うーん……カッセルさんかぁ……ご飯とか警護だけで良くない? ミコちゃん、別に監視とかしなくても逃げたりなんかするわけないし、ザメックおじさんやバルドやディオンと仲良くも多分やれると思うからさ。」
その仕草を見てゲルド支部長はまるで父親が娘の可愛い意見を聞いたような表情を見せてから、真面目にカッセルさんに向いて茶化した。
「だそうだ、カッセル。ある意味では一番重要な任務だぞ。」
……え? ちょっと、待って? 今まで私はゲルドさんはリディアさんのことを道具か何かとして扱ってきた様子しか見てない……けど、今の行動って……
そこでようやくリディアさんがゲルド支部長に対してそれほど嫌悪感を持っていなかった理由を少し察することができた。夢は全てじゃない。私が知らない何かがあって、ゲルド支部長とリディアさんは本当の意味で和解をしてる……多分。
そんな考察の邪魔をするようにカッセルさんが呟く。
「確かに、今回の作戦内容ではザメックの警護は最も重要ですが。それをリディアに決められるのはいささか……」
「不満か。ならば、こう考えろ。リディアの判断が正しいとなれば、リディアに判断能力が戻っていることの証左となる。時間経過による施術効果の立証がまた一つ進む。」
「むぅ……かしこまりました。」
私はゲルド支部長の言い方に少しの引っ掛かりを感じた。施術効果の立証、と言いながら、なんだか重みを感じなかった。まるでカッセルさんを諭すために紡ぎ出した言葉のように感じたのだ。もちろん、それは私の感覚でしかなかったのだけれど。
それでもゲルド支部長とカッセルさん。この2人の関係や感情を間近で見て。ゼーレン防衛隊の力関係を知った私はリディアさんに連れられて司令室の外に出た。




