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カノープスの手帖  作者: あいはらしのや
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パズルのピース

 フルフューリヒ様についてオーベン伯爵から聞かされた経緯はこうだ。


 今から1週間前、伯爵領ディオーカナールにて新運河開通式典に臨席した際、領民へのお披露目がまだだったフルフューリヒ様は不参加の予定だったが、式典に際して開かれたマーケットにお忍びで来てしまった。

 世話係のメイドと執事ワルドゥズさんを店の外に待たせ一人で買い物をしていたが中々出て来ず、ワルドゥズさんが見に行くと忽然と消えてしまっていた。

 辺りを探すも居らず、店主には外に出たと言われ八方塞がり。勿論、店は隈無く探したが証拠も痕跡も見当たらなかったそう。

 今の所、犯人からの接触は無く身代金要求も無いとの事。


 これらを踏まえ、伯爵からの条件は3つ。

 1つ、猶予は3日間。

 2つ、跡取りが行方不明と悟られないこと。

 3つ、犯人は生け捕りでなくともよい。


(伯爵は僕をなんだと思ってるんだろう⋯。)



 モントはフルフューリヒ様が行方不明になったディオーカナールへ。オーベン伯領最大の貿易拠点であり運河の街。

 だが“事”が起こり直ぐ、貿易を閉じ移動手段の制限を行ったらしい。流石の判断だ。真実を隠す為、表向きは交易品の調査ということになっている。



(マーケットの場所は此処か。)


 モントは噴水の広場に来た。憩いの場は静まり返り、翻くタペストリーが物悲しい。


 モントは当日を想像し、フルフューリヒ様の幻影を追うように街を只管に歩く。


 露店には香り豊かな料理や手作りの工芸品が並び、噴水は飛沫を上げて誰かが始める音楽に老若男女が踊る。賑やかで華やかなマーケットに好奇心旺盛なフルフューリヒ様は心躍ったことだろう。


(興味のまま好き勝手動くのは僕も経験がある。グリュンヴァルトの収穫祭に参加した時迷子になって、ルーンにこっぴどく叱られたっけ。)


 広場から目に入ったのは、明かりの灯る石畳の路地。空が小さく見えるような謎めいた空間が、フルフューリヒ様にも見えたのだろうか。少しの好奇心が薄気味悪さを覆い隠し、吸い込まれるように誘われる。


(この様子じゃ“あと3日”は案外現実的な日数かも⋯。)


 足を踏み入れた路地にモントは限界を感じた。

 声が荒い男達は小さなテーブルで博打を始め、酒場では昼間から酔客の大声。


 一時的とはいえ1週間も交易を止めた事で、物流の滞りで店や物価に影響が出始め、街中に活気が少なくなっている。生計への焦りで鬱憤が溜まり、いつまで続くか不透明な不安感に漬け込む悪趣味な店が増加する。


 治安を悪くする悪循環が完成する―。



(この店だ。)


 店名は“シフ・アルゴー(アルゴの船)”という貴金属店。フルフューリヒ様が姿を消した店だ。

 店の石段を3つ上がり、モントはゴクリと唾を飲み込んでドアに手をかける。重いドアを押し込めば、鈍いベルの音が小さいモントの入店を知らせる。


 何処からか投げ遣りな翁の声がする。


「⋯いらっしゃい。子どもが買えるもんは売っちゃぁいないよ。」


 モントを目の端に捉えただけの店主は、パイプを銜え揺蕩う煙を眺める。奥の椅子に座ったまま動く様子は無い。


「見てもいいですか?」

「冷やかしなら帰んな。」


(そうだよね。なら⋯)


「プレゼントなんですけど、お母さんに。でも、あんまりお金は無くて⋯」

「⋯。」


 そっとパイプを置くと、後ろの棚から小箱を取り出す。


「この中で、選びな。ネックレスでこいつは銀貨1枚、この小さい石のなら銅貨60枚。指輪は石なしでも最低銅貨80枚までだ。緑系の石は特に入荷待ちだ。」


(たっっっっか!銀貨1枚の価値!?これが!?)


 紐は革で小指程もない小さな石は磨きが甘く、素人目にもぼやけて見える。


(エルツさんとトレーデンさんに貰ったネックレスの方が綺麗だ。)


「えっと⋯どうしようかな〜。お母さんグリーンの石が似合うんだよなぁ〜⋯。」


 悩むふりをするモントは、こぢんまりとした店内を隈無く見る。

 壁の棚には鑑定書や原石らしき物が飾られ、宝飾品のケースは店主のいるカウンターのみ。磨かれた板張りの床は、入り口からの高さのせいか少し靴音が響く感じがする。店主の背後に部屋は無い。


(閉じ込めておく場所は無さそうだけど。)


 すると、モントの足元にひんやりとした空気が抜ける。


(冷たい⋯入り口じゃない⋯何処から?)


「決まったか?」


(しまった。なんて答えようか⋯)


「お、弟が居るんだけど、勝手に決めたら怒るから聞いてみる。そういえば、弟もここに来たって聞いたんだけど同じ物を見せたんですか?」

「弟⋯?あぁ~あのチビか。この中では決めれずに帰ったよ。緑の石が良いって言ってな。」

「⋯そうですか。じゃあ僕もまた来ることにします!ありがとうございました!」


 足早に店の外へ出るモントを追うように鳴る鈍いベルの音の奥で、燻る煙が充満する。


「急いだほうがいいかもな⋯。」




 モントは次の場所に向かいながら考える。パズルのピースのような石畳の柄を一つずつ踏んでは、繋がらない謎に頭を悩ませる。


(あの店⋯何かある筈⋯でも分からない⋯。店内に閉じ込める場所は無い。なら隠して運んだ?短時間でどうやって?)


 ドンッと何かにぶつかり尻餅をついた。


「痛っ⋯ごめんなさ⋯⋯い⋯」

「何処目ぇ付けてんだ?あ゙ぁ゙ん?!」


(やってしまった!この人達は⋯)


 モントは下を向いていた為、酒場の前に屯していた荒くれ者達に気付かずぶつかってしまった。


「テメェ、わざとか!?ガキだからって容赦しねぇぞ!!」


 モントは胸ぐらを掴まれ、瞬く間に宙に浮いた。

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