神様! システムは広義のシティってことでお願いします!
ゼーレンの森の奥で野営地を構築している帝国軍を見下ろせる崖の上でリディアとトーマス、そして5人のゼーレンの遊撃兵が帝国軍の動きを見張っていた。
「ところでリディア。君の信用できない情報源はどうして武器が前線にある、といったのかぐらいは教えてくれよ。」
トーマスは自らの弦のない弓の両端についている魔石の手入れをしながらリディアに問う。
「ん~ まああいつらが寝静まるまでの話題にはちょうどいっか。実は数日前に10万の兵力の構成がこんな感じじゃない? っていう予想を聞いたわけなのよ。」
リディアは自らのブーツに短い筒のようなものをセットしながら答えた。
「予想? 君が他人の予想を信じるなんて意外だね。君は自分とエリアーナとゲルドぐらいしか信じてないと思ってたんだけどね。」
そのトーマスの言葉に少し頬を膨らませながらトーマスに近づき、胸をとんとんと叩く。
「え~ それは心外。私は、カイのこともトーマスのことも、あとはザメックおじさんやバルドやサイラスも信頼してるよ?」
その言葉と仕草を見てトーマスの顔には笑みがこぼれた。
「ふふっ。そういうことにしておいてあげるよ。」
「これ以上は聞かないの?」
「君が僕のことを信用してるって言ってくれたからね。僕も君の勘を信じようと思う。後ろは任せてくれ。」
そう返事をしたトーマスに対してリディアも明るい、いつもの無邪気な笑顔で
「ありがと、トーマス。」
と答えた。
(まあ、あの話を全部するわけにはいかないしねぇ……)
それはゼーレン騎士団本部に帝国軍の襲来が伝わる1日前。
「案外、貴方って勇気あるんだね~? 昨日の今日だよ? それで呼び出すなんてさ。自分の立場分かってる? セシリアの可愛いペットちゃん。」
まあこういわれるのは想定内だよね。……笑ってはいるけど、昨日の最初の時の怖さじゃなくって、最後の方の時みたいなからかってきてる、みたいな感じかな? 大丈夫そうかな。こうやって改めてみるとリディアさんも可愛いな~ この世界、美女しかいないのかな? あ、セシリアさんが滝のように汗を流しているように見える。早く終わらせよう!
「リディアさん。昨日はご迷惑おかけしてすみませんでした! こうして大人しくしていれば命は助けてくれるって事で、お礼をしたくて呼びました!」
「それはいい心がけだね。命の恩人に何をしてくれるのかな~?」
え!? それだけなの!? 私、大げさに土下座したよ!? 突っ込もうよ! それとももしかしてリディアさんの中では当たり前!? ……うーん。リディアさん、今まで私が付き合ってきた人たちの中でも一癖も二癖も違う人だ……乃華ちゃん以上の人は初めてだよ。とりあえず、話を進めなくっちゃね。
「昨日、セシリアさんが私が10万の兵が~ って話をしてたって話をしたの覚えていますか?」
「覚えてるよ。一応、それ前提で動くことにもしたよ。」
「それは、本当ですか!? 何故そんなことを!?」
あ、つい、口に出ちゃった……いや、だって。普通、こんな不審者が言ってた情報をうのみにする?
「そんなに驚くことかな? それが嘘でもほんとでも、どうせくるんだしさ。10万想定の方がいいじゃん?」
なるほど。そういう意味合いなら納得! そして思った通りで話が早くて助かる! リディアさん、無邪気に人を殺して回る人ってわけじゃなくて、きちんと計算して動いているタイプの処刑人で確定! これなら、この情報を渡せば多分、調べに行ってくれるはず!
「そうやって動いてくれるリディアさんだからこそ、帝国軍を倒すための情報を渡したいなと。」
「帝国?」
え? あれ、目つき変わった。でもこれは私に対するやつじゃない……帝国に対するやつだ。多分。ゼーレンの人は帝国嫌いってのは知ってるけど……リディアさんのこれって嫌いとかじゃなくてなんというか……と、とりあえず……
「帝国軍は10万の兵できますけど、その武装の中に、火薬銃があるんです。」
この情報は大事なはず。魔力防壁システムってこの世界では一般的だけど、この魔力防壁って展開される結界、実は物理。だから高威力物理な銃で遠くからバンバン撃たれたら困っちゃうはずなんだよね。
「なんでそれを知ってるのかな?」
「それは、その……簡単に言うとただの帝国通でして。」
「えっと! リディア様! その件は私も確認いたしました! これ以上は追及はやめてあげてもらっていいでしょうか! 少なくとも! 帝国に与する人間ではありません!」
セシリアさん、それは逆効果あああ!! ちょっと過保護!!
「まあそうだよね。帝国軍がこんな情報を流して何のメリットがあるって話だし、ね。それで、火薬銃はどこにあるのかな? 貴方が何を求めているかは知らないけれど、そんな玩具、壊しておいてあげるよ?」
あれ、セシリアさんの過剰反応をスルー? あれ? 昨日の様子だと反応しそうだと思ったんだけど……もしかして、帝国ってワード、NGワードなのかな? なんでそこまで帝国に敵意があるかはわかんないけど、結果的にこれで良し! あ、でも……これも言っておいた方がいいかな……
「あ、でもその。その火薬銃ですね。改造されてる可能性があるんですよ。」
「火薬銃を、改造? 何それ。面白いことしてるじゃん? 帝国さんがどんな面白い玩具を作ったのか興味あるねぇ……持ち帰ってもよさそう。」
あ、なんか悪い顔してる。それでいてとても楽しそう。リディアさん、無邪気ってのは半分本当? ……うん? セシリアさん。あれ。何でちらちらこっち見てるの? あれ、なんだろう。なんか言いたそう……さっきまで怖がってたのになんか急に……ハッ!!
そ、そっか! セシリアさんからしてみたら帝国軍がどれぐらい王国軍の技術を盗んだか知るために現物が欲しいのかも! だから持って帰るって言ってるリディアさんを後押ししろと! いいですよ、セシリアさん! 私がやってみせましょう!
「リディアさん! 持って帰ってくるチャンスはあると思います! だって、多分その銃は10万の軍勢の最前線で使うはずですから!」
「そうだね、そうなるだろうね。」
本当にリディアさん、理解早いよ! 私、これ考えて貴方に伝えるために、貴方がくるまで必死に考えたんですよ! そんな瞬間で理解できるような事でした!?
「あの、2人とも、何故その結論に……?」
「あれ、セシリア。わかんないかな? ううん、この点はこの子の方が鋭いってことかな? ま、壊す話だしね! わかんなくてもしょうがないか!」
ああ、なるほど……納得……ってちょっと待って!
「リディアさーん。それだと私が壊したい人みたいです!」
「貴方は十分セシリアの日常壊してるじゃん。存在だけで。破壊神じゃん。」
「ううう……」
「えっと、その……」
しまった。セシリアさんが困っちゃった。でも破壊神でもなんでもないんだよね。何で銃を用意するんだろう、って考えた結論は魔力結界システムが実は物理ってことを思い出したからなんだけどその違和感って……
「えっとですね、セシリアさん。何で火薬銃を用意するかがポイントなんですよ。10万の軍勢に火薬銃を持たせる意味ってあります? 広い森で。」
これなんだよね。ゼーレンの森って広い。歩いてても思ったけど広い。そして結構明るい。ゼーレン側がきちんとお手入れしてるからなのか乱雑に木が生えてて日の光が入りにくいとかなくって、割と明るい。しかも
「ない……わね。障害物も多いし。この地形で出所がわからないように撃つ……これをやって得するのは少数側。つまり公国だもの……」
そう。木の本数自体はそこそこ多い。はっきり言って上から撃つならともかく横から撃つって難しい。さっきも言った通り、隠れれるような枝の本数のこされてる木も少ないから、城塞から敵影を見つけて弓を撃ってた方が強い。……と、ゼーレンの鉄壁具合を説明する文章があった。で、ここまでくると答えは割と簡単で
「銃は障害物が少ない、相手から距離が取れる場所もしくは狭い所で相手が行動が制限される場所で先手を打って相手を攻撃できる高威力武器。わざわざ攻城戦に持ち出す理由って?」
「……高威力、だから、城壁を遠くから削るため! ということですね!」
うん? リディアさんさりげなく銃を狭い所で撃とうとしました? しかも相手の行動が制限できる場所とか言いました? 銃って外したら銃弾何処飛ぶかわかんないじゃないですっけ? 私は実戦したことないからわからないけど、リディアさん、さては銃で遊んだことありますね!?
「そういうこと。火薬銃は対人じゃなくて、対要塞用。前線においてさっさと城壁落として、10万の軍勢を城壁内に入れるようにしちゃう方がいいって作戦を立てたってわけ。大分舐めた作戦よ。ま、帝国ならやるね。だからなおさら玩具は持って帰って、その玩具を解析して丸裸にした方がいいね。絶対そっちの方が帝国の連中悔しがるし!」
「ですが、リディア様。その作戦、危険では……? 10万の兵の中に突っ込んでいくわけですよね?」
「そこは気にしなくてもいいわよ。上手くやるから。さて、ミコちゃんだっけ?」
「はい! お役に立てましたか!」
「すっごく役に立ったわよ。いい子いい子。」
わっ、リディアさんに撫でられちゃった。美女からの愛撫で! 案外優しい! ……でもオカシイ。なんか撫で慣れてる感がある!!
「貴方、案外巫女かもね。今回の情報があってたらセシリアのペットやめて私のペットにならない?」
「「はい!?」」
「あははっ! 冗談冗談! セシリア、面白い呼び出しだったわ。後で貴方にもご褒美あげる。じゃ、私は仕事に戻るわね。」
そして現在。リディアはブーツの手入れを終わらせた時の座った姿勢のまま、左右の手甲の可動部を開け、魔石をはめ込む。
(そういえばセシリアへのご褒美どうしようかな? あの子、ゼーレンの事コソコソ調べてるみたいだし、いっそ、他に視点を向けてもらうっていう意味でも、ここの『玩具』をプレゼントしてあげようかしら? あの子の予想通りなら面白いものだろうし。)
「それでリディア。帝国兵が交代し始めたけど、前線で武器がある場所をどうやって見つけるつもりなんだい?」
トーマスが双眼鏡で帝国兵の目立った動きをリディアに報告する。すると
「え? んなもんもう見つけてるって。」
そういい、リディアが立ち上がった。
「もう、見つけてる?」
「トーマス。大事なものってさ。どうやって管理する?」
「それは、もちろん警戒を怠らないように……」
「じゃあ、人の出入りがない警備が厳重な所を襲えばいいよね?」
にこっと、悪戯っぽくリディアは微笑む。
「警備の分厚さと人の出入りの有無が何に関係すると?」
トーマスが眼鏡を掛け直しながら聞く。
「重要重要! お偉いさんとかがぐっすり寝るかな? なんかやり取りとかするからちょくちょく見に行くでしょ。絶対出入りが頻繁。経験上ね。逆に大事なお宝は~ 動かないから見る必要ないでしょ? 出入りはない。」
「なるほどな……本当、君はこういう事ばかり鋭い。」
手を組んで頷くトーマスの胸に、再び軽くぽんと拳で叩く。
「こういう事ばかりってのは余計だよ! さて、そうと決まったら……あそこ、襲おっか! ああ、私が指示するまではトーマスと遊撃隊のみんなは動かないでね? たっぷり楽しんでからじゃないと、私は満足できないので!」




