神様! 表情差分って重要なんですね!
「あれは……カイ様ね。なんで、ここが?」
セシリアさんが窓の外を見ながら不思議そうな顔で呟いた。カイ……ゼーレン防衛隊の『鉄壁の守護者』。ルルブに書かれてる限りなら、とても悪い人じゃなさそうなんだよね……でもセシリアさんの言う通り。
なんでカイさんはここへ来たのだろう?
私はカイさんと直接的な関わりはない。あるとしたらセシリアさん。そのセシリアさんが今、『なんでここ「が」』と呟いて不思議そうにしているということは……
「セシリアさんに何か用があって誰かに聞いたんじゃないのかな?」
「うーん。それはあり得るかもしれないわね。でもそれだと情報源はほぼダリル守備隊長よ?」
……まあそれは……あの人、おしゃべりそうだったし……でもセシリアさんに用事があるからって直接来るのかな……? なんか、違和感……とりあえず、応対はした方がいいよね?
「えっと。とりあえず出た方がいいですよね? 私が出た方がいいですか?」
「いえ、私が出るわ。ダリル守備隊長にどう聞いているかもわからないし。」
セシリアさんはそういうと階段を下りていく。この家、階段から降りてすぐ玄関なんだよね。そうだな……上の階から、少し様子見ようかな。
「どちら様ですか?」
セシリアさんが扉越しに声をかける。……あれ? 玄関の横にモニターみたいなのついてるよね……? それ、インターホンだよね? セシリアさん、何で使わないの……?
「すまない、ファルシア公国騎士団所属、ゼーレン防衛隊の前衛隊長のカイだ。ここの住民に聞きたいことがある。応じてもらえないだろうか。」
しかもカイさんも気にしないの!? どういうこと!?
「はい、今開けますね。」
ガチャリと扉が開く。セシリアさんと頭一個分違う、がっしりとした青いラインの入った軍服を着た男性が玄関に入ってくる。あれが、カイさん……
「すまないな。セシリア。もう夕暮れ時なのに。確認することが終わったらすぐに帰るよ。」
「いえ。お気になさらず。前衛隊長がわざわざお訪ねになったということはそれなりの重要案件でしょう? ここではあれですのでリビングへ。」
「ああ、わりぃ。……? ……おい。セシリア。」
「はい、なんでしょう?」
「お前、なんで、インターホンあるのに使わなかったんだ……?」
そう、そこ!!! カイさん! それ、それ聞きたかった! ものすっごく不思議な顔してる! そっか! 向こうからはこれがチャイムなのかインターホンかがわからないからカイさんはスルーしてたんだね! そっか、公国は近代日本ベース……一昔前の構造だからってことだね。おばあちゃんの時代はチャイムしかなかったって聞いてたし、それなら納得! でもそうなると……あれ。もしかしてセシリアさんが知らなかった理由って……
「……インターホン?」
「お前……もしかしてインターホン知らないのか? 玄関に誰がきたのか、その機械から見れるんだぞ?」
「え? すみません、私、寮暮らしが長かったので……」
そっち!? 文化の違いとかじゃなくて!? いや、多分、そうやって誤魔化したね、セシリアさん!! 今こっちをちらっと見て舌出しましたよね? やっちゃった、って表情ですよねそれ!!
「マジか……まあ、知らなかったんなら仕方がないか。それで、セシリア。もう1人いるだろ? 呼んでくれるか?」
「どうしてそれを?」
「お前が保護した女の子がいるって話をダリルから聞いてな。それで素性をな。」
「そういう事でしたか……ですがその件でしたらリディア様が確認済みですので問題はありませんよ?」
「それについてなんだが……リディアのやつが誰にも報告してないんだ。ってわけでだ。悪いんだが俺が直接確認したい。呼んでくれないか?」
「そうなんですか……わかりました。少しお待ちください。呼んできますので、リビングでお待ちください。」
「ん。わかった。」
そう言ってセシリアさんはカイさんをリビングへ誘導してから、ちらっとこちらを見て制止の素振りを見せた。気をつけないといけないことを言いたいから待ってろ……ってことかな。大人しく階段上で動かないようにしてよう。
しばらく大人しくしていると、階段を上ってくる音が聞こえて来た。セシリアさんだ。声を潜めて話しかけてきてくれた。
「ミコちゃん。聞いてたわね? カイ様がリディア様から情報を貰ってないからってやってきただけのようだけど……いい? 貴方は帝国と公国の間を放浪していた、ちょっと帝国の情報に詳しい人間で、たまたま10万の兵がやってくることを知っていただけ……それで通せるわね?」
「火薬銃のことも素直に、積み込みの様子を見ました、ぐらいの言い方で通じますかね……?」
「それは大丈夫だと思うわ。まったく見られずに積み込むことはできないもの。それに。貴方の改造されてるって発言自体は推測。そうだったわよね?」
……うん? 私、あの時どんな言い回ししたっけ……結構必死だったからその場しのぎで言っちゃってるところあるから……思い出そう……
『あ、でもその。その火薬銃ですね。改造されてる可能性があるんですよ。』
……よく、この言い回しで通ったね……リディアさんが細かいことを気にせず、その重要性だけ拾うタイプだったおかげかもしれないけど、セシリアさんからの心象が悪くて疑われてたら突き詰められてたかもしれない……セシリアさんの言う通りにしておこう……
「はい、そうです。それも素直に言いますね。」
「ええ、そうして。カイ様はきちんと素直に答えてると判断すればきっと信じてくださるから。」
セシリアさんに連れられてリビングまで行くと、カイさんがソファーに座って待っていた。実際に汗をかいているわけではないけれど、汗が伝うような、そんな感覚を覚えた。緊張してるのかな? 私……
「よお。君がセシリアに保護されたっていう女の子か。」
「はい、カイ様。名前はミコ。ゼーレンの森で保護しました。」
「は、はい……何もわからない所を助けてもらったんです。ただ、場所が場所だったので……」
「まあ、そりゃ森でこの時期に保護じゃ怪しいわな。で、どうして大丈夫だと思ったんだ? 妙すぎるだろ、その衣服。」
ですよね……その指摘は絶対入ると思いました……
「逆です。カイ様。こんなに目立った帝国兵なんていません。」
……セシリアさん? これ、そう使います? 私が帝国兵ではないと確信したから、いっそ開き直るぐらいでいいっていう事ですか……?
「ははっ! 確かにそりゃそうか! なるほどな、リディアのやつもそれだから報告しなかったのか。それは納得だ。あいつ、帝国の匂いのする奴は絶対、生かしちゃおかないしな。」
えええ……カイさん、そこはツッコミ入れてもいい所ですよ……でもリディアさんの性格はきちんと把握してるんだ。
「ここからは情報の確認になる。リディアが10万の情報源って言ってたのがミコちゃん。そのミコちゃんを数日前に森で保護したのがセシリア。リディアは10万の情報と前線の秘密兵器の情報が当たっていたから褒美としてこの家をミコちゃんにあげた。そして、重要性を認識して拾ってきたセシリアをそのまま護衛として当てた。あってるな?」
凄い……綺麗に状況整理した……というか、10万の話とか秘密兵器の話とか、家の話とかは全然してないのに……ダリルさんと話した情報と組み合わせたのかな? やっぱりゼーレン防衛隊のルルブ記載組って、わき役国家なのに出てくる扱いだから特にステータスが高いってのもあって、こういう、ゲームルールに入らない部分の能力も高いのかな……?
「は、はい……大体あってます。」
「なるほどな。最初リディアが『ぶっちゃけ信用できない』って言ったのもミコちゃんの出自の問題な。確かに、当たってるかどうか確認するまでは信用できないになるな。あいつ……」
「あの、やっぱりこの時期に来た、は大分不審者ですよね……?」
「しかもその服装でだろ? そりゃ、不審者じゃないって言う方が不審者だぜ。」
「ですよねぇ……」
「だけど、現時点で敵意がないのはわかった。もしも帝国に媚び売るつもりだったらあんな重要な兵器情報を持ってくることはないからな。ところでミコちゃん。リディアはこの褒美を渡す時に何か言ってたか?」
「えっと……ここのことをペットハウス、って言ったことが強烈すぎてそういえばあまり……えっと……」
「おいおい、あいつ、人をペット扱いか? 一言言っておいてやらねぇとな。まあ、でもそうだな……最近のあいつならやるか……わりぃな、ミコちゃん。他に覚えてること、ないか?」
そういえば。私も突然すぎてあまり細かく聞いていなかったけれど……
「ご褒美、としか聞いていません。多分、武器の情報の事だと思うんですけど……」
それを聞くとカイさんがため息をつく。
「あいつは……理由ぐらい教えてやれよ。」
「ああ、いえ。大体想像はつくので……」
「いいや、こういうのはしっかりすべきだ。礼には礼を、だ。セシリア。ここからは軍事機密だ。他には話すなよ。ミコちゃん、君もだ。」
さっきまでも真剣な顔だったけど。カイさんの顔がさらに険しくなる。……相当、重要な情報なのに、お礼だっていって話してくれるんだ……多分事の顛末なんだろうな、という想像はつくもののきちんと聞いておきたい事ではあった。私も精一杯真剣な顔で返事をした。
「はいっ!」
カイさんは私の返事に少しだけ表情を緩ませて頷いた後、再び険しい顔で端的に話し始めた。
「昨日の水の塊はゼーレンの作戦によるものだ。作戦は成功している。この作戦が組み立てられたのは君の情報があってのことだからな。それをもたらした君と、護衛であるセシリアには知る権利がある。内容は極秘だけどな。ありがとう。」
「い、いえ……!」
そこまで言い終わるとカイさんは初めてため息をついてから、呆れたような顔でセシリアさんの方を見た。……セシリアさんの方を見た? 何で?
「それで、セシリアはセシリアでなんだって褒美としてあいつ鹵獲してきた武器で満足してるんだよ……もっといいもん貰っておけよ。」
……あ。それ……
「いえ、その。私がこうした武器の構造について興味があるということが、どうやらリディア様にばれているらしく……その……以前も公国式魔道剣壱式をばらしている現場を目撃されておりまして……多分、それで……」
セシリアさん? あの。カイさん、そこまで追及してませんけど、何で自白しちゃうんですか……? セシリアさんってそういう所少し天然はいるよね……完璧かと思いきやなんか、隙があるんですよね……
「んなことしてたのか! そりゃ、そんなの見りゃ、リディアのやつはそう思うだろうよ。あいつ、時々小難しいこと言うけど、基本的には単純だしな。」
カイさんの発言に少し違和感を持った。さっきの発言をした時のカイさんの表情はいたって普通だ。隠し事をしている様子も見えなかった。カイさんから見て、リディアさんは単純なやつ? 私はリディアさんはとても複雑な人だと思っている。怖くて、冷静で、でも無邪気で、実は優しくて、悲しい人。
ようやく、夢で見た時に呟いた、『隠す』の意味がわかってきた気がする。リディアさんは大事な人に素顔を見せたくないんだ……
「んで。何でばらしてたんだよ?」
「それは、その。個人的な趣味と言いますか……」
……セシリアさん? 珍しいですね、私に助けてという視線向けるのは。でも確かに、その自称『個人の趣味』をさらに深掘りされると苦しいですね……
咄嗟に私は、ごく自然にカイさんにこれからのことを切り出した。
「それよりも、カイさん。私ってこれからどうしたらいいんでしょう?」
「ん? ああ。そうだな。あいつ、ペットハウスだなんていったんだよな、ここ。」
「……はい。」
「まったく、あいつは……さっきも呟いた通りなんだけどよ。人のことは人扱いしろって言ってるんだけど……ま、しょうがねぇか……今回ばかりはそれのおかげで少しだけ意図がわかる。」
ペットハウスでわかる意図とはなんなんですか……? 私、ちょっとよくわかりませんが??
「あいつがそういう表現したんなら、多分別にこれから何をしてくれって言ってるわけじゃないと思うぜ。本当に『飼いたい』。それだけだ。あとは見張り小屋だっけ? 最初に保護されてた場所。だとしたら単純に、牢屋が使いたかったんだろ。これからのために。それ以外の意図がある……のか? だとしたら、わりぃ、あいつの意図はこれ以上は俺には読めない。君がしたいことがあるなら、ゼーレンを巻き込まない範囲で自由にしてもいい。リディアが君に何をさせるつもりだったのか、については直接聞いてくれ。」
あれ、じゃあ、なんでカイさんはここへ……? 多分、私は心底不満げな顔を見せてしまったんだと思う。慌ててカイさんが弁明を始めた。
「ああ、わりぃわりぃ! そもそも俺がここに来たのも成り行きなんだ! あいつがなんで保護してる人間のことを隠してるのかきちんと確認してエリアーナに報告しないといけなかったからな。安心しろって。悪く言うことはしねぇ!」
「では……ミコのことは。」
「ああ、俺は一旦納得した。エリアーナには報告はするけどな。」
そう言ってカイさんは私を安心させるように、今日初めて素敵な笑顔を見せてくれた。
……あれ。カイさんって結構かっこいい?




