↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第7巻 ストアフルエリア
189/206

第4章 徹底抗戦(2)

 真守まもりは環境整備室から少し離れたところで隠れていた。ラクタリストの残党が攻めて来た時に、後ろから奇襲を仕掛けるためだ。しかしその作戦は呆気なく破綻してしまうことになる。


 非常階段の方向で爆発が起こった。ラクタリストの残党が爆弾を使って封鎖された扉を破壊したのだろう。そこまでは想定内のことだ。


 しかしその直後、女の子の悲鳴が鳴り響いた。四階に取り残された子がいたようだ。それから走り去っていく足音も聞こえてきた。女の子の後を追う足音も続いていく。ソニアが持ち場を離れて、女の子を助けに行ってしまったようだ。


「あの馬鹿、何しているのよ……」


 と真守まもりなじりたくなった。もしかしたら声に出ていたかもしれない。あまりにも危険な愚行なのだが、ソニアの性格を考えると女の子を放っておくという選択肢はないのだろう。


 だからと言って真守まもりまでのこのことついて行くわけにはいかない。魔術が使えないソニアと女の子の二人を守りながら戦う自信を持てる程、真守まもり己惚うぬぼれてはいない。それよりもできる限り多くの敵を引き付けた方がいいと判断した。


 真守まもりは四階の中央へ行って、ラクタリストの残党を迎え撃つことにする。雑貨屋が並び、四階の中では潜伏と奇襲に適していると言える場所だ。非常階段で何かを打ち付けている音がすることから察するに、ラクタリストの残党はまだ四階へ侵入することはできていないのだろう。


 その間に使えるものはないか探っていると、真守まもりは今の状況にはちょうど良いものを発見した。地下にあるメイスラでは重宝されるものだ。それを使わせてもらうことにする。代金は事件解決後に払えばいいだろう。


 いくつかの準備を終えると、真守まもりは雑貨店の中に身を潜めた。それから瓶を、自分のいるところから近くも遠くもない、少し西に寄った場所へ放り投げた。これでラクタリストの残党の何人かはこちら側へ来てくれるだろう。


 いよいよラクタリストの残党は封鎖を突破できたらしく、足音が近づいてきた。数は三人。ゆっくりと進んでいる。真守まもり側も拳銃を持っていることは知っているので、慎重になっているようだ。


 さすがに自分達が一方的に相手を狩る立場だと油断する程の馬鹿ではないらしい。その認識は正しい。真守まもりも残党狩りをするつもりで、この戦場に来た。


 真守まもりは拳銃と剣状の警棒を装備している。予備の警棒と二本のナイフを持っているが、あくまで一本の警棒を主武器として戦うつもりだ。環境整備室の近くに警備員の控室もあり、警棒はそこから借りてきた。鉄製であり、それなりに硬い。刃がないとはいえ、頭に当たると痛いどころの話ではないだろう。実際にバリーとベンもこの警棒を使ってラクタリストの残党を簡単に気絶させていた。


 これらの装備、そして雑貨屋にあるものとこの場所を利用して、真守まもりはこれからラクタリストの残党と戦わなければならない。


 遊技場もそうであったが、雑貨屋が並ぶエリアも照明が少し弱い。簡素なランタンの火で照らされているだけだ。真守まもりも元々夜目(よめ)が利くためあまり気にならなかったが、地上の人にとっては薄暗く感じるだろう。


「何かが割れる音がしたのはこの辺りだったな。ジェーンって奴がいるかもしれない。クライド達から拳銃を奪った奴で、しかも今も持ってるはずだ。用心しろ」


 真守まもりは棚の陰から盗み見る。一番背の高い男が拳銃を所持しており、残りの二人はナイフを握っていた。拳銃を持った人間が二人以上来なかったことは真守まもりとしては僥倖ぎょうこうである。とはいえ二階で捕まえた男の話を信じるならば、現在ラクタリストの残党が所持している拳銃は三丁だ。彼らの立場になって考えると、イベント会場の人質を抑えておくためには拳銃を持った人間が二人は欲しいところだろう。


「お前ら、辺りを探せ。ジェーンを見つけたらすぐに俺を呼べ。俺が黙らせてやる」


 捕まったら何をされるのだろうとそんなくだらないことを考えつつ、真守まもりは三人の行動をうかがう。すると一人が他の二人から離れて、真守まもりの方へと近づいてきた。拳銃を持っていない方だ。真守まもりとしてはむしろ拳銃を持っている方が来てほしかったが仕方ない。


 真守まもりは音を立てることなく、その男が通る道へ接近する。男は棚が並ぶ雑貨店だ。真守まもりからも、そして仲間の二人からも見えないところへと入っていく。真守まもりはその隙を見逃さなかった。


 素早く男の背後に忍び寄り、男の後頭部を警棒で強打する。男は悲鳴を上げる間もなく倒れた。おそらく死んではいないだろうが、これで死んでも仕方ないと思えるくらいの力で真守まもりは殴った。真守まもりも命が懸かっているのだ。テロリストに対して命を保障してあげる余裕はない。むしろ拳銃で撃たないだけで感謝してほしいくらいだ。


 本心では、真守まもりはラクタリストの残党を殺害したいくらいだ。そもそも真守まもりが拳銃を持っていて、相手が真守まもりの居場所を察知していない今、拳銃を持っている男も簡単に殺せる。ここが日本の霊体顕現区域で、相手が反体制派の戦闘霊媒ならば、本当に殺しているところだろう。


 ここはメイスラだ。当たり前だが、日本霊媒連合の後ろ盾はない。ここで正当防衛だからと言って下手に人を殺してしまうと、今後の生活に何らかの支障をきたしてしまう恐れがある。拳銃を使えば尚更だ。だから真守まもりは極力、殺生せっしょうはしないと決めている。それでもどうしようもならない状況になれば遠慮なく銃口を敵に向け、引き金を引くつもりだ。


「なんだ」


 男が物音に気付いて近づいてくる。真守まもりは今いる雑貨屋から出て細い通路へ向かった。敢えて足音を少しの間だけ立てた。残り二人を誘導するためだ。再び足音を消して、また別の雑貨店に身を潜める。


 やがて二人が姿を現した。そして真守まもりが想定した通りの場所に二人が立つ。それを確認した瞬間、真守まもりは握っていたロープを思いっきり引っ張った。棚の上にあるバケツに繋がっており、その中身が二人の男の頭上にぶちまけられた。


「うおっ、何だ?」

「くそっ、めた真似を……」


 二人が頭に掛けられた液体に気を取られている間に、真守まもりは次の行動に移る。拳銃を取り出して、発砲を始めた。しかし男を直接狙ったわけではない。


 パリン! パリン!


 真守まもりは移動しながら、次々にランタンを打ち壊していく。ランタンの本体というよりは中にある蠟燭ろうそくをひたすら狙った。いくつかは外してしまったが、大半の灯りは消すことができた。真守まもりが連射している間は二人は身体を低くして待機していたようだが、その間に二人の周囲は暗くなってしまった。


 しかし真守まもりからは二人の場所がはっきりと分かる。二人の頭にかぶせたのは夜光塗料だった。地下の国であるメイスラでは便利なことだろう。魔術で再現することは難しいはずだが、専門の特殊属性を持つ魔術師が作っているのだろうか。それとも地上からの輸入が許されているのかもしれない。


 二人に浴びせられた塗料の量はそれほど多くはなく、当の二人は塗料の灯りを頼りにしても周囲をよく視認することはできないだろう。


「ひ、ひぃぃぃいい」

「おい待て!」


 拳銃を持っていない方の男が錯乱して走り出した。灯りがある方へ向かっている。しかしその先には真守まもりが待ち構えている。男達の近くに灯りを残している場所を敢えて作っておいた。


 男が通り過ぎようとしている通路のそばにある棚、真守まもりはそこに身を隠していた。銃の射線に身を出さないことを注意しつつ、左手に持った警棒で男の足を払う。男はあっさりと転びそうになる。そこへ真守まもりが右手にもう一本の警棒を持ち、男の後頭部に振り抜いた。受け身も取ることができず男は顔面と後頭部を強打し、そのままぴくりとも動かなくなった。


「そこか」


 少し遅れて残り一人が真守まもりが隠れている棚へ銃弾を撃ち込む。既に真守まもりはその棚から離れており、棚に隠れながら男の所へ回り込もうとする。ところで倒れている男に銃弾が当たるのではないかと真守まもりは思ったが、それでその男が死んだとしても真守まもりは責任を感じることはないだろう。


 とくかく残り一人の男は仲間のことを考えられない程に激昂してしまったようだ。


「くそっ、このクソアマ。ただじゃおかねぇぞ」


 そう言いつつ男は銃を乱射している。しかし真守まもりがいる場所とは全然違う方向を撃っていた。真守まもりはただ、男がかぶった夜光塗料を盗み見ながら、弾切れを待てばいいだけだ。


 カチッ、カチッ!


 ついに男は弾を撃ち尽くしてしまう。マガジンを持っているようだが、暗くて手元がほとんど見えないためかポケットから取り出すことはできても、再装填することに手間取っていた。もちろん真守まもりが再装填を許すわけがない。男がポケットに手を伸ばした瞬間から、真守まもりは駆けていた。


 男は再装填に気を取られていたため、真守まもりの接近に気づいたのは、真守まもりが目の前で警棒を振り上げている時だっただろう。


「てめ――」


 男が何かを言い終えることもなく、警棒が男の顔面に叩き込まれる。真守まもりの容赦のない一撃が男に膝をつかせた。真守まもりはそのまま二撃目を加えようとしていたが、その前に男はうつ伏せに倒れて動かなくなった。さすがに銃を持ったものにはなりふり構っていられなかったとはいえ、やりすぎたかと真守まもりは心配になる。拳銃とマガジンを拾うついでに、一応男が息をしていることは確認した。


 とにかくラクタリストの残党を三人倒すことができたが、四階にはまだ誰か来ているかもしれない。二階で捕まえた男の話を信じるならば、敵は残り六人で、来ても一人か二人だろうが、ナイフを持った敵を、魔術が使えないソニアが相手にできるとは到底思えない。それに遊技場で縛った三人が解放されてしまう可能性もある。


 真守まもりは明るい場所に移動しつつ、拳銃を再装填する。ランタンを破壊するために銃弾をかなり消費したが、さらに銃弾を補充することもできた。できれば今倒した男達を縛っておきたいところだが、まずはソニアと女の子の安全を確認することが優先だ。そしてすぐにその判断が当たっていることを知ることになる。


「きゃぁぁぁああああ」


 幼い女の子の悲鳴が東側から聞こえた。真守まもりが恐れていた事態が本当に起こってしまったようだ。ラクタリストの残党は二手に分かれて行動していたのだろう。最悪の場合、ソニアと女の子が遭遇した敵が拳銃を持っていることもあり得る。


 真守まもりはソニア達を救出するべく、悲鳴がした方向へとすみやかに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。