表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カノープスの手帖  作者: あいはらしのや
27/30

赤子と爺

 オーベン伯爵は自身の城窓に佇み憂いていた。

 高城にいて金も地位も名誉を持ってしても、大海に落とした小さな宝石は探せず、見るもの全てが灰色になってしまった伯爵は、古の茜色に眼の前に現れた少年モントを重ね、委ねたのだった。


「旦那様。坊ちゃまは、きっと、ご無事でおられます。」

「あゝ。そうだな。」


 旦那様の短い返事に覇気がない。長いこと仕えるこの老骨にとって、旦那様のこんな姿は見たことが無い。旦那様のお考えを理解しようなど烏滸がましいが、今回は特に解せない。何故あんな小僧ッ⋯⋯少年に坊ちゃまを託されるなど⋯。お考えがあっての事であるのは重々承知しているが、此度の判断だけは()()()()()と言える。



 先代の腕のなかで眠る赤子を見たのは私が18の時。


「セーゲンだ。ワルドゥズ、これから頼んだぞ。」


 初めて歩く姿を見て、初めてお話しできるようになり、初めて学園の制服に袖を通し、初めて心を寄せるご令嬢の話を聞かせて下さり、初めて旦那様と呼ばせていただいた。

 その旦那様にお子ができた時、この老骨は坊ちゃまの為に生きていくと決めた。


 この身がどうなろうとも、坊ちゃまをお守りすると誓っていたのに⋯。


「旦那様⋯恐れながら一言申し上げてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?ワルドゥズ。」


 今も昔も名を呼んで下さる旦那様に伝えなくてはいけない。意思のない骸骨ではなく、今も昔もお仕えしお守りする為なら命をかけられる、と。


「あの少年にお任せすることに私は反対でございます。もし、その御心が変わらないと仰るのでしたら、私もあの少年と行かせてください。

 どうか老骨の戯言だと思わず、お聞き入れいただきたいのです。お守りしたいのです!」


 “たかが従者”“たかが老人”に何が出来る?⋯そう一蹴されたとて、引くことの出来ない鉄の意思だけが残るのは罪かもしれん。然し此処で切歯扼腕するしかないのなら罪人となることも厭わない。


「分かっているワルドゥズ。歯痒いのだろう?

 ⋯⋯⋯では、ひとつ命じる。フルフューリヒを⋯私の代わりに抱き締めてやってくれ。」


 オーベンは震える声を押し殺し、夕陽を背に受けその頬に伝うものを影に隠し命じたのだった―。



 ―――

 その頃キンター、シュラウス、ミュプフィア、クンペルの3人と1頭は冒険者ギルドの換金所にいた。


「馬は外に繋いで置いてください!館内に入られては困ります!」

「大切な仲間だ!預かってるんだ!」

「ブゥルルッルゥゥ!」

「うッ⋯!駄目と言ったら駄目です!」


 換金所の入り口で声を荒げるキンターに、珍しく同意するクンペルの涎が撒き散らされる。迷惑な客だ。


「キンター、俺が手続きしてくるからキンターとミュプフィアはクンペルと外で待っててくれ。」


 パーティー全員が出禁になる寸前で、シュラウスだけで手続きすることにした。


「討伐依頼の換金ですね。討伐依頼書はお持ちですか?」

「はい。これとこれ⋯」

「では、討伐対象の鑑定書⋯あ。そのまま⋯をお持ちになったんですね⋯。」


 明らかにドン引きした様子の受付嬢は、カリカリに干乾びた魔獣を小さく摘んで魔法陣へポイッと乗せる。

 光を纏って陣が発動すると、後ろに待機している書記官が1枚の紙に書き起こす、という手順らしい。


 結果を待つ間、隣の受付で冒険者と見られる一行が換金していた。物品を持っていなくとも出来る様だ。

 やり方が違うのか?討伐依頼を達成するのは初めてだから、勝手が分からない。汚物を触ったかのように手をはたき、不機嫌そうな受付嬢に恐る恐る質問する。


「あの⋯賞金案件が初めてで、証拠品が無くてもいいんですか?」

「え?まぁ簡単に言うと、鑑定書があれば良いんです。鑑定士の印が押された証書があれば、物品が無くても換金出来ます。一応討伐依頼の対象は、()()()が多いので⋯持ち込みされる方は少ないです。」

「成る程⋯。」

「お待たせしました。鑑定結果と討伐賞金です。今回はブラウエ・アウゲン討伐対象フィンス・ファンヴルムの換金で、金貨1枚ですね。両替しますか?」

「お願いします。」

「では今回の手数料10%銀貨1枚頂戴しまして、銀貨8枚と銅貨100枚か、その内の銅貨を50枚で紙幣にできますが。」

「(手数料、高ッ!)えっと、銀貨8枚と紙幣1枚、銅貨50枚で⋯。」

「かしこまりました。」


 巾着袋へ入れ、シュラウスが換金所を出ると外で待つキンター達に合流した。


「“おつかい失敗した”みたいな顔してどうしたの?」

「シュラウスくーん、できなかったのぉ?」


 ミュプフィアとキンターは留守番の腹いせに茶化してくる。本当に腹が立つ!


「あゝもう!煩い!手数料が思ったより高かったから、びっくりしただけだ。」

「君達は換金するのに証書を此処で発行したから高くついたんだ。僕なら、()()()知ってるよ?ついておいで。」


 様子を見ていたのか、話しかけてきた少し怪しげな男。こんな換金所出て直ぐ声かけてくる奴に、付いて行くわけ⋯⋯


「おう!優しいな!教えてくれるって!」


 キンターが馬鹿だったのを忘れてた。

 あっと言う間に懐柔されて、シュラウスの話など耳に届かないキンターは、クンペルの手綱を握り締めたまま街を闊歩する。


「モント〜!早く戻って来てくれぇぇええ!!!」



 ―――

「今呼ばれたような⋯?」


 モントはオーベン伯爵から与えられた情報を頼りに、街を歩きフルフューリヒを探し回っていた。


(与えられた期限は3日!何としてでも見つけないと!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ