神様! シナリオ合間の買い物パートの邪魔をしないでください!
早朝のゼーレンの森。
森の中に設営されている帝国軍の野営地に張り詰めた空気が漂う。
周りの木々には先日の夜襲で逃げた兵士たちが、首を失った姿で張り付けられていた。
そんな中、バルバレスがライナーに対して鋭い眼差しを向けた。
「さてライナー。答えを聞く時間だぞ。」
ライナーはちらっと懐中時計を見てから胸ポケットにしまい答えた。
「時間ですか。さて、バルバレス将軍。まずは私がどちらの案を提示すればよいのかという報告の方から教えていただけないでしょうか?」
「試作型魔力銃の話か。はぁ、現在回収した中でそのままでまともに使えそうなものは1丁も残っていない。ばらして組み直せば10丁……探索範囲を考えるとどう頑張っても使えるのは20丁程度。100丁用意したんだぞ! それが、5分の1だと……!」
バルバレスが地団駄を踏む様子を見て、ライナーは身振り手振りで宥める。
「落ち着いてください。バルバレス将軍。悪くない数です。これなら最悪の案をとらなくても済むかもしれません。」
「ほう?」
その話を聞き、バルバレスが動きを止めた。
「航空ユニット付きの魔道装甲鎧が50、あるでしょう? あれを全て体当たりさせるのですよ。城壁に。魔道装甲鎧は魔力の塊です。ぶつかり衝撃が加えられた瞬間に爆発する機構を組み込みさえすればどのような城壁も破壊できることでしょう。それがたとえ、魔力防壁システムを完備する城壁であろうとも、ね。将軍も聞いたことがあるでしょう。王国のヴェネディー攻略戦。あの時、魔道装甲鎧の結界展開の不調を察知したナパーム大佐がヴェネディーの魔力防壁に体当たりを仕掛け自爆し、それをきっかけに魔力障壁を壊したのですよ。もっとも、ナパーム大佐は帰らぬ人となりました故、上層部はあまり推奨はしておりませんがね。」
「ほほう……だが、我々の現状を考えればそれは素晴らしい策ではないか!」
「ですがこの案には一つ重大な欠点がございます。故に『最悪の案』としてまず提示させていただきました。」
「重大な欠点だと?」
「はい。我が軍の魔道装甲鎧はその構造故に訓練された兵士しか使用できません。航空ユニット付きなど、特にです。しかもこれは我が国でもまだ100機未満の最新兵器……訓練できる物がこの数しかないのであれば、当然、訓練された兵もわずかなもの。そのわずかな兵を消耗していいものでしょうか? それこそ、占領に失敗した場合でも、ゼーレンに再起不能なダメージを負わせることができれば斬首は免れましょう。しかし、その時の処遇の決め方がどうなるか……残存兵力でしょうね。」
「む……」
「鎧はまだ作ればよい話。だとしても、現在数の半数を完全な形で、ここで消費しては流石に上層部も許しはしないでしょう。」
「だがしかし、勝てねばそれ以上の罰が待っているだけだ。お前の言う通り、我々が生き延びるすべは実質的な勝利。それ以外はない。」
「そこでです。訓練された兵だけでも残しましょう。鎧のみをぶつけるのです。それも、部分的に、です。野営地に残された残骸は回収していますか?」
「ん? そんなものを回収するわけなかろう。」
「それは勿体ない。どうせ進軍時に近くは通るのです。その際に回収しましょう。そして、これを組み立てるのです。」
そういうとライナーは腰のポーチから1枚の紙を取り出すと、バルバレスに見せるように広げる。
「これは……なんだ。発射台か?」
「はい、そうです。作戦としてはこうです。航空ユニットのみを切り離し、魔道装甲鎧の魔石装着部のみを航空ユニットに取り付ける。そして、この発射台を用いて、方向を定めて航空ユニットを起動する……いかがでしょう? これならば試作型魔力銃に使われていた魔石の使い道もできますし、遠距離からの攻城も可能。」
「素晴らしい案だ、ライナー!」
「しかし難点がいくつかございます。この航空ユニットの切り離し作業を現場で行うために数日、さらに発射台の作成にも数日かかります。」
「人力はあるだろう! 切り離し作業そのものは技術兵がいるが、こっちの発射台など土木作業と変わらん! 切り離し作業が終わり次第作戦が決行できるように急ぎ作戦を実行せよ!」
「バルバレス将軍。それだけではございません。発射台の作成位置も問題です。まずはこの位置を占領しませんと。」
そういうと発射台の設計図をポーチにしまい、今度は周辺の地図を取り出して広げて見せる。そして城塞都市ゼーレンの要塞から離れた山の崖上の森を指さした。
「む……ここは崖上ではないか……」
「ここに、こっそりと作ります。精鋭を用意しこの場所を占拠してください。そして、それがばれぬよう、本隊は回収作業が終わり次第、再び進軍を開始し、都市のすぐ近くに陣を張るそぶりを見せましょう。これは、迎撃されても構いません。本命がばれぬよう、何日も何日も仕掛けるのです。相手が我々が攻めあぐねていると思ったその時が……我々の勝利の時です。」
「よいだろう! おい、そこの! グレイブ中隊長を呼んで来い! 名誉ある仕事をくれてやるとな!」
「おや、あの堅物を使いますか。まあ確かに。この本隊に見せかけた囮は兵数が多く、兵を動かせる人間でなければならない。また、忠義もある程度しっかりしていてもらわなければならない。その点は彼は良い。帝国に忠義を誓い、兵からの信頼も厚い。最も……我々が上層部の判断とは違う行動をしている事実は、知りませんがね。」
「だからこそだ。知られる前に消えてもらわねばならぬ。ちょうどよかろう。」
一方その頃のゼーレン市街では平和な一日の朝を迎えていた。
「よく似合ってるわよ、ミコちゃん。」
「そ、そうですか?」
昨日の夜、この世界で初めてお風呂に入ることができた。公国が現代日本の様式に近いのもあって、セシリアさんも私がお風呂に入る時にお湯を張っている所を見ても『きちんとそのあたりの知識はあるのね。なら、心配はなさそうね。』というだけで不審がることはなかった。
そして着替え。私は、今更ながらこの世界で軍服しか見てなかったのだなと改めて感じた。セシリアさんが見繕ってくれたその洋服は、私が想像していたファンタジー世界の布服とは少し違った。いわゆる、レトロな襟のついたシャツ……何でか、エンジ色。もしかして私、赤が好きだと思われている……? 同時に『不思議な服装をしている』ぐらいで済んだ理由も理解できた。この街、日本に似ているのだ。家屋や家電だけでなく、ゼーレン……というより公国そのもののベースが日本のようなのだ。もっとも、城塞自体は洋風だが……
しかしここまで社会文化が似ているのなら、もしかしたらセーラー服によく似たものはあるのかもしれない……今日は、それが確認できるかもしれない日となった。今こうして、セシリアさんに朝食は外食にしようと言われ、着替えている。……エンジ色のワンピース……といっても型がやっぱり少し古い。嫌いではないけれどなんだかちょっと恥ずかしい。
「じゃあ、行きましょうか。大丈夫よ。お金はあるからね。」
そう言ってウインクをするセシリアさん。……そういえば、セシリアさんはずっと白ラインの入った軍服……部屋でも軍服……でもお風呂に入った時、着替えてる素振りはあった……軍服から軍服への着替え……? もしかして、公国軍って軍服以外着用禁止なの……?
「あら? どうしたの?」
「あ、いえその。セシリアさんはずっと軍服だなって。」
「ああ、そんなこと? そもそも私、私服もってないしね。」
「ええええええええええ!?」
その一言は、昨日、オフになってしまった私のテンションスイッチを押してしまった。無理だ。こんな事、許されていいわけがない!!
「な、なに? 私が持っていると思った? 昨日の話を聞いて。まあ潜入用のぐらいはあったけどここに来るとき必要以上のもの全部捨てちゃったし。支給の軍服もらってからはまあ、デザイン的にも悪くないからこれだけでいっかと思って処分してるし。」
……あ……そっか! セシリアさんの境遇だとそうなるのか……でも、それは流石に勿体なくないですか? こんなに綺麗な容姿をしていらっしゃるのに……そうだ!
「セシリアさん、その。私の服、選んでくれてとってもありがたいんですけど! この街の服ってどんなのがあるのか、自分の目で確かめたいので! この後、お買い物もしませんか!」
「あらそう? でも確かに、数着はいるものね。いいわよ。行きましょうか。」
よしっ! とっても自然にお買い物の約束も取り付けることができた! これでセシリアさんのファッションショーができるぞ!! まさか、セシリアさんも自分のファッションショーになるだなんて思ってもいないだろう……これは楽しみ!!
私は小さく、そして力強く、拳を握りしめたのだった。




