神様! ゴネたら情報くれますか?
ミコ宅にダリルを置き去りにしたリディアはふらりと第三区画の商店街を歩いていた。
「これでよしっと。ミコちゃんにはこれからいろいろやってもらわないといけないからね……恩は売っておかないと。さてと。ジュースだけ買って帰ろ。バルドの治療、今日ぐらいに終わるってザメックおじさんが言ってたし、お見舞いにもちょうどいいし。戦争が始まったからって、戦火がここまで来ることは絶対ないし、させないから今日はのんびりしよーっと。」
そんな彼女の肩に、ポンと手を置く人物がいた。
「リディア。こんなところにいたのね。」
リディアが振り向くと、そこには本来街中をうろつくことはない……エリアーナが立っていた。
「あっれ? エリアーナじゃん。お疲れ。どうしたの?」
「みんなに招集をかけた。貴方もよ。来なさい。」
そういうが早いか、エリアーナはリディアの腕を掴むと引きずるように第四区画に向けて歩き出す。リディアはバランスを崩しながらも、それに抵抗することなく騒ぐ。
「へ? え、ちょっと!? 事情! エリアーナ、こういう時は先に事情ー!」
「貴方は色々言い出すから事情説明は長くなる。それに捕まえるのが難しい人物への事情説明は後にするのが鉄則。貴方はどちらも該当する。」
「なにそれ、特別扱い!? ああもう、わかったって! だから引きずらないでよー!」
そんな騒がしい商店街の喧騒を他所に、ミコ宅では封印の間を含めた清掃が着々と進んでいた。
「まったく、リディアは……本当、あいつは掃除しないからな……エリアーナが何で自分で管理しろって鍵を持たせてるのかわかってるのか……?」
ダリルさん。別に帰ってもよかったのに手伝ってくれるなんて本当に律儀な人だなぁ……ん? あれ? 『リディア』? さっき確か、遊撃隊長、って呼んでたような? どういうことだろう。聞きやすそうな人だし、聞いちゃおうかな。
「あれ、ダリルさんってリディアさんやエリアーナさんのことを呼び捨てにするんですね?」
「ん? ああ。そりゃ、軍の仕事の時はきちんと階級をつけるけどさ。あいつらが4年前にこの騎士団に配属された当時は俺が先輩として面倒を見てたからな。」
「そうなんですね! だからリディアさんも頼みやすそうにしてたんですね!」
「まあなぁ。昔っからあれだから周りからは結構ごちゃごちゃ言われるけどあの無邪気さには敵わないって。あいつもそうだけど、ちょっと危なっかしいエリアーナの頼みとかも、できるだけ聞いてやるようにしてるんだよ。」
ダリルさんって面倒見のいいお兄さんって感じなんだね。リディアさんは頼りそう。エリアーナさんは……雰囲気的には……頼っててもおかしくはないけど、私が知ってるのは多分、今のエリアーナさんじゃないんだよね。話的に。
「あいつらもあいつらで自分らが上に上がったとたん、俺が実力不足だって思ってるはずなのに、第三区画の守備隊長なんて役職につかせてさ。」
ダリルさん、私の反応お構いなく話す人だなぁ……うん。リディアさん好きそう。
「そうでしょうか? ダリル守備隊長の人柄を見ての判断だと思います。この都市の、特に第三区画という経済を回す中心ともいえる重要区画を任せられるのはやはり、自分達が信用できる人であってほしい……そういう思いもあってなのではないかと。」
おお! この流れでセシリアさん、真剣なフォローを! セシリアさんにとってもダリルさんは『守備隊長』にふさわしい人なんだ。
「おだてるなよ、セシリア! お前もさ、2年前にきてもう小隊長だろ? いずれ俺の代わりに守備隊長までやれるぐらいの実力があるじゃないか! 自信持て!」
「いえ、とてもそんな……それはそうと、ダリル守備隊長?」
「ん? なんだ?」
「自然に話をしてますが、ミコちゃん……彼女の事ですね。ダリル守備隊長は彼女のことをリディア様になんと聞いているんです?」
流石セシリアさん! 大事なこと聞いてくれた! 私も気になってたんだよね!
「ん? 何も聞いてない。」
はい?
「え?」
ですよね? 何も聞いてないのに家の片づけまで手伝ってくれてるってどういうこと?
「今朝突然リディアがきて、ダリル先輩、セシリアの私物が置いてあるところを知ってるだろう、守備隊長なんだから。だからそれを持ってここへって。」
「あの。ダリル守備隊長?」
「いうな。俺だって立場があるんだ。最後に命令だなんて言われたら聞かざる得ないんだ!」
な、なるほど……立場を、利用されただけなんだ……
ふぅ。大分、片付いてきたね。もうすぐお昼ぐらいかな?
「そうだ、セシリア。荷物の片付けが終わったら召集だからな。昨日のあの水の件でザメック博士から説明があるそうだ。」
「あ、それは」
ガシッ
えっ!? セシリアさん何で私の口ふさいだの?
「はい、わかりました。守備隊長。速やかに終わらせて応じます。」
「よーし。これでこの部屋の掃除は終わりだな! じゃあ、俺は先に行くからな。」
「はい、かしこまりました!」
ダリルさんが家から出ていくまでずーっとセシリアさんの腕の中……これはこれで役得だけど、なんでこんなことされたんだろう……?
「いい、ミコちゃん。ゼーレン防衛隊が強化人間で魔法が使える。これはね。常識じゃないの。」
へ? え? 強化人間が魔法が使えること、知らないの!?
「ゼーレンではね、ここに配属された騎士団でものすごく強いからゲルド支部長の直属として編成されたのがゼーレン防衛隊。一般的にはここまでなの。」
はい!? つまり強化人間ってことも知らないってこと!?
「そもそも数年前の襲撃の時、エリアーナ様、カイ様、リディア様が帝国の主力だった魔道装甲鎧、通称フルアーマーを撃退した功績でゼーレン防衛隊はできたわけだけど……」
それは見た。トーマスさんが壊れた日のことだ……ん? 待って。その3人ってルルブ記載の3人……ま、まさか、公式は最初この話から登場人物を用意したけど追加サプリを出すにあたり設定を膨らませた結果、トーマスさんのあの夢に!? これはあり得る! これは一旦、後で考えよう。セシリアさんも呼び出しを食らってる身だし。だからこの情報だけもらおう。
「セシリアさん、それいつの話か、王国歴で教えてもらってもいいかな?」
「え? 貴方知らないの?」
あ、やばっ! そうだ、私は帝国通! ……えっと、えっと……そうだ!
「あ、いえ、違うんです! その、いっぱいありすぎてわからないからいつのって思って!」
危ない危ない……そうだよ。知らないのは私の設定的に不味い……これなら、多分大丈夫なはず。ゲルド支部長のテキストにもこう書いてあったしね……
『ゲルド』
(ゼーレンの独裁者)
ファルシア公国騎士団のゼーレン支部の支部長であり10年間、城塞都市ゼーレンの防衛最高責任者として君臨している独裁者。許されるのは幾度もの帝国軍からの奇襲を退けてきた実績からである。第一次ゼーレン事変以降は後進としてエリアーナを育成しているのか、自ら表に立つことが減っている。
幾度もってことはあのシーンだけじゃなくて、他にも何回もあったってこと。……そりゃ、帝国のこと嫌いにもなるよね。とにかく、これで誤魔化せる……よね?
「なるほど、そういうこと。確かに1度や2度どころの騒ぎじゃないものね。だからこそ、118年以降、リディア様がその……この家の先住民みたいな人達を潰して回ったわけだし……」
「ってことは?」
「118年よ。ゼーレン防衛隊が結成されたのは。」
なるほど。つまり、118年、第一次ゼーレン事変まで話の内容が飛んでいくんだね……あの神様。やっぱりこれはゴッハラです。無理です。この頻度の神託じゃ無理です。情報不足です。やっぱり追加サプリいるでしょこれ!? いや、待て待て。よく考えるんだ私。神様は一応基本ルルブだけでもなんとかなる構成にしている可能性も考えたじゃない。まあ、それでも事前通告ないのはマナー違反だと思うんだけどさ。
それはおいておいて……情報が足りないなら補えばいい……そうなるとダリルさんが帰っちゃったのは痛い。セシリアさんは今からそのダリルさんの招集に応じる……そうなると……
「あの、セシリアさん! 私、ダリルさんからリディアさんの過去話とか聞きたいなーって思ったんですけど難しいですよね?」
「え? ああ、まあそうね……ダリル守備隊長はあまりプライベートなことは話してくれないから。今日、ようやく色々話してくれたなって感じよ。貴方の雰囲気なのか、それともリディア様のペースについ飲まれちゃってたのか、どっちでしょうね?」
この様子だとセシリアさんはとっくの昔に情報収集として色々聞いてるね。一般的な内容を聞こうとしても答えてくれない気がするなぁ。でも多分これは聞いてないだろうから……
「じゃあじゃあ! リディアさんが好きなものを知らないかなーって聞いてください! ほら、こんなお家貰っちゃったわけじゃないですか~ お返しできるものならしたいです!」
「リディア様の好きなもの? 確かに、そんなのは聞いたこともないし聞きたいと思ったこともないわね……」
それはそう。人の血とか平気で答えるレベルのキャラづくりしてる人だと思うし、あまり意味がないかもしれない。ただ……リディアさんが強化人間になる前の姿をワンチャン知ってる可能性がある。その頃のことを思い出して答えてくれれば、大きなヒントになると思うんだよね。神様にクレーム言ってる暇あったら、情報を自分で取りに行かないと、このシナリオのグッドエンドは見えてこないよ。
それにしても、セシリアさん、一度出かけちゃうのか。この広い家に1人きりかぁ……今までは狭い牢屋だったし、何ができるってわけでもなかったから考えたことなかったけど、戻ってくるまで何をしよう?
……あれ?
広い家に、1人、自由、か……割と何でもできちゃう……ね。
「それじゃあ、行ってくるわね。ダリル守備隊長の話だと多分そんなに長くはならないとは思うけど……こうして仮住まいができたわけだし、今後外に全く出ないわけにもいかないでしょう? せっかくだから貴方の服ぐらい見繕ってくるわね。」
「セシリアさん、すみません。」
「気にしないで。あれは実質、この街に貴方が慣れるまでの世話を見るように、って命令だと思うし……」
私がこの街に慣れるまでの……?
「あら、どうかした?」
「あ、いえ! 気をつけていってきてくださいね! あと」
「リディア様の好きなものの確認ね。わかったわ。」
セシリアさんがばたんと玄関の扉を閉めて出て行った。笑顔で見送る、私。今までと一緒。今までも四六時中一緒にいたわけではない。だけど不思議と、『この街に慣れるまで』、という言葉だけが私の心に引っかかった。




