神様? 神託にルールありますか?
「ミコちゃん、おはよう? ……ミコちゃん?」
セシリアさんに声を掛けられるが答えられない。どう反応すればよいのだろうか? 昨日の夜、連絡を取っていた相手……サイラス。そして今日見た夢の主人公、サイラス。多分、同一人物。あの光景やはっきりとクリスタの森と認識できていたことから、あれは118年の、クリスタに対する王国軍の襲撃事件の光景。王国が作戦に失敗したのはサイラスさんが強化人間で魔法を使えたから。そして、その魔法によって墜落して落下死した兵士たちの死体をセシリアさんが……
『そしてそれを王国に報告し……クリスタが襲われるきっかけを作った。』
私がこう聞いた時、工具を落とした反応から見て、セシリアさんがクリスタが襲われるきっかけを作った。だけど、それによって壊滅的な被害を受けたのは王国軍だった。セシリアさんは強く責任を感じているはず。実際に、泣いていた。だけど……どうして? どうしてセシリアさんはサイラスさんと連絡を取り合う仲になっているの?
「難しい顔をして……もしかして。本当にまた『神託』でも見たの?」
冷蔵庫に残っていた陽光果のジュースをコップに注ぎ切って、瓶を洗っているセシリアさんが何気なく聞いてきた。
昨日そう告げて寝た。実際、握っていたはずのダイスは消えていた。あの6面ダイスは、私をこの世界に連れてきた神様から、夢を見せるぞという合図。……ダイスの出目だけはわからないけれど。
内容については……聞いちゃった方が、いいのかもしれない。下手に隠してもやもやするよりきちんと話してしまった方がいい。何よりこれはセシリアさんの過去にもつながる話だ。
私はテーブルに座って、セシリアさんに向き直した。
「おはよう。セシリアさん。うん。神託があったよ。とはいえ、どう未来とつながるかはわからない話だけど。」
前回のトーマスさんの夢。あれは、間接的に私とゼーレン防衛隊を繋ぎ、リディアさんとどう向き合うべきなのかを神様なりにアドバイスするために見せた、と言える。今回のは? セシリアさんが昨日うっかり漏らしてしまった秘密を教えるために神様が見せた……だけでいいんだろうか? 何か理由があるのかもしれない。これは、話しながら考えることにした。
「そう、なら少し長くなりそうね。ちょっと待って、私もコーヒー作るから。」
……え? コーヒー? ふとキッチンを見ると昨日までなかったスティック状の何かが何本か立ててある瓶が置いてある。
「どうしたの? ああ、これ? ほら。服、たくさん買ったでしょう? その時にね、最後にローリエさんがいっぱい買ってくれたおまけって言って渡してくれたの。服を片付けている時にあったのだけど、貴方とリディア様を2人きりに長くしてはおけないなって思って忘れてて。それで今朝持って降りてきたの。」
瓶を持って振ってPRするセシリアさん。
ああ、なるほど……また貰い物してるんだ。そしてつい忘れちゃったのか……やっぱり、セシリアさんってそういう所、ちょっと抜けてるんだよね。しかもそうやってPRしてくるところが可愛い……じゃなくて。
現実の世界で、お父さんが飲んでいたコーヒーの香りとは少し違うけれど、コーヒーの懐かしい香りに少し寂しさを覚えながらも、席に着いたセシリアさんにしっかりと顔を合わせた。
「それで、貴方が見た神託って何?」
「……サイラスさん。」
真剣に淡々と一言だけ告げただけ。それでもセシリアさんは一瞬で青ざめた。そりゃそうだよね。昨日の今日だし。
「物凄く簡単な表現で言うよ。サイラスさんが手から雷を出して、空を飛んでる王国軍を撃ち落とした光景が見えた。」
大分簡単な表現だし、そもそも私がサイラスさんの視点で見ているから大分見え方も違うんだけど神託っていう名称上、第三者視点でどう見えましたかっていう言い方をした方がいいと思って言い換えた。……けど。多分、セシリアさんは現場を見ている。この表現があっているかどうか、一番わかっているのはセシリアさんのはず。
でも、私の言い方は間違っていなかったみたいで、セシリアさんの顔が暗く沈んだのが目に見えた。
「貴方の神託、凄いのね。合ってるわ。過去にあった出来事。でもどうして、その人がサイラスってわかったの?」
「サイラスさんが、貴方にそう名乗ったから。」
「……その時のことが見えてたの。そっか。あの人、そんなことできたんだ。」
違和感。そんなことができた。これは実行犯であることを知らない人の発言だ。セシリアさんは現場自体は見ていない。じゃあ、なんでセシリアさんはサイラスさんが強化人間であることを知っているのだろう? 考えるために私は無意識にセシリアさんから目をそらしながら、言葉を続けた。
「でもここまでです。私が見たのはサイラスさんが貴方に名乗ったところまでなので。そのあと、サイラスさんと何があったのか、とかは全然……」
「ところでミコちゃん。」
珍しく強く、私の言葉を途中で遮ったセシリアさん。
その違和感と相まって、呼びかけに応じる形で再びセシリアさんに顔を向ける。
その顔はとても真剣な顔だった。だけど、決して鋭い目で私を問い詰めているわけじゃない。本当に問いかける様にセシリアさんは私に聞いた。
「昨日。お風呂場で、貴方、私の話を聞いていないかしら?」
どう答えるべきなのかを一瞬考えたものの、答えは最初に決めていた。もやもやするぐらいなら、もうセシリアさんにはしっかり話すと。
「はい。聞きました。でも、聞かないふりした方がいいかなと思って、聞かなかったことにしました。……と思ったらこれだったので、困ってたんです。」
だけどやっぱり、つい目をそらしてしまった。後ろめたい気持ちがある。先にこっちを聞かれていたらこの事から想像して嵌めたんじゃないか。そう思われてもおかしくはないことをしたから。
「はぁ……私もあれはやっちゃったな、って思ったの。」
大きくため息をついて、セシリアさんの表情が緩んだ。
「気にしないでいいのよ。あれはあそこで通話してた私が悪いわ。貴方にだったら最悪聞かれてもいいかって、そう思っちゃったのよね。迂闊だったわ。」
やれやれという感じでコーヒーを飲みながら気を取り直しながら。コーヒーの香りも相まってか、それを見たら私も少し気が楽になった。この人は人と話すのが上手い。コーヒーを飲むと言い出したのも、最初から聞かれたらこう話そうと決めていたからじゃないだろうか? だけどそれをまったく人に見せないように立ち振る舞う。なんなら、ばれても問題がないように最初から優しく……いや。そんな器用な人じゃない。だからこんなによく貰い物をするんだろうし……それでいて、何故か、上からの圧力には弱いという欠点もあって。本当。可愛い人だ。
「実はその後、サイラスにね、教えてもらったの。ゼーレンには強化人間がいる。それを作ったのがザメック博士だってね。彼はザメック博士もゲルド支部長も嫌いだから、王国が探してる、って言ったら教えてくれたの。」
悪びれることなく話すセシリアさん。さらさらと、今日の献立を話すかのように話してくれる。どうも、セシリアさんにとってこの話は私に聞かれても何も問題がない話らしい。なんだか、嬉しい。
「私はそれを確かめるためにゼーレンに入りたい、と言ったら彼は入れる方法を教えてくれたわ。……お礼に、ゲルド支部長や彼が作った他の強化人間がどういう動きをしているかの外部から見た感想を、逐一彼に報告することにしたのよ。昨日のはそういうこと。納得できた?」
「はい。とっても。」
「……実はね。彼、たまに王国に潜入して、ミリアが無事かを確認してくれてるの。」
「え!」
「ふふっ、だからね。お願いすれば、いつだって寝返ることができる状況にはしてあるのよ。」
悪戯っぽく笑うセシリアさん。ポンコツっぽい所もあればこうして抜け目がないこともしているちょっとアンバランスなスパイ。この人が本当の意味で自由になれればいいと心の底から思った。
「ところで……セシリアさん。この神託なんですけど……今とどうつながるんだろうって考えてるんですが……」
「そうねぇ……前回の神託はゼーレン防衛隊の物だったのよね? あの口ぶりだと。」
「そうです。あの時は、空飛ぶ魔道装甲鎧が現れた時の様子だったので……」
「あら? 待って? 空飛ぶ、魔道装甲鎧?」
「え? ああ、はい。空飛ぶ魔道装甲鎧です。」
一人で考えても埒が明かないと思ったから、信じて話そうと決めて話してみただけの事。明らかに、空飛ぶ、に強く反応して表情を変えたよね。どうして空飛ぶ魔道装甲鎧にそんなに引っかかっているのだろう……?
「貴方、サイラスが撃ち落としたものってきちんと見えてる?」
「……いいえ? ぐちゃぐちゃでわからなかったです。鉄の塊だなーって……」
事実、私は空を飛んでたものは白い影としか認識できていないし、サイラスさん視点で見ても肉の塊と鉄がぐちゃぐちゃに混じってて何が何だかわからなかったんだよね……直視もしたくなかったし。ただ、情報にあったから王国軍だってことを知ってるだけで。
「それね、空飛ぶ魔道装甲鎧の、航空ユニットよ。」
「……え!?」
「航空ユニットは王国が開発したものなの。それを、帝国が火薬で代用して使えるようにしてしまったの。だから私、分解して確かめたかったのよ。あの火薬銃をね。」
「ああああああ!?」
待って。そんな話聞いたことないよ!? 裏話? また追加サプリ? でもこれ多分ファルシアのじゃない。アルバーン王国の方の追加サプリ!? ちょっと神様、話が違います!!
でもそうか! セシリアさんが確かめたかった一番の理由は、過去と同じことが起きていないかの精査! 帝国が、王国の技術を盗んで使っていないかの確認! 一度あったことだったからという事だったんだね!
「結果としては帝国がやっていたことは王国からの技術を盗んだけれどそれをきちんと解析しきれておらず、とりあえず使える発射機構だけを魔石に換装することで、火薬による火気の発生を抑えた……ぐらい。しかも暴発の恐れがある劣悪な状態。普通、あんな状態で使おうとは思わないわ。相当焦ってる。」
「そ、それって」
「大丈夫よ。私がわかるぐらいなのだもの。ザメック博士はとっくにわかってるでしょう。ただ、これの共有がされるのは多分、今日あたりじゃないかしら? あの博士、結構慎重でビビりなところあるから確証が得られるまでは話さないでしょうし。」
なるほど……そうだよね。ザメック博士の性格なんて、一番把握してるよね。どうやったら攫えそうか、とか一番最初に考えているだろうし。そのセシリアさんがいうのであれば共有はすぐにされそうだ……
「問題は神託ね。航空ユニットが使われる……がもしかしたら重要なのかもしれないわ。だとしたら空の備えをしないといけない。あと、普通なら警戒しないような場所から一気に詰めよってくる可能性もある。崖上とか。」
……うーん。セシリアさん。それはちょっと性急では……? くっつけて考えてもいい事なのかな……? でも……今はそれぐらいしか糸口はないし、警戒しないよりはした方がいい。でも……それってどうやって確認して、伝えるの?
「ど、どうするんですか?」
「あまり、危険なことはしたくなかったけれど。手柄をあげればリディア様からの疑いは晴れるかもしれないし。私、少しゼーレンの森の崖上あたりの様子を見てくることにするわ。」
「え、でも……」
「私も死にたくないもの。何もなければいいし。何かがあったら報告するわ。何でそんなところを警戒していた、って言われたら……そうね。どうしようかしら。まあ、適当に誤魔化す言葉でも考えておくわ。私、準備期間があるなら自信があるのよ。」
そう言って可愛くウインクして見せるセシリアさんに期待と不安を感じつつ、ここはセシリアさんに任せるしかないと判断した私はまた一人、留守番をすることになるのだった。




