神様! 買い物パートからいきなりシナリオスタートしないでください!
朝の商店街。セシリアさんは歩きなれた様子で、すっとある木のコテージのようなお店の前で立ち止まった。すると黒髪の店員さん? がセシリアさんに気さくに話しかけてきた。
「あら、セシリアさん。その子は?」
「ファミーさん、おはようございます。この子はミコ。本国の指示でこの街にくることになったけどこの時期でしょう? 慣れるまではということで私がしばらく面倒を見てくれと言われたの。それで早速、ファミーさんのハニーサンドを食べさせてあげようとかと思って。」
「あら嬉しいわ。いつもありがとうね! じゃあこっちへどうぞ。お嬢さん。」
私は言われるがまま、セシリアさんと一緒に席に案内される。店にはファミーさん1人。どうやらここはファミーさんが1人で仕切っているいわゆる喫茶店のような所みたいだった。
ファミーさんは私達を席に案内した後、カウンターから2つ、グラスを持って私とセシリアさんに差し出した。
「はい、これ。」
差し出されたのは琥珀色の透き通った飲み物。紅茶かな?
「あ、ありがとうございます。えっと。」
おいくらですか、と聞こうとしたらファミーさんは口元に人差し指を置きウインクした。
「いいのよいいのよ。いつもセシリアさんにはお世話になってるからサービスの紅茶よ。私のお店を今後ともご贔屓にっていう、お近づきの印だから気にしないで。」
私はぺこりとお辞儀をして、グイッと飲む。なんだろう。ちょっと甘い。そういえば、さっき、ハニーサンドって言ってた。ハニー……日本的なイメージだと蜂蜜だけど……どうなんだろう? ゼーレンって蜂いるのかな? ……いそう。木が多いし。イメージだけど。
「どう?」
「凄く飲みやすくておいしいです。」
「そう。じゃあちょっと待っててね。」
ファミーさんがそう言ってカウンターの方へと消えていった。
「それで、この後、服よね。バックスさんのお店とローリエさんのお店があるけれど、両方は流石に回れないわよね……一度お昼に指令が出てないかの確認はしないといけないし。」
「そういえば、今って戦争中なんですよね……? 全然それっぽくないですけど……」
「まあ、接敵されてるわけでもないし……ここ数年は第三区画まで入られたことはないから……そもそも、戦争中、って言ってもゼーレンは戦争しますって宣言されてから戦争になったことなんて一度としてないから、なるようになれ、って感じの意外とのんびりした雰囲気の街なのよね……」
そう語るセシリアさんの顔は若干困り顔だった。……うん。私もどう反応していいか困る。普通、攻められたんなら怖いとかそういう雰囲気出るはずなのにこの街ってそんなの全然ない。攻められ慣れすぎてるのかもしれない……でもどれくらいだろう? そんなに攻められていたっけ? 改めてルルブの記述で何か参考になる情報がないかを思案する。
Topic! 帝国と公国
王国から分離した帝国と公国。帝国は現在でも王国と抗争を続けているが、公国と王国の衝突は118年を最後に起きていない。また、公国と帝国の衝突も121年を境に起きておらず、現在公国は完全な第三国として表向きは中立の立場をとっている。しかし、帝国との衝突の隙を狙った襲撃程度しかしてこなかった王国に対し、兵器の試験運用や新たな戦術の実験などでゼーレンに幾度となく攻め込んでいる帝国に対する感情が大きく違うのは明白だろう。
少し世界を揺るがすような出来事が起これば公国は王国に傾く。これは世界の誰もが感じ取っている理だ。
……攻められ慣れてるとかじゃないよこれ!? そりゃそうだよ! そうなるよ! これ、多分、ゼーレン防衛隊が結成されるまで中まで入られてやりたい放題されてた時期あるって暗に言ってるよね!? だから、リディアさんはあんなに帝国大嫌いなの? ……うーん、なんかそれは違う気も……
「まあそんなわけだから……ゼーレンはこれで正常通りなのよ。私は、戦争に携わる人間以外はそれでいいと思うのだけどね。」
「もう少し緊迫しててもいい気もしますけど……でも中の人達が緊迫してたら、やり辛いのかもしれないですしね……」
実際、緊迫した雰囲気でピリピリされたら私もちょっと不安になってただろうから、今の私にとってはこれはこれで助かるかもしれない……
「それで、どっちのお店にする? ミコちゃん。」
あ、そういえばその問題があった。それについてはもう決めていた。名前の響きで。
「ローリエさんで!」
私の読み通りだった。ローリエさんは女性。女性の店員さんがいるお店の女性物は、大体かわいい。
「あの、ミコちゃん? 貴方、自分の服は? ねえ、何で私の服ばかり持ってくるの?」
「私の服を見てたらついセシリアさんに似合いそうな服を見つけてしまうだけです!」
これは嘘だ。最初から私はセシリアさんの服しか見ていない! 最も、セシリアさんに似合う服を見つけたら色違いを買うつもりではいるけれど。
「違うでしょ! 貴方の服を買いに来たの! 貴方の服を探しなさい!」
「えぇ~? でもその子のセンスはそこそこいいと思うわよぉ~? セシリアちゃんは~ もっと自分の服も~ みましょう~?」
「ローリエさんも私の服を見繕い始めないでください!」
ローリエさん、ナイスアシスト! 最高。この人は攻めに弱いので、ガンガン攻めましょう。2人で!
「ん? あれ、ミコちゃんとセシリアじゃん。どしたの? こんなところで。」
……えええええええ!? なんで、何でここにリディアさんがいるの!? いや、戦争が始まったんじゃないですか? リディアさんって一応お偉いさんじゃないんですか? 今ここに居てもいいんですか!?
「あ~ なるほどなるほど。お土産は帝国のだからねぇ。あんなものもってきたってことは、もう戦い始まってるだろ、私がここに居てもいいのかって、そんな感じ? あはっ! 私はいいの。エリアーナがきちんと作戦会議してるだろうからね! 私は~ 言われたことをやるだけなの。」
嘘だ、絶対嘘だ! 貴方、言われたことは確かにやるけど、作戦会議に爆弾突っ込んでそもそもの作戦変えちゃうタイプでしょ!
「でもいい所であったね~ 実はさ、帰りにミコちゃんの所に寄るつもりだったんだよね。ミコちゃんに用事あって。で、セシリアの服を見繕ってんの? ん~ ならさ~ こっちの方がよくない?」
何で寄るつもりだったんですか!? でも、その手に持った服はナイスチョイスです! それは確かにセシリアさんが映えます!
「いえ、あの、その! 私ではなく、ミコちゃんの服を……」
「え? ああ、なるほどね。確かにそのワンピースは微妙かもね。」
ちょっと待ってくださいーーーー!! それは駄目です。言っちゃだめです! 思ってても言っちゃだめです!!
「……微妙、ですか?」
ほら、セシリアさんの声が悲しそうじゃないですか! 謝ってください、すぐに! いや、私がフォローします、すぐに!!
「あああ! いえ、でも私は気に入ってるので!」
「なるほど、それセシリアが選んだわけだぁ? どれどれ。いや~ こういうの久々だね。エリアーナの服を無理矢理押し付けて以来じゃない? せっかくだから遊んであげるよ!」
この人、遊べればもしかしてなんでもいい!? いや、強化されて壊れちゃってるからなのかもしれないけどそれでもなんかトーマスさんの回想とか、ダリルさんの話を聞く限り、元々リディアさんって破天荒な所があってそれが悪化しただけなのかも!?
「いや~ 買ったね~ いや、楽しかったよ! 貴方達と一緒にいると退屈しないねぇ!」
結局、大量の服を買い込むことになった。ただし、セシリアさんの。その大量の服をもって帰宅した。私と、セシリアさんはもちろん、リディアさんも一緒に。
一番沢山服を持っているのはリディアさんだ。とても楽しそうにいいのいいのと持ってくれたのだ。……この人、何だかんだでこういう所優しいんだよなぁ……なんだろう。本当、アンバランスなんだよね……
「申し訳ありません……? いえ、そもそもこんなに買うはずじゃ無かったから、謝るのもおかしいのかしら……?」
一応、上司であるリディアさんに持たせてしまっている形になっているわけだから、セシリアさんもどう反応していいかは大分困っている様子だった。
「まあ、私の2着以外、結局全部リディアさんが払ってたし……」
そしてその2着はセシリアさんとおそろい。私は、戦いに勝った。
おもむろにリディアさんがリビングのソファーに荷物を置いた。
「えーっと。これここでいいかな? 喉乾いちゃった。なんかある?」
流石、リディアさん。こういう時、家主が先に気を利かせて飲み物出すからそれを待つシチュエーションだけど、そんなのガン無視で自分の要求……でも私としては、助かるな。この状態で、そのお願い。
「ああ、それでしたら……」
「セシリアさん、それは私が出すよ! セシリアさんは荷物を寝室に片付けてくれると助かります!」
私の少し強めの言い方でセシリアさんは私の意図を汲んでくれたようで、少し頷くと、リディアさんがソファーに置いた荷物をごそっと持ち上げた。
「ええ、わかったわ。」
そういって、私の横を通り過ぎる時に『すぐに戻るから、早めにね。』と一言いうと二階へと上がっていった。……本当、こういう時助かるなぁ……
そして私はというと、不自然に見えないように、冷蔵庫から以前、セシリアさんが買ってきてくれていた陽光果のジュースを取り出すとグラスに注いでリディアさんの前に出した。
相変わらずこのジュースは甘くてさわやかな、おいしそうないい匂いがする。
「? あ~! これ陽光果のジュースじゃん! なになに。私に買っててくれたの?」
「ああ、これは試飲のつもりのやつでして……とはいっても美味しかったので、きちんと買うつもりだったんですけど……」
「いい、いい! 気持ちだけでもうれしいよ~! ありがとね!」
そういうとリディアさんはとても嬉しそうにぐいぐいとジュースを飲み干した。ちょっと待って。すごい勢い。そんなに勢いよく飲まなくても!
ぷはーって顔してる……凄く、好きなんだろうな……
だけど、満足した後すぐにいつもの読めない笑顔に戻って私の方をにやにやと見つめてきた。
「ところでさ、ミコちゃん。私がミコちゃんの所にきたのはさ。相談したい話があったわけ。セシリア外させたのってさ、わかってるって取っていいよね?」
何となくそんな予感してたんですよ……さっき、『ミコちゃんに』ってハッキリ言いましたもんね。貴方。で……私が知る限り貴方の性格だと、余計な人いると話さないですよね……? でもそれを知ってるなんて明かすのも、怪しまれるからここは……
「? なんですか? 私、帝国について知っていることは話せる限り話しましたけど……」
とぼける。これだ。
「うんうん。そうだろうね。これ以上知ってたら逆に殺さないといけないしね。よかったよかった。」
「……」
シャレになんないって!! 私、貴方が思ってるより貴方のこと知ってるんですからね!?
「ああ、そんなに怯えなくてもいいよ。それでね、相談っていうのはね。ミコちゃんさぁ。最初っから私のこれ、気づいてたよね? 黙っていてくれればさ、悪いようにはしないから、私の仮面になる気ない? 実は結構困ったことになってるんだよね。」
「……え?」
「エリアーナがさ、なんか最近私の動きを警戒してるんだよね。私はさぁ、やりたいようにやってるだけなのにさ。多分さ、ちょーっとばかり賢い提案しすぎたからだと思うんだよね。だから~ 貴方を利用させてよ、ね?」
いや、待って……何で私が、リディアさんが仮面被ってるって気づいてること知ってるの……? 私、そんな素振り、見せてたっけ……?
……それもそうだし……エリアーナさんを誤魔化すための、仮面になれ……? 私に!?




