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第30話 陰日向者。久しぶりに和む

「へ~、葵先輩とようやく仲直りしたんですか? 良かったですね」


「あれ? 喜一に奴から聞いてないのか? アイツ。百合ちゃんにそう言う話するのかと思ってたけど」


「あ~、お兄ちゃんが口が軽い人間だと思ってます? お兄ちゃん。あれでも結構口が固いんですよ~、口と口調はすこぶる悪いけど。人の悪口は葵さん意外言わないですし」


 たしかに喜一は葵の事意外は毛嫌いしていない。つうか本当に葵と喜一の間に何があったんだろうか?


「へ~、そうなのか。言われてみれば確かにそうかもな」


「でしょう~……まあ、葵さんは近すぎますかね。光さんと……それでどれだけの女の子達が諦めたか。当の本人は気づいてないと思いますけど」


 またあの暗い顔だ。百合ちゃんは葵に対して何か思うことでもあるのだろうか?


「?……百合ちゃんどうした?」


「いえいえ~、なんでもありませんよ。なんでも~、人間は諦めが肝心って事を言いたかっただけです~……そろそろ私は上がりますね。光さん。お夕食準備しないとですし。ではでは。そろそろお兄ちゃんも戻って来ると思いますし。夕食は3人で食べましょうね~、光さん」


 百合ちゃんは慌てながら温泉から出るとそのまま脱衣場へと向かって行った。


 確かに一緒のタイミングで出るわけには行かないので、先に上がってくれて正解なんだが。


「……なんか葵に対してトゲがある言い方なんだろうな」


 俺は首をかしげながら1人でそうつぶやいた。


《早乙女家 居間》


「フハハハハ! 我は地獄から帰還して来たぞっ! 我が親友たる汐崎 光よっ! フハハハハ!」


「いや。お前。ただ塾から帰って来ただけだろう……しかも夕方の5時に出掛けて2時間ちょいで戻って来るなんて。早すぎたろう。もっと勉強しろよ」


 何かの大業を成したかの様な言い方で喜一が帰って来た。


「馬鹿を言うでないわ。勉強よりも友と過ごす時間を我は大切にするのだ。ハハハ」


「……そんな事言ってるから毎回の定期テスト赤点ギリギリなんだろうが」


「無駄ですよ。光さん。お兄ちゃんは自分の好きな事意外。全力で取り組まない人なんですから。ねえ? お兄ちゃん」


「うむうむ。流石は我が妹。我の事を良く分かっているではないか」


 この謎の兄妹同士の信頼関係は何なのだろうか? いや。家の姉や妹もなんだかんだ仲が良いから分からなくはないが。兄妹特有のノリが合うというやつだろうか?


「しかし……ふむ。良い感じに清められているな。光よ。これならば貴様の部屋に住み着くイヤらしい娘達も祓えるだろうよ。あのギャルビッチもどきとその他一名をな」


「お兄ちゃん。葵さんに対して口悪過ぎ。確かにビッチだけださ~」


「だろう? あのギャルビッチ擬きは昔から我々兄妹の邪魔ばかりしてくる厄介者にして。我の天敵……いつもナンパ野郎などとののしりおってっ! 来月の肝試しでは天誅を下してやるわ」


「うんうん。そうだね~! 頑張ってみてよ。お兄ちゃん。そんな事より。せっかくお父さん達が用意してくれた精進料理冷めちゃうから早く食べようよ」


 ……普段の葵への負の感情がだた漏れになってるぞ。喜一の奴。それを笑顔で聞き流す百合ちゃん。普段から喜一が放つ葵への呪言じゅごんを聞き慣れているんだろうか?


「ふむ……確かにそうだな。あのビッチの事で考えてる暇など我には一切無い……」


 いや。さっきまで葵への呪言じゅごんを言いまくってたろうが。


「それでは。皆さん。御一緒に……頂きます」


「「頂きます……」」


 百合ゆりちゃんの号令と共に俺と喜一は頂きますと告げた後、早乙女家が用意してくた料理を食べ始めた。


「……凄いな。どれもこれも料亭に出てくる味だ。こんな料理を毎日食べられるなんて羨ましいな。喜一と百合ちゃんは」


「ハハハ! そうであろう。そうであろう。光よ。まぁ、広い旅館の管理や庭園手入れにはすこぶる金が掛かる故。金は貯まらんがな……上手い食事は食べれる。どうだ? 我が家に嫁いで来るか? 光よ。我が妹の百合の元へ」


「うぅっ!……ゴホッ! ゴホッ!……お兄ちゃん。何言ってんの?」


 喜一の奴。本当に何言ってんだ? 俺が百合ちゃんに嫁ぐだと? 


「悪い話ではなかろう? 貴様が早乙女家に嫁げば毎日温泉に入れる。それにこれ程美味しい料理と我が妹の百合ゆりを平らげる事が出来るのだからな」


「ちょっ! お兄ちゃん。いい加減に……」


「いや。それは無理だろう。拒否する」


 俺は喜一の提案をひと蹴りした。すると百合ちゃんは……


「え?……光さん。それって私の事が嫌いに……」


 何故か悲しそうな表情で俺を見つめてくる。


「あー、いや。単純に天上天下唯我独尊男の弟になるなんて真っ平ごめんってだけだ」


「へ? ああ、そういう拒否するでしたか……私はてっきり本当に光さんは私が嫌いなのかと一瞬思っちゃいました。アハハ……」


 百合ちゃんはこう言うと苦笑いしながら俺から目を離した。


「何言ってんだ。俺が百合ちゃんを嫌いになるわけないだろう」


「へ! そ、それってもしかして私を……」


「ああ、妹の大切な親友を嫌いになるわけないだろうが」


「…………そうですか。そうでよね…そうですか。光さんって昔から朴念仁でしたね。アハハ」


 そして、悲しそうな表情を再び浮かべて……


ドスッ!

「ゴハッ?!……喜一お前。何で俺に腹パンしやがる?」


「黙れ。光よ。我は妹を溺愛するブラコンの化身。そんな妹が目の前でもてあばれているのを見て怒らぬ兄などおらぬは」


 コ、コイツ。本気で俺に腹パンしやがったぞ。


「……何言ってるのか分からないが。理不尽にも程があるだろうがっ!」


「ゴフッ……フハハハハ! 相変わらず。鍛えられた良い拳だな。親友よ……ゆくぞっ!」


「……こいっ! 久しぶりに相手をしてやる……」


 突然始まってしまったが。俺と喜一が喧嘩する際の解決方法は1つだけだ。


「「いくぞっ! オラアア!!」」


「ちょっと2人共。ご飯完食したばかりで喧嘩なんかしたらゲロッちゃうよ~」


 シンプルにお互いが気が済むまで殴り合うのだ。顔面意外をなっ!


《汐崎家 玄関前》


「痛たたっ! 喜一。お前なぁ。本気で腹パンかましやがって……」


「ふんっ! 貴様が鈍感過ぎるのが悪いのだ」


 俺は喜一と大乱闘を行った。その数分後百合ちゃんのとある介入もあり。大乱闘も沈下し。楽しい早乙女家での食事会も終え。


 俺ん家の目の前までわざわざ喜一のお母さんが車を出して送ってくれた。


「じゃあ。光君~、今後ともこのバカ息子をよろしくね」

「はい。おばさん。今日はありがとうございました」

「ぬ?」


「光さん~、お兄ちゃん寂しがり屋さんなんで時々構って上げて下さいね」

「任せてくれ。百合ちゃん。今日はありがとう」

「む?」


 車に乗る喜一のお母さんと百合ちゃんに俺はそれぞれお礼を言った。それを聞いていた喜一はどころか複雑そうな表情をしているのは何か納得がいっていない様子だった。


「成る程。我は褒められているのだな。納得。納得、フハハハハ」


 流石、天上天下唯我独尊の超ポジション人間。こちらのやり取りを何一つ理解してない。


「まあ、そんな所だな……喜一。今日は楽しかったよ。サンキューな」


「ウムウム。我が最後に清めてやった事でかなり良い身体に仕上がっているぞ。我が親友光よ。後はその身体で取り付かれている対象の身体の一部にでも触れれば貴様達は解放されるであろうよ。フハハハハ!」


 ……相変わらず。喜一は説明が長いな。


「お、おう! 頑張ってみるわ。じゃあ。また明日学校ではな」


「う、うむ……百合よ。よいのか? また会うのが数ヶ月後になるやもしれんぞ」


「う、うるさいわよ。お兄ちゃん……分かってるてばっ!……光さん。あのっ!」


 俺が自分家の玄関へと入ろうとした瞬間。百合ちゃんに話しかけられた。


「百合ちゃん? どうしたんだ?」


「はいっ! 家《早乙女家》にまた遊びに来て下さいね。夏休みとかにでも……また来て下さい。お願いします」


 百合ちゃんは握り拳を作ってガッツポーズを決めていた。いったい何の決意の表れなんだろうか?


「うん。また夏休みになったら絶対行くよ。百合ちゃんに会いにね。その時はまた美味しい料理食べさせてな」


 俺は笑顔で彼女にそう告げた。


「は、はいっ! 絶対に待ってます。夏休み楽しみにしてますねっ! 光さん。さようなら~!」


 車が動き出すなか百合ちゃんは大声で俺に手を振っていた。


「本当に明るくて元気な娘だよな。一緒にいると疲れもスゥーと抜けた来るわ……それよりも部屋に戻って。喜一が言ってた事試してみるか。どうせアイツ等。この時間は俺の部屋に入り浸っている筈だしな」


 俺は静かに玄関口の扉を開け。自室へと向かって行った。


《光の部屋前》


 静かだ。いやもう夜の9時辺りなんだから当たり前か。

 

 それにしてはいつもあれだけ騒いでいる葵がこんなに静かなんて珍し……


ガタッ!

「…………それ以上は駄目……」

「………無駄よ……これで貴女は光君を落としなさい」

「…ニヤァ……だからこんな格好恥ずかしいってば……」


 とか一瞬思ったが。そんな事はなかった。俺の部屋の扉がかすかに開いている。そして、その部屋の中は明かりが灯り。葵と彩葉の話し声が聴こえて来る。それと何かの振動音か?


「なんだアイツ等。今日も仲良くキャットファイトしてんのか?……喜一の言葉から察するに取り憑かれている方の身体一部に触れれば取り憑いている何かは居なくなるって事だよな。そして、取り憑かれている方は彩葉か」


 ……逃げられでもしたら事だ。一撃で決める。その為には。


「速攻部屋に入って一瞬で勝負を決まるっ! うおおぉぉ!! 悪霊退散悪霊退散! 陰陽キテレツっ!!」


 俺は昔流行った浄霊の歌を口ずさみながら自分の部屋へと入った。


 そして、俺は部屋の中でとんでもない光景を見ることになる。


「駄目駄目駄目駄目駄目ーっ! もう我慢の出来ないっ!」

「無駄よ。それに貴女達は私の前であんなにイチャイチャしてたんだもの。許せないわ」

「ぬぁあ?!……だからってこんな足を開かせたこんな事するなんて…こんな事。光に見られたら……恥ずかしくて死んじゃうっ!!」


「オラアア! 彩葉から出ていけ。取り憑いる何かぁぁ!!」


「あ、貴女は光君?! くっ! 何? その清い身体は……キャアア!!」

「へ? 光? いやぁ……待って待って待って~! 光。今の私の姿見ちゃ駄目ええぇ!!」


 俺が部屋へと突入し彩葉に触れた瞬間だった。

彩葉は叫び声を上げると同時にどこからともなく雨の様なものが飛び散り。


 俺、葵、彩葉の身体をずぶ濡れにしたのだった。


「………浄霊完了か?……それにしても葵。お前その姿……凄いな」

「………ヒクッ……イヤアアア!! 光~見ないでぇぇ////」

「……あら? 私。さっきまで何をしていたのかしら?」


 俺は葵の今の凄い姿をまじまじと見つめ。彩葉は正気を取り戻し。葵は何故か顔を真っ赤にして可愛く泣き叫んでいた。可哀想は可愛いって葵の事だったんだな……


 しかしさっき浄霊みたいな事をした瞬間に降り注いだ不思議な水。何かの聖水だったのだろうか?


「……あっ! 窓開けっ放し出し。 雨降ってたのか……葵。ちゃんと窓くらい閉めろよ。水浸しになるだろう」


「ち、違うわよ。あれは雨じゃなくて……ニャアア////」


 葵は何故か恥ずかしそうにベッドへと寝転がった。

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