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ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第7巻 ストアフルエリア
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第4章 徹底抗戦(4)

 真守まもりは自分が倒したラクタリストの残党をそれぞれ倒れたところの近くにあるロープに縛りつけて、遊技場で拘束した三人がそのままであることを確認してから環境整備室に戻った。そしてフィリップからの声明を聞くことになる。環境整備室にいる真守まもり達だけではなくサンクチュアリ全体に流された音声だ。


「午後七時までに我々の要求が果たされなかった場合、連盟警察等が五階まで突入してきた場合、我々が占拠している会場において魔術の使用が可能だと確認された場合、直ちに人質を皆殺しにする。魔術師として、諸君らの正しい判断に期待する」


 二階で捕まえた男の情報が正しいのならば、ラクタリストの残党は当初十三人いた仲間が五人まで減ってしまっている。さらに四丁あった拳銃も半分は真守まもりに奪われた。ラクタリストの残党としては切羽詰まった状況であるに違いない。彼らもなりふり構っていられないのだろう。


 真守まもりは特に、最後に出された条件に着目した。ラクタリストの残党が魔術の使用が可能になることを危惧しているということは、真守まもり達にサンクチュアリ内の環境を操作する手段があると把握していることを意味している。


「希望的観測ですが、支配人のダグラスさんは生存していると思います。ですが、サンクチュアリの仕組みはラクタリストの残党には筒抜けということでしょう」


 真守まもりがそう言うと、ソニアそしてバリーとベンも理解しているというようにうなずいた。ラクタリストの残党がサンクチュアリについて詳しく把握していないと考え、五階をこっそりと換気しておくという手は通じないということだ。


「とにかく、一旦クレメンスと連絡を取りましょう」


 ソニアがそう提案して、一階にいるクレメンスと伝声管で話し合う。ソニアがラクタリストの残党の残存戦力について報告した後、一階の状況について報告を受けた。


「皆さんのお陰で、一階では魔術が使用できるようになりました、少し出力が落ちますが、瓦礫の撤去作業への影響は少ないです。二階にいる人達は外へ脱出させられるでしょう」


 真守まもりもそれを聞いて安心した。あとは人質の救出である。そのためにどうして確認しておかなければならなにことをソニアが訊く。


「エヴァン・ペンドリーについてはどうなっているの?」

「指定の午後七時までにはここへ連れてくることは可能とのことです。もちろん、連盟警察もあくまで最後の手段としています」


 クレメンスは苦虫を嚙み潰したように答える。エヴァンがクレメンスの妻子を殺害した組織の一員、もしくは張本人であることは真守まもりも皆まで聞かずとも察している。名前を出すだけでも不快感が身体中をうごめくことくらいは想像にかたくない。


 間もなく午後五時半になろうとしている。猶予はあまり残されていない。


「分かったわ。私達は女の子を一人保護したこともあるから、今から二階へ行くつもりよ。そこで今後の対策を詳しく話しましょう」

「分かりました」


 ソニアとクレメンスが伝声管による通信を終える。真守まもり達は二階へ行くことになった。とはいえバリーとベンは環境整備室に残る。二人は怪我をしているからというのもあるが、換気の作業が必要になった時のために環境整備室で待機してもらった方がいいと真守まもり達は判断した。環境整備室が襲われた時のリスクは大きくなるが、ラクタリストの残党からしても今更になって環境整備室を襲う意味は薄れているだろう。


 ソニアがアリシアを連れて環境整備室を出ようとしたが、真守まもりは引き留める。真守まもりが前を進もうとしているということもあるが、ソニアに渡すものがある。


「ソニアさん。待ってください。これを持っていてください」


 真守まもりはソニアに向かって拳銃を差し出した。安全装置を掛けておりグリップをソニアに向けている。しかしソニアは拳銃を受け取ることを躊躇ためらっているようだ。


「でも、私には……」


 それでも真守まもりは左手でソニアの右手を手繰たぐり寄せて、無理矢理拳銃を握らせる。


「これはあなたの命、そしてみんなの命を救うものになるかもしれません。使わなかったらそれに越したことはありませんから、念のため、持っておいてください」


 真守まもりがそこまで言うと、まだ気が進まないのかはっきりとした態度ではないが、ソニアは首を小さく縦に振った。


「分かったわ」


 ソニアは拳銃をベルトに差す。それから真守まもり達は環境整備室を後にした。真守まもりが拳銃を構えながら前を進み、ソニアとアリシアが後をついていく。


 ラクタリストの残党が残り五人だとしたら、真守まもり達に割く戦力はないだろうが、真守まもりとしては油断するわけにもいかない。真守まもり達が得た情報が間違っていた可能性も考慮に入れている。


 それでも真守まもり達は安全に四階の商業フロアを進むことができた。ラクタリストの残党が爆破して通れるようにした非常階段まで到着する。これで真守まもり達も四階から二階の移動が自由にできるようになった。


 真守まもり達はそのまま二階まですみやかに下りた。そこでアリシアの母親を発見する。母親はアリシアを強く抱き締め、真守まもりとソニアに何度もお礼を言っていた。ゆっくりと話したいところだがそうもいかない。真守まもりとソニアは東階段へと向かった。お別れの際、アリシアは元気に手を振っていたので、真守まもりもソニアも笑顔で手を振り返した。


 さて、真守まもり達は東階段まで到着する。確かに瓦礫の撤去作業は進んでおり、まだ人が通れる穴ではないものの、一階を見通せるようにはなっていた。クレメンスによるとあと三十分もすれば人が通れるようになるとのことだ。


 真守まもり達は近くにある伝声管で一階の人達と連絡を取る。ソニアとクレメンスが話す。


「クレメンス。これから人質を救出する作戦を考えるわよ」

「はい。分かりました」


 午後七時まであと一時間と少しである。それまでに何か対策を施すことができなければ、五階の人質が全員殺されてしまうことになる。


 とはいえ突入することは非常に難しい。サンクチュアリの一階と四階の一部は魔術が使えるようになっているが、問題の五階はまだ魔術が使えない環境のままだ。ラクタリストの残党は環境が変化していないか逐一確認していることだろう。そのため突入は魔術が使えない環境の中で行わなければならず、人質の救出も容易でないに違いない。人質の何人かは救うことができるかもしれないが、大半は殺されてしまうだろう。


「とにかく、人質の救出のためには、少なくとも拳銃を無力化する必要があるわね」


 ソニアの言う通りだ。それが実現できれば人質自身が逃げられるようになり、連盟警察もイベント会場へ突入することができるだろう。


 そこでクレメンスからこんな質問が来た。


「突入と同時に、イベント会場だけ魔術を使えるようにするというのは可能でしょうか?」


 それができれば理想的なのだが、真守まもりは難しいと考える。ソニアもはっきりと答えた。


「不可能でしょうね。いくら閉じた空間でも、換気にはそれなりの時間が掛かるわ。しかも魔術が使えるようになるには大半の空気が入れ替わらないといけないらしいの」


 少し空気を入れ替えただけでは、サンクチュアリの異世界生命体が残っており、魔術の使用に重大な支障をきたすことは一階にいる連盟警察やクレメンス達もよく分かっているはずだ。よって残念だが、クレメンスの案は現実的ではない。


 次にソニアがこんな提案を出す。


「今度こそ、換気の管を使って黒い炎をイベント会場にくというのはどうかしら?」


 現在動くことができるラクタリストの残党の全員がイベント会場に集まっている可能性は非常に高い。しかし真守まもりはあっさりと首を横に振る。


「それは最後の手段に取っておきましょう。ラクタリストの残党と人質の配置が分からない以上、裏目に出るかもしれません。それに今頃、敵も換気口の配置くらいは頭に入れているでしょう」


 黒い炎がまず人質にのみ浴びせられ、ラクタリストの残党には逃げる余地があった日には目も当てられない結果を招いてしまう。敵は未だに拳銃を所持しているのだ。


 まずは拳銃を無力化するという観点で、真守まもりは考えてみる。まずは水を思いついた。イベント会場を水浸みずびたしにすればいいのではないか。しかし真守まもりはすぐに自分でその案を却下した。昔の火縄銃ならまだしも、現代の自動式拳銃は水中でも発砲できると聞いたことがある。それに大量の水でイベント会場が満たされるよりも、ラクタリストの残党が対処する方が早いだろう。まだ黒い炎を送る方がマシだ。


 ある程度の量がかれた時点で拳銃を無力化できるような物質が必要だ。


「あっ」


 そこで真守まもりひらめいた。拳銃が使えなくなるようにする必要はない。ただ、ラクタリストの残党が拳銃を使う気にならないようにすればいいだけだ。それで拳銃を実質的に使用不可となる。


 しかもラクタリストの残党にとっては馴染なじみの深いものだろう。その物質が閉じた空間にある程度振りかれることになれば、彼らはその中で拳銃を使うことがどれだけ危険かをすぐに察知するに違いない。


 真守まもりは敢えて愉快そうに笑みを浮かべながらソニアに話しかける。


「そういえばソニアさん。お昼に行った喫茶店のパン、すごくおしいかったですよね。実はあそこ、ピザもあったじゃないですか。今度来た時はピザを食べましょうよ」

「ちょっと、今はそんな呑気な話をしている場合じゃ――」


 人の命が懸かっている最中に遊びの話をしていて不謹慎だと思ったのだろうが、途中でソニアは気づいてくれたようだ。これはただの雑談ではない。真守まもりは暗に解決の糸口を示したのだ。


 ソニアも明るい顔を真守まもりに見せる。


「小麦粉ね」

「大正解です」


 閉じた空間が小麦粉で充満して、そこで拳銃を使ってしまえば、発砲によって生じる火花をきっかけに粉塵爆発が起きる。ラクタリストの残党はそう思うだろう。なにせ粉塵爆発は、彼らの指導者エヴァン・ペンドリーが魔術によって爆発を引き起こす常套手段なのだ。


 サンクチュアリの二階は喫茶店が多い。しかもパンやスコーン等、小麦粉を使った料理が主流である。二階の至る所に、大量に備えられているはずだ。


 そうと決まればと思い、真守まもりは二階のフロアへ飛び出した。そして大声で叫ぶ。


「すみませーん。喫茶店の方やパン屋さんはいますかぁぁぁあああ?」


 魔術が使えない力場に詳しい人がいるかと問うた時と違い、しばらくするとぽつぽつと手を挙げる者が現れた。

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