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ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第7巻 ストアフルエリア
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第3章 作戦開始(2)

 真守まもりは警棒を持って出て行くタイミングを見計らっていた。ビリヤードの部屋にいる男は既に十一発の銃弾を撃っている。一瞬だけ見ることができたが、男が持っているのはオートマチック式の拳銃だった。イギリスは銃社会ではなかったはずなので、他の国で調達してきたのだろう。


 バリーとベンは撃たれて負傷してしまったが命に別状はない。二人とも壁に隠れている。ソニアも真守まもりの後ろにいる。このままだとすぐに殺されることはないかもしれないが、ろくなことにはならないだろう。


「ソニアさん。私が負けたら遠慮せずに逃げてくださいね」


 真守まもりとしては勝算がある。仮に相手が特殊部隊の隊員で相手の武器がマシンガンだったりしたら、バリーとベンのことは見捨てて、ソニアと一緒に逃げるところだ。しかし情を捨てて、作戦を放棄するにはまだ早い。


 真守まもりは壁に隠れながら警棒だけをビリヤードの部室へ出してみた。一秒後に三発撃たれた後に警棒を引っ込める。オートマチック式の拳銃なので装弾数は十五発だろうと真守まもりは予測している。おそらくはまだ一発残っている。これだけ乱れ撃ちするくらいなのだから、マガジンは所持しているだろう。しかし再装填する音は聞こえない。


 真守まもりはポシェットを取り外してビリヤード室に投げ込んだ。一発だけ撃たれたものの、その後はカチカチという音だけがむなしく鳴っている。弾切れだ。


 戦うとしたら今しかない。真守まもりはビリヤードの部屋へ飛び出した。男は間抜けにも再装填に手間取っている。二階で捕まえた男が話していたように拳銃の扱いには慣れていないようだ。それでもからのマガジンを外し、新しいマガジンを取り出す動作まではしていた。


 もちろん真守まもりは再装填を許すつもりはない。警棒を縦に回転させるように投げた。警棒が男の手に命中して、銃を落とさせる。次に男はナイフを取り出したが、真守まもりは駆け抜けると同時にスキニーデニムから引き抜いておいたベルトを男の手に振り、ナイフを叩き落とした。


 男は痛がりながらも数歩後退する。そして真守まもりを見て驚きの声を上げた。


「なんだ。やけに背が低いと思ったらお嬢ちゃんか」


 そう言う男は百八十センチメートルには達しないくらいの身長だ。特に鍛えているという風でもない。そして男にしては少し髪が長い。


「女だからって、あまり見縊みくびらない方がいいですよ」


 真守まもりは右の拳にベルトを巻いてグローブのようにする。そして左腕をだらりと下げてL字の形を作りつつ振り子のように振る。右の拳は顎の高さまで上げていた。それを見て男が感心したように息を吐いた。


「ほう……。お嬢ちゃん、なかなかつうな構えをするじゃないか」


 ヒットマンスタイル。真守まもりが格闘技を習得している最中さなかに、自然と身に着いた構えだ。日本女性の間では背が高い方であり、特に戦闘霊媒になる前は同年代の女子と訓練することが多かったので、リーチの差を活かすことを意識するようになったのだろう。男性とも戦うことがあるのでめた方がいいと考えたこともあったが、自分が神奈かんなよりも背が高いと分かったことで結局そのままにした。


 男は両腕を顔の付近に揃える。ボクシング対決でも仕掛けてくるようだ。真守まもりと男の身長差はおそらく十センチメートルもない。真守まもりとしては許容範囲内だろう。


 先手を打ったのは真守まもりだ。男の顔面を目掛けて左腕をしならせるように振るう。予想以上に素早いジャブで焦ったのか、男が目を見開いていた。


 真守まもりは男のガードに当てるというより、距離を測るようにジャブを放つ。男はジャブをい潜って真守まもりふところに入ろうとしているが、なかなか接近できていない。真守まもりのジャブよりもベルトを巻いた右ストレートを警戒しているようだ。真守まもりの腕力でも顔面に直撃すれば男を一発で沈めることができるだろう。


 男がしびれを切らしたように、姿勢を低くして真守まもりの右半身の方へ突っ込んできた。真守まもりにとっては右ストレートを叩き下ろす絶好のチャンスだろう。右の拳に力をめる。


 すると男は真守まもりの左半身の方へステップした。そして下から右のアッパーを繰り出して来る。


「えっ?」


 男は勝利を確信したのだろう。しかし真守まもりの右ストレートは囮だった。本命は、左のジャブでもない、左手で男の頭を掴むことだ。男が姿勢を低くしてくれたお陰で、中途半端に長い髪が掴みやすかった。男はその気になっていたようだが、真守まもりは初めからボクシング対決などする気はなかった。


「ちょ――」


 男の言葉を待たずに、真守まもりは男の頭を引き込み、顔面に膝蹴りをぶち込む。男の両腕のガードは既にけていて、膝蹴りは男の顎に難なく直撃した。なんとか立ってはいたものの、男は前屈みになってよろけている。


「がぁぁあああ!。クソガキ、反則だ――いぃぃぃいいいっ?」


 男の息が詰まる。真守まもりは男の股間を蹴り上げていた。男はついに両膝をついてしまう。やはりかなり痛いのだろうか、両手を股間に当てていた。つまり頭はがら空きである。


 真守まもりは容赦なく、ちょうどいい高さにある男の頭にかかと落としを繰り出した。見事に直撃して、男はうつ伏せに倒れる。「がっ」と声にもならない短い音を発して、そのまま気を失ったようだ。既に聞こえていないだろうが、真守まもりはつまらなさそうに男へささやく。


「だから忠告してあげたじゃないですか」


 男の敗因は、相手が女だからといってあなどっていたことだ。普通に戦っても真守まもりが勝つ可能性の方が高かったかもしれないが、真守まもりとしては不要なリスクを負いたくなかった。だから男に油断させるように仕向け、不意打ちと急所狙いで一気に倒しきることにしたのだ。


 とにかくラクタリストの残党の三人を撃破することができた。今のところ、これ以上誰かが来る様子はない。真守まもりは自分が通ってきた出入口の方へ振り向く。


「ソニアさん。バリーさんとベンさんは大丈夫ですか?」


 先にビリヤードの部屋に入ってきたソニアは答えず、後に続いてきたバリーとベンが答えた。負傷したところに包帯を巻かれており、包帯には血がにじんでいて痛々しかったが、二人とも歩くことはできる程度には無事であった。


「ああ、大丈夫だよ。ありがとう、お嬢ちゃん。やっぱり強いんだな」

「君は命の恩人だよ。本当にありがとう」


 痛いはずなのだが、二人とも真守まもりに笑顔を見せている。見捨てずに済んでよかったと真守まもりは心から思う。ソニアも安堵したように口元をほころばせていた。


「二人とも銃弾は抜けているわ。私が応急処置はしておいたから、無茶はできないけど、換気室の作業くらいはできるそうよ。私からもありがとう。真守まもりのお陰で助かったわ」

「どういたしまして。さっさとテロリストを縛りましょう。っとその前に……」


 真守まもりとしてはゆっくりと感謝の気持ちを受け取りたいところだが、やるべきことが山程ある。ラクタリストの残党の三人は全員頭に大きな衝撃を受けているが、いつ目を覚ますのかは分からない。彼らの拘束も必要だが、それよりも優先するべきことがある。


 真守まもりはベルトを締めつつ、床に落ちているあるものに目を向けた。しかし真守まもりよりもソニアの方がそれに近かった。ソニアが少し歩いて、それを拾おうとする。


「触るなっ!」


 真守まもり咄嗟とっさ怒鳴どなった。ソニアが手を止めて、怯えた表情で振り向いたので、真守まもりも冷静になる。別に本気で怒っているわけではない。


「大きな声を出してごめんなさい。でも危ないですよ。ソニアさん、これを持ったことがないでしょ」


 そう言って真守まもりはソニアの隣でしゃがみ、拳銃を見た。あの男がマガジンを再装填したかどうかまではっきりと確認できていなかったので、もし再装填されていたらソニアが触ったことで拳銃が暴発しかねないと思ったのだ。しかし弾が入ったマガジンは拳銃のすぐそばに落ちていた。


 そして真守まもりは拳銃とマガジンを拾い、拳銃の安全装置を掛けてからマガジンを装填した。その様子を見てソニアが焦ったように声を出す。


「ちょ、ちょっと……。自分で危ないって言っておいて、そんなに軽々しく扱って大丈夫なの?」

「ええ、私は持ったことがありますから」


 さすがにどこの国で製造された何というモデルかは分からないが、オートマチック式の拳銃ならば扱い方くらいは真守まもりも把握している。反体制派の戦闘霊媒から拳銃を押収することが度々あるので、触ることだけでいえば慣れている。


「戦闘霊媒になる時に、拳銃の扱い方も一通り訓練を受けました。実戦で使用したこともあります。とはいえ何年も前の話ですから射撃の腕はあまり期待しないでくださいね」


 そう言いながら真守まもりはスライドを引き、安全装置が掛かっているか再度確認してから、拳銃を腰のベルトに挟んだ。銃を手に入れたので、今度は倒れているラクタリストの残党の三人を拘束しなければならない。真守まもりはソニア達の方へ振り向いた。


「さあ、テロリストを縛って先に進みましょう」


 こうしている間にもラクタリストの残党が誰かここに来るかもしれない。早く行動しなければならないはずだが、ソニアと警備員の二人は呆然と真守まもりを見つめていた。こんな緊急事態に緊張感を欠く人達ではないはずだ。自分の身に何か異変があったかと真守まもりは疑ったが、ソニアが気になっていたのは別のことのようだった。


「ちょっと真守まもり……。拳銃を使うつもりなの?」


 真守まもりは当たり前のように拳銃を持ったが、よく考えてみれば違う選択肢もある。


「そうですけど、バリーさんかベンさんが持った方がいいですか?」


 真守まもりがそう尋ねると、バリーもベンも首を大きく横に振った。彼らも魔術師だ。拳銃なんて今まで見たこともなかっただろう。やはり銃を持つのは真守まもりが適任のようだ。


「私はミディアムですし、メイスラに来てからまだ一年しか経っていませんが、魔術社会で銃はご法度はっとということくらい理解していますよ。でも、今はそんなことを言っていられる状況じゃないですよね」


 テロリストが銃を使っている。魔術師またはミディアムであるにもかかわらず魔術も霊能力も使えない。生き残るためには真守まもり達も拳銃に頼らざるを得ないと言っても過言ではない。もちろん真守まもりは拳銃の使用を極力控えるつもりではいる。


真守まもり……銃で人を撃ったことがあるの?」

「ありますよ。でも銃で殺したことはありませんし、メイスラに来る前の話ですよ」


 真守まもりは記憶を辿ってみる。嘘はついていないはずだ。あくまで銃を使った時に反体制派を殺していないという話にはなるが、そんな細かいことを弁解する必要もないだろう。魔術連盟もまさかメイスラに来る前の行為まで裁くことはないはずだ。


 しかしソニア達を安心させる説明にはなっていなかったようだ。真守まもりもそろそろ不安になってきた。


「もしかして、それでもまずかったりしますか?」

「何も聞かなかったことにするわ」


 ソニアが言うと、バリーとベンも首を大きく縦に振る。この事件が解決した後、メイスラから逃亡する羽目はめにならなければいいなと、真守まもりは現在よりも未来をうれいてしまうのであった。

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