↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第7巻 ストアフルエリア
190/206

第4章 徹底抗戦(3)

 ソニアは女の子を追っている内に東側エリアに入ってしまっていた。とはいえその甲斐かいがあってようやく女の子を見つけることができた。女の子は雑貨店の片隅で三角座りをしている。


 女の子もソニアに気づいて小さい身体をさらに縮こませるが、ソニアは穏やかな笑顔を浮かべながらゆっくりと彼女に近寄る。


「怖がらなくていいわよ。私はあなたを助けに来たの」


 ソニアがそう言うと、女の子はすぐに立ち上がってソニアの方へ駆け寄った。そしてソニアの腹に顔をうずめるように抱き着く。


「うわぁぁあん」


 助けが来て安心したのだろう。女の子は泣き出してしまった。ソニアは女の子の頭を優しく撫でる。やがて女の子は落ち着いたようで、顔だけ出してソニアを見上げる。ソニアは柔らかな口調で女の子に話しかける。


「私はソニア。あなたの名前は?」

「アリシア」

「お父さんやお母さんはどうしたの?」

「お母さんはたくさんの人達に流されちゃった」


 四階や五階から下の階へ逃げる人達の波に逆らえず、そのまま二階へ行ってしまったのだろう。アリシアを探す母親がいたはずだが、サンクチュアリはそれなりに広いので、アリシアの話はソニアの耳には届かなかったのだろう。四階に行くことにばかり気を取られて、迷子のことなど考えなかったことをソニアは反省する。


 パン! パン! パリン!


 そこで西の方角から銃声が何度も鳴った。何かが割れる音も同時に聞こえる。ラクタリストの残党がそこにいて、誰かに拳銃を撃っているのだろう。ソニアはアリシアと一緒に身を低くする。銃声が一旦止んだかと思われたが、再び連続で銃声が鳴り響いていた。それも終わると、それ以降は銃声が聞こえることはなかった。


 真守まもりがラクタリストの残党と接敵して、拳銃を撃ち合っていたのかもしれない。ただ、銃声は環境整備室よりもフロアの中央に寄っているようにソニアには聞こえた。真守まもりのことが心配だが、まずはアリシアを安全なところまで連れて行かなければならない。


「とにかく、私について来て」


 ラクタリストの残党が攻めてくる場所ではあるのだが、魔術が使えないこの場所よりは比較的安全であることは間違いない。ソニアはアリシアを連れて環境整備室へ戻ろうとしたが一足遅かった。


「お前達。何をしている」


 ナイフを持った男がソニアの方へ歩み寄ってきた。アリシアの悲鳴を聞いて東側の様子を見に来たのだろう。どうやら一人のようだが、魔術も使えないこの状況では、ソニアにとってはナイフを持った成人男性というだけでも脅威である。


「きゃぁぁぁああああ」


 アリシアは悲鳴を上げて、ソニアの後ろに隠れる。男は不快そうな顔をしたものの特にとがめることもなく、じろじろとソニアのことを観察している。


「お前がジェーンか? アジア系だと聞いていた――」


 そこで男が気づいたようだ。この男も一応はテロリストの一員だ。メイスラで有名な防犯組織の長の人相くらいは覚えているのだろう。


「お前、ソニア・ヘンシェルだな。やっぱりここに来てやがったか」


 この男がサンクチュアリとソニアの黒い炎の関係性をどこまで把握しているかは分からないが、ソニアを野放しにするべきではないとは考えるだろう。ここで捕まるわけにはいかない。ソニアは警棒を取り出して男の方へ向けた。


「止まりなさい。でないと警棒で殴るわよ」


 ソニアは警告するが、むしろ男は愉快そうに笑った。警棒を少しも怖がっていない様子だ。むしろソニアが拳銃を所持していないと知って安堵したのだろう。


「そんな棒切れで俺の相手をしようってのか。まあ、ヘンシェル教会のご令嬢が、拳銃なんて危ないものを持てるわけがないよな」


 この局面で出さないということは男も拳銃を持っていない。それでも男は凶器を持っている。扱いにも慣れているように見える。一方ソニアは武器の訓練を受けたことはあるものの、警棒を巧みに扱えるわけではない。リーチの有利を活かせる自信もない。やはり普段から魔術に頼りきりである現実を痛感せざるを得ない。


「心配するなって。殺しはしねぇよ。ただ、ちょっと協力してもらえれば、俺達の願いが叶えてもらえるかもしれねぇんだ」


 ソニアだけならば走って逃げるという選択肢もあったが、今はそばにアリシアがいる。彼女を連れて逃げてもすぐに追いつかれるだけだろう。ソニアが男に立ち向かうしかない。アリシアがソニアのスカートを引っ張る。


「お姉ちゃん。怖いよぉ……」

「大丈夫。お姉ちゃんが守るから」


 ソニアがそう言った次の瞬間、男はナイフを持った手を振り上げた。相手の攻撃に備えて、ソニアは警棒をしっかりと握る。


 パアァァン!


 銃声が聞こえた頃には、男の手からナイフが弾き飛ばされていた。男の手のひらが銃弾に貫かれたようだ。西側の方向から、真守まもりが拳銃を男に向けながらやってきた。


「手を上げて両膝をつきなさい」

「いてぇよぉ!」

「やかましい。九ミリで手のひらを撃たれたくらいでガタガタわめくな」


 そう言いつつ、真守まもりは男へと歩み寄る。男が静かになって真守まもりの命令通りの体勢になった頃には、男の真後ろまで来ていた。


「あんたがジェーンか?」

「発言は許可していませんよ」

「頼む。命だけは助けて――」


 男の命乞いが終わるのを待たずに、真守まもりは警棒を取り出して男の後頭部に叩きつける。それで男はうつ伏せになって倒れた。気絶したようでぴくりとも動かない。


 真守まもりは拳銃と警棒を腰に収め、ソニアの方に振り返る。ソニアも警棒をスカートのベルトに差して、笑顔で真守まもりを迎える。


「ありがとう真守まもり。また助けられたわね」


 ソニアは感謝の意を述べるが、真守まもりはそれを無視するように、険しい顔のまま早足でソニアに接近する。そして右手を大きく振りかぶり、ソニアの頬を平手で叩いた。


「無茶をするなって私が言ったの、もう忘れたのですかっ!」


 真守まもりが怒るのはソニアにも分かる。確かにソニアは無謀な行動に出た。アリシアが四階にいることが分かってすぐに身を投げ出した。環境整備室と隣の小部屋以外は魔術が使えず、四階フロアには拳銃を持ったラクタリストの残党が来ることも承知の上の行動だった。しかしソニアにも言い分がある。


「アリシアを、この子を放っておくわけにもいかないでしょ。見捨てろって言うの?」


 真守まもりもアリシアの悲鳴を聞いたはずだ。ソニアが助けに行かなければ、アリシアはラクタリストの残党に捕まっていたに違いない。ヘンシェル教会として、これ以上人質となり命の危機にさらされる人を増やすわけにはいかなかった。


 アリシアをよそに、ソニアは真守まもりにらみ合う。いくら助けられたからと言っても、ソニアにも譲れない想いはある。真守まもりもまだ言い足りないようだ。


「そうではありませんが、もっと、やりようがあったでしょう。その子を探しに行く前に、私に声を掛ければよかったじゃないですか」

「そんな時間はなかったのよ。だいたい、真守まもりだってラクタリストの残党と戦っていたのでしょう。私に無茶をするなと言っておいて、自分のことは棚に上げないでよ」


 しかも真守まもりは銃撃戦まで行っていたに違いない。それこそ無謀な行動であるはずだ。ソニアの言葉を聞いて、真守まもりは呆れたように深い溜息をつき、苛立ちを露わにした口調で答えた。


「それはラクタリストの奴らをできる限りソニアさんの方へ行かせないためです」


 そこでソニアは気づいた。真守まもりは負わなければならないリスクを負ってラクタリストの残党と戦っていたのだ。勝手な行動をしてしまったソニアを助けるためだ。さらに真守まもりは西の方を指を差す。


「私は三人と交戦して倒してきました。一人は拳銃を所持していました。その三人の方がソニアさんのところへ来ていたら今頃どうなっていたと思いますか。絶対に捕まっていたでしょうね。もしかしたら拳銃で撃ち殺されていたかもしれません」


 真守まもりは真下を指差して訴えかけてくる。対するソニアは既に自分の非を認めていて、気勢きせいがれてしまっていた。


「ちゃんと聞いているのですかっ」


 ソニアが少しうつむき加減になっていたところを真守まもりは見逃さなかったのだろう。罪悪感にさいなまれるあまりに真守まもりの話を聞くことに集中できていなかったことはソニアも自覚している。


「ええ、聞いているわ」


 真守まもりは依然として険しい顔でソニアの判断が誤っていたことを指摘し続ける。


「ソニアさんが持ち場を離れた所為で、バリーさんとベンさんが危険な目に遭ったかもしれなかったのですよ。そういうことも考えられなかったのですか」


 真守まもりの言う通りである。ソニアは何も言い返すことができなかった。自分の軽率な判断が、仲間を危険にさらしてしまう。これまでにも犯してしまった過ちだ。


「そうやってエヴォーダーでも、みよ君やヘンシェル教会の人達の前で無茶をして、迷惑を掛けたのでしょうね」


 そう言ってから、真守まもりは間違えたことに気づいたように目を見開き、そして先程まで怒っていたことが嘘のようにしおらしくなってしまった。そこへアリシアが庇うようにソニアの前へ出る。


「やめて。お姉ちゃんをいじめないで」


 アリシアの言葉を聞いて、真守まもりは「うっ」と言葉を詰まらせる。幼いアリシアが勘違いしていしまうのは無理もないが、真守まもりはただ当然の主張をしたまでだ。エヴォーダーのことにしても、真守まもりは何も間違ったことを言っていない。むしろそれからしっかりと反省できていなかった自分が悪いとソニアは思っている。


「アリシア。いいの。このお姉ちゃんは私がダメなことをしてしまったから叱ってくれているの」


 ソニアはアリシアを離れさせてから、しっかりと真守まもりの方を向いて頭を下げた。


「私が間違っていたわ。ごめんなさい……」 

「私も、言い過ぎました。特に、エヴォーダーのことは口に出すべきではありませんでした。すみませんでした」


 ソニアも真守まもりも気まずそうにお互いを見つめる。しばらくするとお互いに少し苦い感じだが笑みも浮かべるようになった。


「ほら、私達、ちゃんと仲直りしたわよ」


 ソニアがそう言うと、アリシアもにっこりと笑う。真守まもりも同じように頬を緩ませていたが、すぐに真剣な面持ちに戻る。まだ事件は終わっていないのだ。ソニアも気を引き締め直した。


「そうですね。とにかく、無事でよかったです。アリシアちゃんを環境整備室まで連れて行ってあげてください。私は倒した奴らを縛ってから戻ります」

「ええ、分かったわ」


 こうしてソニアと真守まもりはそれぞれの行動に移る。ラクタリストの残党を返り討ちにしているものの、五階にはラクタリストの残党が半数以上が残っていて、しかも人質は捕まったままだ。戦いはこれからも続く。


 ソニアはアリシアの手を引いて、環境整備室へと移動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。