神様? これは公式見解ですか?
「それじゃ早速、俺は帰ってエリアーナに報告するよ。」
そういい、ソファーから立ち上がるカイさん。カイさんに軽く会釈をし、玄関へと案内するセシリアさんの後ろに私はぴったりと張り付くように歩いた。
その様子を見てカイさんが少し微笑んだ気がした。
カイさんが玄関の扉に手を掛けようとした時だった。カイさんが思い出したように振り向いた。
「そうだ、ミコちゃん。」
「なんですか?」
「今日は10万の兵がどうしてここに来ることを知っていたのか、どうして武器のありかを知っていたのかは追及しなかった。だけど、エリアーナに報告したら多分、エリアーナは君を追求する必要があると判断すると思う。その時はきちんと真実を話してくれ。あいつに嘘は通用しないからな。」
「は、はい……」
真剣な顔で釘をさすカイさん。はい、わかってます。エリアーナさんのデータは知ってます。氷の指揮官……そう呼ばれている人がそれを見逃さないとは思えない。でも疑問がある。わかっていて報告するつもりだったのならどうしてさらに深堀しなかったのだろう? その答えはすぐに返ってきた。
「俺が聞かなかったのは、どうせエリアーナが追及するだろうからだよ。心の準備、しておけよ。こうして話してみて、俺は少なくとも君がゼーレンに牙向くようなことはないだろうなとは思ったから追及しなかったんだ。俺の勘だけどな。だからだ。もしもエリアーナの解釈が尖るようなら、俺がフォロー入れてやるから、きちんと君が話せる限りの誠実な答えをくれ。頼むぜ?」
真実を話せ、とは言わない。嘘は通用しないとだけ忠告をする。フォローは入れると言ってくれる。事情があることは察してくれてるってこと、だよね。……おかしいな。最初のルルブ記述だと、ゼーレン防衛隊の人達ってみんな怖くて敵ばかりだと思ったのに。なんか、本当、イメージ違う。……もしかして、神様もルルブにケチつけたかったのかな? そんな気がしちゃう。
私がそうやって一人で和んでいると、カイさんは私に忠告した時よりも、真剣な顔でセシリアさんに向かって強い警告を始めていた。
「だけどセシリア。お前はもうちょっと考えた方がいいぞ。何で個人的な趣味で武器を解体する必要があるのか。こんなもん、エリアーナに報告したらスパイ容疑で尋問しろって言いだしかねねぇーよ。……それは、俺もエリアーナも本意じゃない。今回は黙っておいてやるから絶対に騎士団内でそんな趣味あるこというんじゃねぇーぞ。」
「は、はい! 申し訳ありませんでした!」
……うん。それは、そう。ありがとう、カイさん。カイさんって、とっても常識人なんだね……
そんなカイさんに手を振って見送ってから、私とセシリアさんは、そろそろ寝る準備をしようと、書斎の片付けに戻ったのだった。
一方のカイは、商店街で総菜を買って帰ったために、普段からエリアーナが入り浸っている作戦会議室に戻るのが遅くなってしまっていた。
「カイ、遅かったわね。どこへ行っていたの?」
エリアーナがカイの帰宅(?)に気づき、視線だけ送りながら声をかける。
彼女の机には本日の帝国の動きがまとめられた書類や、城壁の強化計画についての完了報告書などが並んでいた。
「お前はまたこんな時間まで……おい。夕飯にするから一旦作業やめろ。話はその時じっくりしてやるから。」
カイは買ってきた総菜の入った袋をエリアーナに見せるように掲げる。しかしエリアーナは一切見向きもしない。
「食事なんてただの栄養補給よ。報告を。」
カイは大きくため息をつくと総菜をすぐそばのテーブルの上において、エリアーナが作業してる机にどんと手をついた。
「だめだ。ほら、座れ。出来合いのもの買ってきてあるから一緒に食うぞ! そうじゃないと話さないからな!」
「……」
強い口調だが怒っている様子はない。しかし意思を曲げる気はないという雰囲気を感じたエリアーナはしぶしぶ机から立ち上がり、テーブルへと座った。
その様子を見て、嬉しそうにカイは袋から総菜を並べていく。
唐揚げ、サラダ、パン。肉の香りがかすかに漂うと、カイは満足そうにエリアーナの向かいに座った。
「よし、じゃあ食うか! いただきまーす!」
「いただきます。」
2人とも手を合わせてから、パンを齧る。
楽しそうに唐揚げを食べるカイの姿をエリアーナは虚ろな目をしながら淡々とパンをかじっていた。
「それで。どこへ行っていたの?」
「リディアが最近、俺の部下にコソコソ聞き込みしてる話。お前も耳に入ってるよな?」
「ええ。確かセシリアだっけ? 彼女は優秀な小隊長。何故? とは思うけれど興味を持つことに不思議はないわ。」
そう淡々と答えるエリアーナの回答にカイは少し大げさに手を叩いた。
「あ~ そういう見方で言うとそっちから入ったのかもな、あいつ。」
「どういうこと?」
エリアーナが口に入れていたパンを食べ終わらせてから続きを促した。
「セシリアが数日前にゼーレンの森で不審者を捕縛した。見たこともない衣服を着た女の子だ。昨日までは見張り小屋で監禁していたらしいが、昨日の実質的な開戦を受けて、見張り小屋が必要になると判断して、場所を移した、ってのをダリル先輩の証言で知って確認をとってた。」
カイの話を聞いて、エリアーナは少し目を伏せ考える。そして顔をあげてから切り出した。
「……カイ。最初に結論を言われると混乱するわ。時系列で説明するのはいいことだと思うけれど、今回はダリル先輩の証言からわかってきた事実を列挙した方がわかりやすいわ。」
「ダメだしするなよ……でも理解はしたんだろ?」
「ええ。貴方が先ほどの発言から抜かした『リディア』が、セシリアの不審行動を知って追跡した結果、という所まで含めて。」
「手厳しいな……」
軽く困った顔を見せながら頭をかくカイに対して、エリアーナは表情を変えずに淡々と聞いた。
「それで貴方の判断は?」
「え?」
「確認したのでしょう。捕縛された少女を。貴方から見てどうだったの?」
「リディアの10万って単語の出所で、武器のありかも知ってたことを素直に話してくれたよ。だけど、どこで知ったかって部分は言いづらそうにはしていた。リディアがそれに気づいていたのかどうかはわからない。」
「……」
その報告を聞いて、エリアーナの目に光が灯る。真剣に考える様子から、異変を感じたカイが心配そうに聞く。
「? どうした?」
「その子のことは調べる必要がある。だけどそれ以上に確認したいことができたわ。その子はしばらく放置しましょう。私の懸念が当たっていれば、リディアは彼女を利用する。必ず。」
「は? リディアが、他人を利用する?」
信じられないという表情をするカイに対して
「……そうであってほしくはないけど。」
とエリアーナが願掛けをするように呟いたのであった。




