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カノープスの手帖  作者: あいはらしのや
14/32

最善策

 ブラウエ・アウゲンの湖畔に立ち、辺りを見回す。幾つか大小様々な岩がある。内壁にはザントルツの細かい地層の為、岩がある様子が無いことから、恐らく頂上から落ちてきた物だろう。小さいのは落ちた衝撃で欠けたものといったところか。

 しかし、ここに至るまでに鉱夫も冒険者ひとりにも会わないなんて。全て魔物に殺られたということなんだろうか⋯?



「誰も居ないわね⋯。」

「おーーーーーーーーい!!!だ・れ・か・い・る・かぁーーーーーーーーー!!!」


 キンターが痺れを切らし、突然大声で呼び掛ける。驚き耳を塞いだミュプフィアとシュラウスとモントだったが、キンターの声はすり鉢状の内壁に反響するだけで返事は無い。


「ビックリするじゃない!突然大声出さないでよ!!」

「キンター!魔物を刺激するなよ!」

「誰も居ねぇぞ?本当に賞金掛かってんのか?」

「キンターさん、今大事なのはそこじゃないです。」


 四人が言い争う中、クンペルが小さく嘶いたかと思えば、手綱を握るモントを引っ張るように駆け出した。


「クンペル!?どうしたの!?」


 クンペルは何かを感じ取り、湖の反対側へと誘導する。

 そこには、大岩の影に隠れるように左腕を血に染めた鉱夫が横たわっていた。

 モントは咄嗟にキンターを呼んだ。


「誰にやられた!?おい、おっさん!他の人は!?」


 慌てるキンターを制しながらモントは状況確認をする。


「その前に止血しないと!治癒魔法は使えますか?」

「私は無理よ!炎魔法しか使えないもの!シュラウス、回復魔法使えたわよね!?」

「俺はここまで大きな傷は治せない。打撲や小さな切傷しか⋯。」


 このパーティーには僧侶が居ない。治癒、ましてこの傷では完治は出来ない。

 鉱夫は顔面は蒼白で呻吟が小さく漏れ、動かすのは危険な状態。出血が多く意識を失うのも時間の問題だ。


 鉱夫は小さく「逃げろ⋯」と呟き、振り絞るように話す。


「幾つかの⋯冒⋯険者が来た⋯、皆⋯死ぬ⋯か⋯去っていった⋯。残ったのは⋯俺だけだ。あの⋯魔物は、どんどん⋯大きくなっている。お前⋯達も⋯逃げ⋯ろ⋯。」


 キンターは耳を近付け聞き逃すまいと、いつになく真剣だった。最後まで聞いたキンターは苦虫を噛み潰したように、小さく舌打ちをする。


「おっさん。今逃げんのはおっさんだ!」

「ッ!⋯もう無理だ⋯逃げろッ」

「んなこと出来るか!おっさんだけでも生きて帰んだよ!」


「モント、何か方法はないか?」


 キンターの想いを分かってか、シュラウスはモントに打開策を問う。ミュプフィアは面を食らったようにその様子を見ていた。モントに聞く意味があるのか理解できないようだった。


 モントは持てる限りの知恵で、鉱夫を助ける方法を考えた。


 鉱夫の近くで腕の状態を見ると、骨は折れ肘下の肉が3分の1は削げ落ちていた。先ずは止血だ。

 止血する布を探すモントに、シュラウスが鉱夫達の手拭いを見つけ持って来た。


「おじさん少し我慢してください。シュラウスさん、ここをしっかり縛ってもらえますか?」


 モントは力の強いシュラウスに頼んだ。

 シュラウスが布を引き裂いて、二の腕を思いっ切り縛ると鉱夫は痛みで叫び声をあげた。


「これで良いか?」

「ありがとうございます。

 おじさん、このままだと腕だけじゃなく、命が危ないです。なので⋯腕を切断させて下さい。」


 モントの言葉に3人は固まった。


「切断って⋯腕を落とすのかよ!?他に方法は?⋯それしか無ぇのかよ!?」

「それしかありません。今、命を繋ぐ最善策です。そこでキンターさん、ミュプフィアさんの力をお借りしたいです。」


 3人は、モントの提案を理解はできるが気持ちが定まらない様子。ミュプフィアは表情が強張り言葉も震え、猪突猛進のキンターすら図らずも手が震えている。

 モントは一刻を争う状況に簡単な説明して協力を仰ぐ。


「なんで私!?嫌よ!ひ、人の腕を切り落とすなんて⋯私には出来ない!それに炎魔法しか使えないし⋯」

「大丈夫です。その炎魔法でキンターさんの剣を極限まで熱して下さい。キンターさんはその剣で腕を斬り落として下さい。」

「俺が⋯斬り落とす⋯のか?」

「はい。キンターさんにしか出来ません。綺麗な切り口である程、傷口が腐り難いんです。あの時見せてくれた岩のつるりとした切り口⋯キンターさんなら出来るはずです!」


 モントは持ってきている薬草の中に痛み止めがあったのを思い出し、水と一緒におじさんに飲ませる。


「良いですか?命が大事です。生きて。ここにいた人達の事を伝えられるのは、おじさんしかいません。」


 口から零れる水を丁寧に拭うモントの袖をしっかりと掴み、掠れるような小さな声で鉱夫は「ありがとう」とだけ言って気を失ってしまった。


「飲ませた薬の効果か?凄いなモント!」

「いえ!気を失ってしまったので急がなくちゃいけません!では、キンターさん、ミュプフィアさんは準備を!シュラウスさんは万が一魔物が来た場合に備えて下さい!」


 モントの緊迫した様子に各々覚悟を決めたように頷いた。

 皆を囲うように防護結界を張るシュラウスと、平らな地面で鉱夫の崩れた腕を伸ばすモント。

 ミュプフィアは複数の魔法陣をポワァと出し、小さく集約することで火力を上げて焦点も合うように調整する。

 キンターは剣を抜き、ミュプフィアの炎で真っ赤になるまで熱しながら、小さく息を吐く。


「じゃあ⋯⋯いくぞ!!!」


 キンターが振り上げた真っ赤な剣は一閃の光で鉱夫の腕を断った――。

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