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カノープスの手帖  作者: あいはらしのや
12/32

パーティーの一員

 岩肌が露出し険峻な山を軽々と登っていくのは、クンペルとキンター。モントは手綱をキンターに託して必死に岩壁を登る。シュラウスとミュプフィアはモントの後ろから登る。


 時折現れる魔獣は、鋭く突き立った2本角と長い尾を持つ鹿のようなスピッツヘルツ。山岳地帯に住み、甲高い鳴き声は縄張りの合図だ。

 戦利品としては、毛皮も肉も角も余すことなくお金になる有り難い魔獣だったのだが⋯。


「キンターさん!何で切り刻んじゃうんですか!?寒いのに毛皮が採れないじゃないですか!!

 ミュプフィアさんも何で丸焦げにするんですか!?血抜きもしてないのに今焼いてどうするんですか!

 シュラウスさん、しっかりしてください!前だけ見てれば怖くありませんから!」


 モントはなんとか登りきった岩山の開けた場所で、冒険者3人を説教する。

 キンターは提げた剣を抜くやいなや斬り刻むし、ミュプフィアは炎魔法で骨まで炭にするし、頼みの綱のシュラウスは戦う余裕が無いほどの高所恐怖症だった。


「「「すみません。」」」


 モントの言葉にしょんぼりとする三人。

 モントは「はぁ⋯。」と小さくため息をつくが、よく考えれば自分が何かできるわけではない。馬まで連れているうえ、小さいし、弱いし、戦えない。どちらかといえば足手まといだろう。


「僕こそ戦いもせず怒れる立場ではないのに、すみませんでした。パーティーの一員でもないのに口を出すなんて⋯。」


 モントの謝罪に対し、出し抜けにキンターは傍にあった巨大な岩に近付くと、一閃。長い剣を振り抜き横真っ二つに切り落とした。上半分の岩は凄まじい音を立て、山肌を転がり落ちていった。

 呆気に取られていると、キンターはつるりとした岩の切り口に触れ、叫んだ。


「モント!どうだ、凄いだろ!!

 俺はな、出会った時から俺らパーティーの一員だと思っていたんだが、モントは違ったのか?それに、モントが弱くても俺らが強きゃ良いだろ。俺は器用じゃねぇから、モントが言わなきゃ分かんねぇ!欲しいモンがあるならハッキリ言え!」


 キンターは猪突猛進で人の話を聞かないところがあるが、仲間思いで純粋なのだ。だからこそ、ミュプフィアとシュラウスが仲間になっているのだろう。

 そんなパーティーの一員として招き入れてもらったのだと実感し、責任感と嬉しさが心をじわりと熱くする。


 モントはキンターに正面から伝えた。


「キンターさん!斬り刻まないで、急所だけを狙って欲しいです!そうしたら毛皮として売ればお金になるし、少しでも体力消費を減らせるはずです。」


 キンターはモントの言葉を聞くと同時に、ひらりと岩の上に登り、辺りを見回すと何かを見つけたのか目を輝かせる。


「ヨシ!取ってきてやる!」


 キンターが岩の上から崖下へ飛び降りて行きそうになるのを、モントは咄嗟に服の裾を掴んで止めた。


(この人やっぱり人の話を聞かなすぎる!)


「今行かなくていいです!!そっちは山頂と逆方向ですし、まだ先は長いんですから体力を温存して下さい!僕達パーティーの前衛なんですから!」


 握られた裾先を見つめたかと思えば、キンターはモントの肩をバシバシ叩きながら大声で笑う。


「お前ッ!ハハハッッ!!言えるんじゃねーか!そうだ!!俺は前衛、ミュプフィアは後衛、シュラウスは後衛兼サポート。そしてモントは⋯⋯荷物持ちだ!」


(ま、そうだよね。役に立たないのは自覚してるけど少しモヤモヤする⋯)


「先を急ぎましょう。ミュプフィアさん、シュラウスさん。」


 モントはキンターが持っていた食料袋までひったくり、ふらつきながらも意地で背負うと、大きな歩幅で追い越して行く。


「あーあ、拗ねちゃった。足りないのよ言葉が。」

「仕方ない。キンターだからな。」


 ミュプフィアとシュラウスは呆れつつも哀れみ、キンターの肩をぽんぽんと叩いてはモント同様追い越して行った。


「俺、なんか悪いこと言ったか!?なぁ!馬ぁぁ〜!!」


 同意を求めるように撫で回すキンターに、上唇を捲り歯を見せる変顔をするクンペルだった。




「着いたぞ!頂上だ!」


 辿り着いた岩だらけの頂上は、対岸が見えにくい程大きな円を描くように縁を残し、すり鉢状に削れた不思議な形。

 そして、覗き込んだ円の中に小さく、鮮やかなブルーの湖面が見える。


「あれが【青い目(ブラウエ・アウゲン)】の由来よ。上から見ると瞳のように見えるの。」


 ミュプフィアが説明してくれる中ブラウエ・アウゲンを覗き込むと、湖の吸い込まれそうな美しさと、登れなくなりそうな恐怖でモントはゴクリと唾を飲む。

 シュラウスは覗き込む事が出来ず、小岩にしがみついている。


「噂には聞いてたけど綺麗ね〜。」

「お前ら、目的忘れちゃないだろうな!賞金だぜ!賞金!」


 キンターは肩を回してすり鉢内への入り口を探す。


「賞金って何ですか?」

「そういや言ってなかったか。俺らは賞金討伐に来たんだ!今回は特別依頼らしく金貨1枚だ!贅沢できるぜ!」

「私、いい宿に泊まりたい!あっでも、髪留めも欲しいし〜服も〜⋯」

「ミュプフィア、お前はもう少し節約しろ!そう言えばモントの目的はなんだ?」

「僕はアウインの瞳を探しに。」

「意外と野心家なんだな!!」

「は、はははっ⋯。」


 キンターに野心家認定され、モントは苦笑いしか出来なかった。


 不意にシュラウスのか細い声がした。


「キンター⋯ここ⋯行けるみたい⋯」


 シュラウスは震えて岩にしがみつきながら、湖のある中央へと続く通路を指差していた。

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