神様! 確定イベントが喧嘩仲裁なんですか!?
ゼーレン第四区画要塞内、作戦会議室の奥にある秘密の第二研究室の4つのベッド。
そのうち1つにはリディアがすやすやと眠り、その向かいにあるベッドにもたれかかるようにしてカイが眠っていた。
そして、そのカイがもたれかかっているベッドの上ではエリアーナが自分の手を握っては開いてを繰り返していた。
「……うん。効いてる。」
最後に確かめるように体を起こすと、その振動でカイが目を覚ました。
「う、うん? お、エリアーナ。起きたか。」
その様子を見て、エリアーナが彼の顔を見据えてはっきりとした口調、しかしリディアが起きないように控えめに挨拶をした。
「おはよう、カイ。早速で悪いんだけど、貴方は外に出ていてくれる? リディアと少し話すわ。できれば戦況の確認をしてほしい。今の私よりは貴方の方がまだうまくやれると思う。」
「久しぶりにばっちり目が覚めてるみたいだな。……大丈夫か?」
「ザメックのメモ。『今のエリアーナ殿の状況的に、目が覚めてから3時間がリミットですぞ! それまでにきちんといつものを打つようにするのですぞ!』だって。」
ザメックの区長を真似ながら、普段なら見せないような柔らかい笑顔で指に挟んだメモをひらひらと見せるエリアーナ。その様子を見てカイが少し不安げな表情を見せた。
「……本当に大丈夫かお前。」
「何よ。信用ないわね。」
いつもと違う、むすっとした不満げな顔ではなく、少し呆れたような表情を見せながらいうエリアーナにますますカイが不安げな表情を強めた。
「当たり前だろ。お前さ、何だかんだで熱あがると周りも時間も見えないだろ。3時間だな? 3時間後にはくるからな? それまでに打つんだぞ? いいな?」
「はいはい。」
「はいはい、じゃねぇーよ! ったく……リディアが起きないうちにいくけどよ。程々にしとけよ。喧嘩すんなよ?」
キィィ……
そう言ってカイが出て行ったのを見計らったかのように
「喧嘩にならないわけがないでしょ。馬鹿ね。」
とつぶやいてから、エリアーナはリディアのベッドの傍に立ち、リディアをじっと見つめていた。カイが扉をきちんと閉め切れていないことにも気づかずに。その視線に気が付いたのか、リディアが目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。
「あ……エリアーナ。目、覚めてたの? 早いね。」
「リディア。お互いに、こんな状態だなんて奇遇ね。」
「……」
リディアはエリアーナのその言葉の温度感から、すぐに違和感に気が付いた。
「珍しいわね。貴方が黙るなんて。でも、その方が私は助かるわ。」
「それはお互い様。久しぶりにエリアーナが素でおしゃべりだもん。」
「そうね、これがないとまともに私として話ができないなんて、やり辛くてたまらないわ。支部長には感謝しないとね。今日の調整の中に、感情抑制剤を一時的に中和する成分、入れておいてくれるなんてね。」
「……支部長の意地悪。」
そう言いながらリディアの視線はエリアーナではなく、ベッドの隅に隠すように置いてある空の瓶に向かっていた。
(ほんっと、久しぶりじゃん。このエリアーナ。嘘までついてガチじゃん。支部長はそんな瓶用意しないよ。ザメックおじさんでしょ。しかもエリアーナから声掛けてるでしょ。まったく、何にそんなにマジギレしてんの?)
「意地悪なのはどっち。リディア。私が気付いていないと思っていたの? 貴方の異常性に。……目を瞑れる限界なのよ。もう。お願いだから答えて。貴方は……精神的に崩れ切ってるわけじゃないでしょ?」
お願い、と言いつつ怒りの表情を浮かべるエリアーナの顔をリディアは見つめた。
「……」
(はぁ……普段は抑制剤で自我の方はぼんやりしてるはずじゃん……それでも限界だからって? ほんっとう、エリアーナはこういうの頑固。大人しく騙されてればいいのにさ。何で気づこうとするのかな? 自分が苦しいだけじゃん。スルーすればいいじゃん。)
心の中だけでため息をするつもりがつい、実際にため息をついてしまったリディアはそのまま悪びれることなく、ベッドに座り足をぶらぶらとさせた。
まともに話を聞こうとしないリディアに対して、エリアーナは睨めつけるように見ながら話を続ける。
「リディア。貴方、私を本当に騙しきれると思ってたの? 普段の私が、気づけないとでも思ってるの? 言ってあげましょうか? 1つ。貴方の戦術提案は貴方の気分に見せかけているけど中身があまりに合理的。」
はぁ、とさっきより大きなため息をつきながら両手をあげてわざとらしくリディアは答える。
「それ元々じゃん。知ってるでしょ。昔っからだよ。騎士見習い時代で私の現場判断でさ、エリアーナが勝てたことないじゃん。私はさ~ 昔っから天才なわけ。カイやトーマス、レオンもいたからさ、手加減してたけどさ~ エリアーナとガチの時だけは負けるの嫌だからきちんとやってたじゃん。忘れた?」
ふんっと鼻を鳴らすような仕草を見せてエリアーナはリディアに叩きつけるように言い放つ。
「そうかしら。危なっかしい貴方の案を完璧に仕立ててきたのは私だという自負はある。貴方の実力は知ってる。他に見られないように努力してる姿も知ってる。でも特に最近の貴方の提案は異常。まるで脚本が書かれているかのように貴方の負担が自然と大きくなる構図になることが多い……これはどういうことなのかしらね?」
(うっわ、目ざとい。だから最近やたら私に偵察出させないようにしてたね……まあ、勝手に行ってたんだけどさ。)
リディアはベッドから降りて、エリアーナの正面に立ち、ニタニタした表情でエリアーナを見上げるようにして答えた。
「はあ? 私は偵察やら要人暗殺ぐらいしかしてないじゃん。ゼーレンのみんなが強くなったから、相対的に私の役割が重要に見えるようになっちゃってるじゃない~?」
そのリディアの態度にエリアーナは強い怒りを見せてから、一度呼吸を整えて、続けた。
「ああそう。じゃあ2つ目。貴方が提案している武器の数々。マジックポッドというダミーに目を取られがちだけど、カイの対爆風装備や爆裂矢、ジェットブーツ。あれらは帝国の偵察をした貴方が、火薬という技術で遊びたい。そう言って提案してくれているわけだけど……どうして、こんなに実用的に仕上がってるのかしら?」
(うっわ、それも見抜いてるわけ? めんどくさっ! 上手くやったと思ったんだけどな……流石に、ここまで見抜かれるのはおかしいね。何か他に原因がありそうな気がするね……とりあえず誤魔化さないと。)
「それはザメックおじさんが上手くやったんでしょ。」
「ザメックは確かに上手くやっているわね。でも。ザメックが行き詰った時に貴方がアイデア出してたらしいじゃない? 知らないとでも思ってたの?」
「ザメックおじさん、余計なことを……ザメックおじさんにとってそうだっただけでしょ。」
流石のリディアもザメックが口を滑らせた事実を聞いて焦りの表情を見せた。エリアーナはすかさず追撃を仕掛けた。
「さらに言うならマジックポッド。貴方の玩具にこそなっているけれど、魔力を物理化する技術の小型化やら変形やら連結器としての応用技術……これらの実験体としてあまりに有用すぎる点はどう言い訳してくれるの?」
(嘘でしょ? 私の遊びってことにしてるやつまでそうとる? 実際その目的はあるんだけど、本当に遊びなんだけどな。だって、伸びたらもっと遊べるじゃん。待てよ……エリアーナの追及、もしかして私が考えて動ける状態になってることの確認? だとしたらその回答は不味い……というか、さっきまでの発言でも不味いのがいくつかあるね……チッ、エリアーナめ……)
エリアーナの意図を読み取り、イラつきが隠せなくなっていくリディア。
「私がそういう遊びをしたいっていうからザメックおじさんが頑張ってくれただけだって。」
そういいながら、表情はまったく笑えていない。それにすら気が付けていない。その変化を読み取ったエリアーナはトドメの一撃とばかりに自信ありげにはっきりと問い詰めた。
「ああそう。そこはザメックを仮面にするの。……じゃあ3つ目。ミコ。あの子はなかなか頭が回る子のようね。私の前だから大分固くはなっていたみたいだけど。街での様子を聞いたら意外と元気な子みたいじゃない。それこそ、昔の貴方みたいに。……だから使おうとでも思った?」
(……なるほど。きっかけは。それか……はあ。仮面にするつもりが、仮面を剥がれるきっかけになっちゃったか……ほんっと、軽微な調整でイラついてるタイミングで、やってくれるね……わざと?)
「……ああ、そっか。エリアーナ。そういうつもりか……なら、答えるよ。それは、少し違うね。確かにさ、似た所はあるなとは思った。結果、引き込んだのも確かだよ。だから、使ってあげてる体にしてあげた方が、いいじゃん?」
そういうとリディアはいつも作っている笑顔の仮面を、自分から投げ捨て、未子やセシリアに見せるような脅すような笑顔をエリアーナに対して作って見せた。
「ふぅん。そこは誤魔化さないの?」
それに屈せず、エリアーナはさらに彼女を煽ると、ついにリディアの仮面が剥がれ落ちた。
「……あのさ。エリアーナ。普段は言わないんだけどさ……っていうか、言ったらエリアーナが、苦しいじゃん。感情抑制剤は誰のためって考えなよ。エリアーナが、自分を、食われないようにするための処置じゃん! なんでそれを一時的に中和したのよ! ばっかじゃないの! 死ぬ気なの!」
普段は見せないような、エリアーナへの心配をのせた感情的な言葉。しかし、感情的になっていたエリアーナにその言葉は届かなかった。
「何。ようやく気が付いたの? 貴方にしては気づくのが遅いわね。」
売り言葉をぶつけられたリディアは、ついに怒りを見せ始めた。
「あのさ! 私がどういう状態かはわかってるよね!? 今、私はいらいらしてるの! 調整も中途半端。帝国兵も殺せない……! 殺したくて殺したくて仕方がないの所、必死に抑えてるのにさ、こんな話されて! 気づけって? はあ? 無理だって! バカ、本当に馬鹿! 何のために私が」
「バカなのは貴方でしょう、リディア! 私が隠されて嬉しいと思った? 誰のために私が、私としての人格が消えること覚悟してまでやってると思ったの!? トーマスやカイ、ゼーレンのためではあるけれど……貴方のためでもあるのよ! 私が、どれだけ貴方にしたことを後悔したと思ってるのよ!」
「後悔? そんなのする必要性がないね! 私は楽しいよ? エリアーナが新しく仕込んでくれた支部長からの調整も、殺しも。楽しくて楽しくて仕方がないよ? やれるんならやりたいね!」
「本気で貴方がそう思ってるなんて思うわけないって言ってるのよ、このバカ! だったら貴方さっき、ミコに関して『使ってあげてる体』なんていうの! そうして、あの子の感情を守りたいってことでしょ! 貴方は何も変わってない! バカみたいに『私が一番強いんだから守られてればいい』とか生意気言ってた頃から、全然!」
「……っ! うっるさいな! それはエリアーナのとらえ方じゃん! 人の感情勝手に決めないでよ! 本当、イラつくなぁ……!」
ヒートアップする2人の口喧嘩。
そこに、場違いな一言が放り込まれた。小さくか細い、少女の声。
「あ、あの~?」
そのたった一言は、口喧嘩の音量に消されることなく2人に届き、2人の視線はそこにーーその場にいた品日未子に集まった。
(不味いもの見ちゃった……なんだってこんなことに……!)




