神様! 神託設定は決めさせてください!
私の言葉を聞いてエリアーナさんが腕を組んで考え出す。そして私の顔を見据えて口を開いた。
「巫女。聞いたことがあるわ。まだファルシア公国が成立する前、山には神の声を聞き、人々を導いた職業についていた人間達が住んでいた。男なら御子、女なら巫女……書き方が違う、読み方は同じ。貴方の名前も、ミコ。これは偶然ではなかったという事ね。」
……はい? すみません。それは私も初耳です。しかもファルシア公国が成立する前、ということは……ま、まさか、この設定はファルシア公国紀の内容ですか……?
内心動揺を隠せないものの、表情に出してはいけない。それだけを胸に秘め、必死にこらえて私は言葉をつないだ。
「私の神託は人を導くためのもの……とまでは言い難いと思います。ただ、内容的に、ゼーレンを勝たせなさい。そう取れる内容だったのでちょっとカッコをつけて言いました。すみません。」
「いやいや! 情報源が神託ってのはちょっとわかんねぇんだけど、まあ、そういう力もあるのか? ってなるから言い訳としては悪くはないと思うぜ。」
「カイ。決めつけで話してる。それは良くないわ。実際の内容を聞くべきよ。」
「それはそうだけど、だけどよ、普通、『神託』です、なんて言われて信用するかよ。苦し紛れの言い訳ってとってやる方が親切だと思うぜ。俺は。」
「そうやって、不自然に誤魔化して最後に困るのは大体、本人。」
なるほど。カイさんは言い訳ととっていて、エリアーナさんは話をきちんと聞いてから決めようと思ったんだね。実際、『神託』だなんて言われてすんなり信じる人なんていない。順序よく話せば何とか理解できる話ぐらいでしかないから……これぐらいの温度感が、むしろちょうどいいかも。そう考えて、次に話すべきなのは『神託』の内容と判断して、戸惑いながらも誘導を入れた。
「あ、あの……? 神託の、内容は聞かないので……?」
「ああ、悪かったわね。カイ。話す気があるみたいよ。私達の口論が無意味。困ってる。」
「あ~ わりぃ。確かに最初から疑ったのは俺が悪かった。だけどさ、嘘なら嘘って今でも言っていいんだからな?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと前までだったら隠さないといけないと思ってましたけど、今なら。」
「今なら?」
かかった。
「はい。2つだったら偶然で終わらせられてしまいます。ですが、今のところ、神託は3つあるんですよ。」
「なるほど。それで、今の今までは隠してた……数の問題なら一応は……続けて。」
「はい。10万の兵を連れて帝国がゼーレンにやってくること、帝国は新しい兵器を持っていること、これは1つの神託の中で見たことなんです。」
「1つの神託の中で見たこと?」
「はい、私の神託は夢で、その立場になった夢を見るんです。最初に見た夢が、帝国兵の1人になって進軍して、武器を守ってる夢でした。」
私はここで嘘をついた。ここから先、私が話すことは全部夢の話になる。だけど、最初のこの情報だけは私がルルブ考察で導き出しただけのメタ情報だ。整合性が取れなくなる。だから、全部夢で見たことにしてしまう。私の能力は過去視、ないし未来視による神託。これなら辻褄が合う。問題はこれが通じるかどうか。ちらりと2人の表情を見る。
「なるほど……確かに、その夢の中でなら知っていてもおかしくはないわね。」
「夢、夢か……実際そういう能力ってあるのかな? ザメックに聞いてみようかな?」
エリアーナさんは無表情で整合性が取れているかを確認しているだけ。カイさんは実際にそういうことがあるのか、を考えている。私の緊張を、拾い上げている様子はない。いける。
「ですから、最初は帝国の情報通ってことにして、誤魔化してました。リディアさんにもそういうことにしています。」
「悪くねぇ判断だ。普通にそんなこと話されても信じるわけねぇもんな。」
「それで。2つ目は。」
「空飛ぶ魔道装甲鎧が、ゼーレンの兵士たちを城壁で切り刻む夢でした……」
カイさんの表情が緊張に染まる。一方、エリアーナさんは無表情を崩していない。
「そう。その中にトーマスはいた?」
「はい、いました。」
「……カイ。この子の夢を神託、と言っていいかはわからないけれど。能力自体は本物だと思うわ。」
「いや、3つ目を聞いてからだ。2つ目は……俺たちを知っていれば出鱈目でもあたる。」
「3つ目の神託は今朝見ました。クリスタに広がる白い影を稲妻が焼き払う夢です。」
カイがぽかんと口を開ける。それに対して、エリアーナは表情を変えずに手を顎に当てていた。
「事実は当ててる。逆に言うと。これを導く、というのは少し筋違い。ただ、今朝……貴方が来た時期や見た時期は、確かに何かを示唆している可能性は捨てきれない。貴方が自分を巫女だと言い張る根拠は十分ある。」
「ま、まあ、な……」
「……ところで。今朝、といったわね。セシリアの動きとそれは関係があるの?」
「セシリアさんに話したら、空飛ぶって所に共通点があるから、ゼーレンに空から一気に接近する何かがあるのかも、といって……」
「なるほど。だから崖上が見えるポイントへ。筋は通る。報告もできる。一刻の猶予もないのもわかる。……疑う余地はないわ。報告さえ、きちんとされるのであれば。」
無表情なうえ、淡々とした口調で抑揚ないエリアーナさんの言葉なのでどこまで信じてくれているのかわからないものの、言葉通りであるならばとりあえずは信じてくれたらしい。
「わかったわ。貴方は巫女。それで一旦は仮定する。その上で、貴方は何故リディアに情報を渡したの?」
「そのそれは……完全な成り行きでして……私、セシリアさんに森にいるところを捕縛されまして……それをリディアさんが知って、やってきて。それでつい、10万の兵の話をしまして……」
「なるほど。それで。武器の話は。」
ううう……だんだんちょっとやり辛くなる。エリアーナさん、カイさんと話す時はちょっとのほほんとした雰囲気出すのに、こうして情報整理になると『氷の指揮官』っていう異名通り淡々と話を聞くから緊張しちゃう……
「それはその……リディアさんに実質見逃してもらえたので。嬉しくなって、話しちゃいました……」
嘘ではない。嬉しくなって、は嘘ではあるけどお礼だから意味合いはそこまで間違っていない。あの時点ではゼーレンを勝たせるために自分ができることを考えたら、それぐらいしかなかったし……
「貴方を見逃した。情報源だったから。まあ、リディアならやるわね。帝国軍でもない限りは、あの子もむやみやたらに殺生はしない子。……帝国軍なら無差別だけど。仕方がない。これは、私達に植え付けられた本能。」
「おい、エリアーナ!」
「……口が滑ったわね。それで、それだけの関係なの?」
仮面になれ、と言われたことを言え、と言われた気がした。だけど、トーマスさんの夢で見た、リディアさんの顔が脳裏に浮かぶ。これは、話してはいけない。
「はい……ただ、情報ありがとねって、服、買ってもらっちゃいましたけど……」
はぁ、と小さなため息が聞こえた。ふとエリアーナさんを見ると、少し気が緩んだ顔をしていた。
「あの子らしい……でも今までの話の流れで1つだけ矛盾があるわよ。ミコ。」
すっと、真剣な顔をするエリアーナさん。私の言い分に何か矛盾でも?
「何故、リディアは昨日、敵の司令官の情報が必要だといったのかしら。貴方が焚きつけた……はずなのよね。リディアの言い分は。」




