強くすること。
シュラウスが指差した道は、すり鉢状の山頂から下へ向かって縁を回るように削られた土の道。意気込むキンターを先頭にミュプフィア、シュラウス、モント、クンペルの順で進む。
足元から吹き上げる強い風に煽られ、削られた土壁に手を付けばパラパラ音を立てて崩れる。早朝から登ってきた岩山の中とは思えないほど脆い。
「モントぉおお!壁を触らないで!俺の足元に土がくるぅうう!!」
シュラウスが冷静さを失い涙腺崩壊しつつ叫んでるが、構っていられない。道幅は2人分位だが壁が片方しか無く、ふらつけば湖のある底へと落ちてしまう。
「シュラウスさんも早くキンターさんとミュプフィアさんについて行ってください!ほら!もうあんな遠くへ⋯!」
先を歩いていたキンターとミュプフィアの背中は豆粒ほどに見える。
「そんな事言ったってぇぇえ!!風がヒューって!!!ヒューって言ってる!!」
大人気なく壁に引っ付くシュラウス。この調子では明日になってしまう。
「大丈夫ですから!その⋯アリッサさんと約束したんでしょう?そんな情けなくてどうするんですか!?」
モントの言葉にピタリと足が止まるシュラウスは、自分の頬をパンッと両手で叩き気合を入れた。
「モントぉ、ありがとうぅ。俺頑張るぅ!」
「一緒に頑張りましょう!」
まだ震える声だが一歩が力強くなるシュラウスに、モントはそっと見守ることにした。
すり鉢内の中腹辺りで待っていてくれたシュラウスとミュプフィア。
「シュラウス頑張ったな!!モントもお疲れ!」
「シュラウス、高い所駄目なのよね。いつか慣れるものかしら?」
「ごめん。二人とも待たせた。」
二人はシュラウスの弱い所もちゃんと見ていて、仲間として受け入れていた。この二人ならシュラウスをどこまでも引っ張っていけるのだろう。
3人で進む小さな一歩が、シュラウスを強くするのかもしれない。
『強くなれ。ひとりでも生きていけるように。』
モントの脳裏にはルーンの言葉が蘇った。
3人に会ってからというもの、正直“仲間”というものが羨ましくなっていた。それ以上に3人と歩んで来た道が楽しかった。
しかし、ずっと一緒にはいられない。人其々目的がある。
(僕はひとり。“仲間”は今だけ。)
モントは言い聞かせるように心で誓い、手帖の手掛かりになりそうな物を探す。
「ここからは道幅が広いですね。それにこの穴⋯鉱窟でしょうか?」
すり鉢状の内壁には、幾つも大人が入れる程の大きさの横穴が掘られている。穴の入り口にはザントルツの大きな結晶が落ちていて、鉱夫達が通った手押し車の車輪跡がある。
山頂とは違い、すり鉢の底に近付くにつれてザントルツの結晶が大きくなっているようだ。
ということは⋯⋯
(お金!稼げる!!)
モントは横穴の入り口から奥へとジグザグにザントルツの結晶を拾ってゆく。
ザントルツはとても脆いが、結晶になると純度と硬度が上がり鉱夫の小遣い稼ぎ程度には儲かるのだ。利点はもう一つ。とても軽量である事。両手位のサイズであれば、モントの力でも20個は余裕で持てる。
「あッ!こっちにも⋯あっちにも⋯」
「モント〜!?ここからは魔物討伐区域だ!離れると危ないから⋯」
キンターに返事をしようとザントルツをリュックへと詰めたところで、奥から何か音がした。地面を引き摺るようなザリザリと嫌な音。
「モント〜⋯?!危ないッッ!!!」
覗きに来たキンターが、鉱窟の奥を見ていたモントのリュックを引っ張り、鉱窟から放り出す。瞬時にミュプフィアが炎魔法とシュラウスが弓矢を放つ。
「何!?キンター!?」
「コイツだ!討伐対象の魔物!」
魔物には攻撃は当たらなかったようだ。
穴から出ることなく、再びズルズルと中に逃げ込み全体像は見ることが出来なかったが、モントの目の前まで伸びた触手が攻撃を受け、怯む様子が見えた。
「俺が討伐してくる!モントはここで待ってろ!」
「ちょっと待ってください!どんな魔物かも分からないのに、中で戦ったら穴が崩れて生き埋めになってしまいます!ザントルツの鉱窟は鉱山の中でも崩れ易いんです。」
幾ら頂上よりも硬度が上がったって他の鉱石より脆いことに変わらない。
それに鉱窟なら鉱夫達が働いているはず。だけど鉱夫達に一度も会っていない。人身被害が出ているかも知れない。
賞金が金貨1枚というのも気になる。冒険者に出すにしては多い方だ。それだけ討伐に危険が伴うということだろう。
そう言えば、男爵私兵団のヒューネ団長が魔物討伐依頼を受けているはずなのに、冒険者に賞金案件というのも食い違っている。
あのヒューネ団長が殺られた⋯?いや、そんなことはないはず。討伐依頼を私兵団から冒険者へと変えた?なら可能性はある。けど、何故⋯?
頭を振っては考え込むモントに、シュラウスが声を掛ける。
「何か気になることがあるのか?」
「分からないことが多くて⋯。情報が欲しいです。先に到着した冒険者がいないか探しましょう。」
中央の湖に向かって続く道を歩く一行は、徐々に荒れていく路面に緊張感が増していた。
鉱窟の入り口に付いた血痕、壊れた手押し車、袋に入ったままのザントルツ、放って置かれた鶴嘴⋯。鉱窟の数に対して、放置された道具の比率が少なすぎる。この穴は鉱窟だけじゃないのか⋯?
いよいよ、人に会うことなく湖畔に降りてきてしまった。一行は大きな湖を前に呆然と立ち尽くす。
碧い湖は揺れることなく、不気味にモント達を映していた――。




