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ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第7巻 ストアフルエリア
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第3章 作戦開始(3)

 ソニア達は遊技場へ出る前に、ラクタリストの残党の三人をビリヤード場に拘束しておいた。三人とも両腕を後ろにした状態で両手首に手錠をかけ、ビリヤード台のそれぞれ別の脚にロープで縛りつける。口もテープでふさいでおいた。目が覚めても、自力で拘束を解くのは非常に困難だろう。


 そして西階段に来る。ラクタリストの残党は下りてきておらず、真守まもり達は順調に西階段を封鎖することができた。これで四階の出入口は全てふさがれ、余程の強行突破でもされない限り四階に侵入されることがなくなった。


 これでラクタリストの残党に邪魔されず、換気の作業を行うことができるだろう。しかし五階にいるラクタリストの残党は四階の異変に気づいているだろかとソニアは思う。銃声は聞こえたに違いない。四階の三人は無線機のたぐいを持っていなかったが、サンクチュアリにある伝声管を使って連絡は試みるはずだ。銃撃があったにもかかわらず連絡が途絶えることを五階にいる彼らが不審に思うだろう。


 二階で捕まえた男から聞いた人数からして、四階にこれ以上の人員がかれていることは考えにくいが、それでも真守まもりが銃を構えながら先陣を切って慎重に進んだ。ありがたいことに遊技場を出てからラクタリストの残党とは一度も遭遇せずに目的地までたどり着いた。


 バリーとベンが環境整備室と呼ぶその場所は、細長い部屋だった。幅は人が五人並べる程度なのだが、百メートル以上は続いている。部屋というよりは狭い廊下だという印象だ。建物の内側に向う壁には穴が何個も並べられている。これらが換気口なのだろう。


 これから換気を行って、サンクチュアリを魔術が使える環境に変える。しかし急に五階の環境を変えてしまうと混乱を招き、人質が殺傷される事態を引き起こしかねない。まずは一階から四階を換気することになった。


 バリーとベンが換気の作業を行っている最中、ソニアと真守まもりは入り口の前で見張りをしていた。ふと真守まもりが拳銃をソニアに見せてくる。


「ソニアさん。今のうちに拳銃の使い方を説明しておきますね。ここに安全装置というものがあってですね、レバーをこっちにすると銃が撃てなくなります。使うときはレバーをこっちにして引き金を引いてください」


 真守まもりが拳銃の機能を丁寧に説明してくれるが、ソニアにも主義主張というものがある。


「待って。教えてくれているところ悪いけど、私は拳銃なんか使うつもりはないわよ」


 ソニアは魔術師だ。魔術師の矜持として、科学技術によってもたらされた武器に頼ることは許されない。それは魔術が使えない環境に置かれても変わらないはずだ。真守まもりに拳銃を使わせている時点で、矜持が守られているか怪しいところだが、せめて自分自身は魔術師の矜持をまっとうするつもりだ。


 しかし真守まもりはソニアの主張に納得していないようだ。


「ソニアさん。もしかしたらソニアさんが使わなければならない場面が訪れるかもしれません。そうしなければ無実の人が殺されてしまうかもしれません。そんな時まで、魔術師の生き様に拘るというのですか?」


 真守まもりの言うことにも一理あると、ソニアは認めるしかなかった。理不尽に苦しめられている人々を助けるために、ソニアはここにいる。真守まもりはそこまで意図していったわけではないだろうが、人を助けるために、ヘンシェル家の魔術師としての地位を捨てなければならない事態に陥るかもしれない。


「分かったわ。続けて」


 それから真守まもりは再装填の方法や構え方など、拳銃を使用するために必要な知識をソニアに説明した。使える自信は全くないのだが、それでもソニアは真剣に真守まもりの説明を聞き拳銃の使い方を覚えた。


 説明を終えると真守まもりがこんなことを訊いてくる。


「まあ、使わないに越したことはないのですが、もし拳銃を使ったとして、どんな罪に問われるでしょうか?」


 地上の世界でも、銃の使用自体が罰せられるだろうが、こと魔術国家においてはおそらく地上よりも厳しいだろうとソニアは思っている。


「私も細かい法律までは覚えていないから、それを前提に聞いてね」


 真守まもりうなずく。今度はソニアが説明をする番だ。


「拳銃などの銃火器をメイスラに持ち込み、もしくはメイスラで使用すれば、その時点で死刑または終身刑よ」

「えっ、有期刑はないのですか?」

「ないわ」


 ソニアの答えを聞いて、真守まもりは短い悲鳴を上げる。魔術国家メイスラに銃火器を入れてしまうということは、魔術国家の秩序を根底からくつがしかねない、あまりにも重大な犯罪だ。刑の重さは妥当だとソニアは思うが、真守まもりの懸念はそこではないらしい。


「じゃあ、このまま銃を使ったら一生牢屋か絞首台ですか? 私が使うと言った時に、そういうことはちゃんと言ってくださいよぉ」


 後に真守まもりを安心させるために、ソニアは先に悪いことを言い尽くすことにした。


「ちなみに銃火器で人を傷害しても死刑または終身刑、銃火器を用いた殺人または傷害致死の場合は死刑のみよ」

「まあ、当然と言えば当然でしょうけど……。さすがに、テロリストと戦ってそんなことになれば困りますね」


 そんなことにならない可能性が高いので、真守まもりが拳銃を持つことをソニアは止めなかった。


「もちろん、魔術であったとしても殺人は死刑または終身刑よ。まあ、この場合は有期刑もあり得るけどね。それでも魔術連盟が認める場合や、正当防衛である場合は罪に問われないわ」


 地上の世界、真守まもりの故郷である日本でも似たような仕組みになっているはずだ。自分や他人の生命に差し迫った危険があり、それらを守るためにやむを得ない行為だったのならば、たとえ対象を殺傷してしまったとしても無罪となる。


「今回のケースはあまりにも前代未聞だから、確実にそうなるとまでは言えないけど、魔術の使えない環境で、相手が拳銃を使っているのなら、事件解決や正当防衛のために拳銃を使っても免罪されると思う」

「そうであってほしいですね」


 真守まもりは苦々しく呟きながらも拳銃を手放そうとはしていなかった。サンクチュアリに閉じ込められた人々のために覚悟を決めたのだろう。もっとも自分だけ助かりたいという人間ならば率先してソニアについて来たりはしない。


 それから真守まもりが話題を変えてきた。


「ところで拳銃や爆弾がメイスラに持ち込まれてしまったわけですが、ラクタリストの残党はどうやって密輸したのでしょう」


 メイスラに来て一年しか経っていない真守まもりが不思議に思うくらいだ。ソニアも内心ではかなり困惑している。


「そうね。あの国境門を通るなんて並大抵のことじゃないわ」


 地下にある魔術国家メイスラと地上を繋ぐのは一本の地下通路であり、その途中で国境門という輸出入や出入国を厳しく取り締まる機関がある。特にメイスラへ入る人と物に関しては徹底的に検査される。検査には魔術だけではなく霊体も利用されるらしい。また、国境門の職員は機械類にも詳しいはずだ。そんな国境門の監視をすり抜けて、銃火器をメイスラに密輸することは通常では考えられない。


「検査する人を買収したのではないでしょうか?」

「それが一番あり得そうだけど、やっぱり考えにくいわね」


 ソニアと真守まもりは首を傾げる。二人とも国境門を何度も通ったことがあるが、国境門の内情を深く知っているわけではない。あれこれ考えても仕方ないと思ったのか、真守まもりが発想を切り替えた。


「でも爆弾は、時限式をどう作ったのかは一旦置いておくにしても、爆薬を魔術で作ればなんとかなるんじゃないですか?」


 悪くない推理だが、魔術師のソニアからすると少し安直だと評価せざるを得ない。


「まあ、絶対に不可能とは私が言えたことではないけど、爆薬になるような化学物質を喚起するのはハードルが相当高いわよ」


 ソニアは化学物質の詳細を知らないが、爆薬に必要な成分は存在率も収束率も低いに違いない。喚起するには莫大な魔力と時間を要するのは想像にかたくない。


「それじゃあ、拳銃や、簡単な時限装置を魔術で再現することも難しいでしょうか?」


 真守まもりの疑問は魔術師にとっては無茶苦茶もいいところなのだが、現実にメイスラ内で拳銃や時限式の爆弾が持ち込まれている以上、考慮するべきことなのだろう。


「私の知る限りでは無理だけど、魔術もまだまだ発展していっている。喚起の過程で、しっかりとした質量を持った固体を形成できる魔術師を、真守まもりも見たことがあるでしょ。魔術で拳銃を作れたとしても不思議じゃない時代になってきたかもしれないわ」


 それを魔術の発展か、それとも魔術の冒涜ぼうとくか、どちらに捉えれば良いのかソニアには分からない。


「魔術ってすごいですねぇ」


 真守まもりが感心したように声を上げる。夜刀神やとのかみという神霊なる存在を物質化する真守まもりでもそんなことを言ってもいいと思ってしまう程、魔術がより複雑化していっているようにソニアは感じる。


 そんな話をしている最中、突然どこからか男の声が聞こえてきた。


「クライド、ヘイデン、ジェリー。今すぐ伝声管のある場所へ行き、状況を報告しろ」


 当然の展開といえばそうだろう。ラクタリストの残党が四階に異変を感じて、伝声管を利用して通話を試みているようだ。四階には館内放送用に伝声管の受話口が何個か設置されている。ソニア達がいる場所からも声がはっきりと聞こえる。


 もちろん環境整備室にいる二人にも聞こえたようで、バリーが慌てた様子で姿を現した。


「ソニア様。真守まもりさん。ラクタリストの残党が四階の仲間に呼びかけています。五階の通信室にいるはずです。ここの伝声管から通話することは可能ですが、どうしましょうか?」


 バリーはそう訊くが、もちろん無視することもできる。とはいえ、たとえ沈黙を貫いたとしても、四階の仲間が倒されたことはラクタリストの残党に発覚するだろう。四階の出入口が封鎖されていることも知られる。ここはラクタリストの残党に降伏を促すべきかとソニアは考えた。


 ラクタリストの残党は未だ仲間に呼びかけている。


「クライド、ヘイデン、ジェリー。応答しろ。銃声が鳴ったが、何が起こった? 繰り返す。早く応答して状況を報告しろ」


 ソニアが環境整備室に入り、五階へ続く伝声管の蓋を開こうとしたその時、肩を叩かれる。振り向くと、唇に人差し指を当てる真守まもりが見えた。


「ここは私に任せてください」


 ソニアが止める間もなく、真守まもりは伝声管の蓋を開いた。

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