神様! そういえば私ってどういう扱いされてるんですか?
時はセシリアが招集を受け、ゼーレン第四区画の広間に着いたころまで遡る……
第四区画要塞の広間に騎士たちが4つの列をなして整列していた。
1列目にはゲルドが大剣をついて、立っている。彼の後ろには彼と同じく黒いラインの入った軍服を着た騎士が3名。彼らは皆、第一区画を守る守備隊長たちだ。
2列目にはリディアが面倒くさそうに頭の後ろに手を当てて立っていた。彼女の後ろには緑のラインの入った軍服を着た騎士が5名並んでいた。一方、2列目先頭に立つリディアの軍服だけは紫色のライン。他の列では色の違いがないことからも彼女自身が自分で自分の色を選んだことが明白であり浮いていた。
ともあれリディアの後ろに立っている彼らは基本的には第二区画を守る守備隊長たちなのだが、第二区画の性質上、遊撃隊も兼ねている、ゼーレンにとっては大事な諜報部隊の隊長たちでもある。
3列目にはダリルが背筋を伸ばして立っていた。彼の後ろには彼と同じように白いラインの入った軍服を着たセシリアの他、15名の騎士が並んでいた。この列だけ、ダリルの後ろに3人、そしてその3人の後ろにそれぞれ5人という細かい階級付けがあることを表すかのように並んでいる。このことからもゼーレンが第三区画を最も意識して守っていることを象徴していた。セシリアはその列の最も後ろで全体を見渡せる場所にいた。
そして最後の4列目。トーマスが鉄色のラインの入った軍服を着た5名の騎士を並ばせていた。彼らは第四区画の城壁を守る重要な狙撃隊だった。
そんな4つの列の整列を、全員の前の壇上で、青いラインの入った軍服を着たエリアーナが目を伏せ待っていた。その壇上の端では、同じく青いラインの入った軍服を着たカイやカッセル、そして白衣を着たザメックといったメンバーが控えていた。
全員の整列が終わるとゲルド、リディア、トーマスの3人が端へと移動し、エリアーナが口を開く。
「一部の人間は知っている通り、昨日、ゼーレンの森の方向で目撃された水の塊について。我々、ファルシア公国騎士団ゼーレン支部長ゲルド様直属の『ゼーレン防衛隊』より、報告があります。ザメック。前へ。」
エリアーナが指示を出すとザメックがいそいそと全員の前に立ち、へこへこと申し訳なさそうに解説を始めた。
「いやはや、本当大袈裟なことになって申し訳ないのですぞ。端的に話しますとですな。第一区画の貯水システムを使っての新システムの起動実験時にエラーがありましてですな……本来、堀を作ってから水を流す、つもりが水だけ、上に流れてしまったわけでありまして……」
「ザメック。要点だけでいい。長い。」
「そう言われましてですな……」
端的に話そうと始めたザメックが結局詳細を話そうとし始めたのを見かねたエリアーナがザメックにまとめるように再度指示を出す。しかし、ザメックが難色を示したところで、見かねたゲルドが一歩前に出て大きく威厳のある声で説明を始めた。
「今お前達も知っての通り。城壁の強化はここ数年の改修でほぼ終わった。だが、接近した敵を跳ねのけるシステムはない。これをザメックに打診していたが今回はこのシステムのエラーにより起こった、いわゆる事故だ。」
「さ、流石ゲルド支部長ですぞ! そ、そういうことですぞ! 城壁の強化のための魔力防壁システムはほぼ完ぺきに仕上がっているのですぞ! しかしですな、やはり防御だけでは限度があるのです。そこで、第一区画で貯めている水を応用して相手を城壁から引き剥がすシステムを作ろうとしてですな……」
冷や汗をかきながらも、それでもまた技術的な解説をしようとするザメックに対してトドメを刺したのは無邪気な一言だった。
「つまりザメックおじさん、失敗しちゃったんでしょ? 取り繕わなくてもいいじゃん! 誰でもあるって! ほらほら、笑ってすまそうよ! あははっ!」
軍の新兵器の失敗を、まるで料理の失敗かのように軽く流そうとするリディアに対してエリアーナがこめかみを押さえながら軽く注意した。
「リディア。全員の前よ。言い方を考えなさい。」
「え~ でもザメックおじさんが話したことが全てじゃない? これ以上話すことってあるの? 説明いらなくない?」
そのリディアの回答に、今度は頭を抱えてエリアーナは右手でカイに促すように指示を出した。
「そういうことじゃないわ。まったく貴方は。もういいわ。ここからの説明はカイ、貴方がして。」
「……へ? 俺? いや、リディアも言った通りだけど説明は殆ど終わりだろ? あ。そっか。」
いきなり役目を振られたカイは驚いた顔をしつつも、何が説明されていないかに気が付き、真剣な顔で全員の前に立ち、身振り手振りを交えて説明を始めた。
「えっとだな。要するに新兵器開発の失敗であんな水の塊が生成されちまったって事らしい。幸い、ちょっと離れた森に落ちたからな。被害は特にない。ただ、どうも帝国の連中が持ち込んでた武器との相性が悪かったのかもな? 周辺に大気異常が起こったようで凍ってる地域があるみたいだ。安全が確認できるまで、しばらくはあの区域には立ち入り禁止だ。いいな!」
その説明を聞きながらセシリアはその言葉の意味を考えていた。
(やはり、魔法であることは隠すのね。でも、ザメック博士が作った新兵器……と言われてしまうと本当かもしれない、という真実味はあるわ……今ではないけれど、少し調べておかないと。)
説明が終わるとゼーレン防衛隊のメンバーたちは要塞内へと撤収していく。その様子を見て、他に集められた隊長格達も緊張を解き、各々の場所へと戻っていこうとしていた。
そんな中、セシリアは自分の列の先頭に立っていたダリルに声をかけた。
「ダリル守備隊長!」
「お、セシリア。どうした? まだ片付けきれてないか? 手伝うぞ?」
ダリルはセシリアに対してにこやかに返事を返す。その瞬間の目の動きや体の反応からダリルが何も隠し事をしていない、今回の隠ぺいには関わっていないことと判断したセシリアは、未子から提案された質問を早速、ダリルにすることにした。
「ああいえ。それは大丈夫です! これ以上ご迷惑をおかけするわけには……その。その件で少しお話が。」
「ん? なんだ? 言ってみろ。」
「私の護衛対象になった少女……ミコが、リディア様にお礼がしたいと言っていまして。」
「お! いい心がけだな! それに、あいつも喜びそうだな!」
心底嬉しそうにするダリルに申し訳ない、と心の中で詫びを入れつつ、核心を切り出す。
「そこで、リディア様が好きなものは何かと、昔からの知り合いであるダリル守備隊長なら聞けるのではないかと。」
「はーん。なるほどな。リディアにはサプライズってことか。そりゃいいんじゃないか。あいつもそういうことやるしな。たまにはされる側に回してやれ! うーん……そうだな! あいつ、たまにはあれ、飲みたいだろうしあれを持って行ってやるといいかもな!」
「あれとは?」
「お前も知ってるだろ。ゼーレンの特産品の陽光果。あれのジュースだよ。」
「あ、あれですか……? まあ、確かに全国的に有名ですよね。あのジュース。少し高いですけど。」
「そりゃな。この一帯の森でしか取れないしな。昔は外の森で採るしかなかったから、販売もできなかったけど、ここに来てすぐにリディアが目をつけてな。美味しいんだからもっと売ろうよって、エリアーナや支部長に直訴してな。ついにカッセル参謀長が折れて、特産品として量産する方向にしたって恐ろしいいわくつきのジュースなんだよ。」
(自分の、好みだからってごり押し……? リディア様はやはりスケールが違う……)
「だからあいつ自身も自信満々だし、それを知った上で用意した、なんて言ったら大喜びだろ。あいつ、結構プライドも高いしな。」
「あ、あはは……なんか、流石、リディア様ですね……しかし確かにそれは嬉しいでしょうね。それに、その話も持って帰ってあげたらあの子、もしかしたらもっとジュースに工夫するかも。いいお話が聞けました。ありがとうございました。」
「おう、いいっていいって。」
セシリアはダリルに頭を下げて、その場を立ち去った。
「……陽光果、か……リディア様がどういう意図でこれを広めようとしたのか……思い付きの可能性も高いけれど、話通りだとごり押しした時の資料とかはありそうよね……せっかくだから持って帰ってみるのもよさそうね……」
そういい、彼女は第四区画内の資料室の中へと消えていった。
それと入れ替わるように、セシリアとダリルの会話を眺めていた影がダリルに声をかけた。
カイである。彼はセシリアとダリルが話し始めた様子を見て、エリアーナに断りを入れて自分だけ残り、様子を窺っていたのである。
「ダリル先輩、ちょっといいですか!」
「お! なんだカイ! 久しぶりだな……っと。ここではまだカイ前衛隊長って呼んだ方がいいか?」
「いえ、いいです。私事なので。さっき、えーっと、確か……」
「セシリアか?」
「そう! セシリア! 最近、リディアのやつがなんか俺の部下にセシリアの事を聞きまわってるみたいなんだけど、事情知ってるか?」
ダリルはうーんと顎に手を当てて考えてから、ポンッと手を叩き答えた。
「ああ。それなら多分、セシリアが保護した女の子の件だろうな。」
「セシリアが保護した女の子?」
「詳しいことは俺も知らないが、リディアは知ってる様子だったから、深いことは追及しなかったけどお前、知らないのか? てっきり共有してるもんかと。」
「いや、知らないな……ダリル先輩、ありがとうございます!」
そういい、カイもまたダリルに頭を下げて、その場を離れた。
しかし彼は作戦会議室に向かおうとした足を止め、少しその場で考え込んだ。
(どうするか? 保護したって一体いつ、どこでだ? ことの事情によっては……エリアーナに報告するか? いや、でもリディアのことでこれ以上頭を痛められてもな……だが、先輩の言い方だとただの女の子、だよな。なら……)
カイはその場で方向転換し、第三区画へと向かって歩き始めた。
そして現在。
「あれは……カイ様ね。なんで、ここが?」
セシリアが未子に対して自分の立場を打ち明け、それぞれの作業に戻ろうとした瞬間になったインターホンの正体。
それは、カイの来訪とミコの新たな危機を知らせるチャイムだったのである。




