一歩踏み出す決意
二年ぶりくらいですね…お久しぶりです。
待っていただけた方ありがとうございます。就職して一年が経ちました。まだまだ時間に余裕はなく、書き溜めもないですが、また更新の方頑張っていこうと思います。というか、この話結構好きなんで書きたかったんです。
というわけで、更新不定期ではありますが、またよろしくお願いします。
重々しい扉を開けると、外の気圧と中の気圧の差で小さく風が起こる。その風は俺から生えている誰かの長く艶やかな黒髪を揺らした。思わず目をつむり立ち止まる。
髪が乱れるな、と他人事のように思いつつ、まぁ俺には関係ないことかと結論づけ屋上へと再び足を進める。
普段より大きく見える金属製のフェンスについた。すごい大きいな…これ登れるか?辺りを見渡しても通れそうなところなんてないし…あ、這いつくばったら出れそうなところがあった。
病衣が汚れてしまうことに心の中で謝りつつ、俺はフェンスの外に出た。
端に立って下を覗く。おおぉ、5階だからとなめていたが、意外と高く見えるのな…これは俺が小さくなったからとかは関係なさそうだ。
初春の風にそよそよと吹かれながら、改めて今までのことを思い出してみる。…うーん…途中で全部思い返したしなぁ…走馬灯ってなったらまた違うのかもね。知らんけど。
なんとなく目を閉じて大きく深呼吸をする。怖くはなかった。心拍数は異常なほど正常に、生きていることを俺に伝えている。一歩踏み出したら死んでしまうという状況を、ちゃんと分かっているのかどうかも怪しい。
さぁ終わらせよう、と目を開けたのと同時に後ろの方で扉が大きな音を立てて開かれた。
その大きな音にビクッと体を強ばらせながらも振り返る。そこには全力で走ってきたであろうノブが息を切らしながら立っていた。
「あ、ノブじゃん。どうしたこんな所に」
いつものように声をかけると、ノブは一瞬とぼけたようにこちらを見る。調子に乗るから言わなかったけど、お前なかなかのイケメンなんだから、そんな変な顔してたらもったいないぞ。
「何って…こっちのセリフなんだけど…なにしてんのマジで!危ないからこっち来なさい!」
ノブは大きい声でそういいながらこちらへとゆっくり近づいてくる。
「何って…うーん…むつかしい質問するね…」
「むつかしくないよ!戻ってこいって!そのままだと死んじゃうよ!」
ノブがフェンスの向こう側からこちらに訴えかけてくる。ん?あいつからしたら俺が向こう側にいることになるのか。ノブが向こうにいるのではなく、俺が向こうにいる。なんだか哲学っぽいな。
「ふふっ」
急に笑い出した俺を訝しげに見ながらもノブは続ける。
「なぁ、一体どうしたんだよ。」
「どうした?どうしたかって?」
かけられた言葉に、俺はぴくりと反応した。
「そんなの、俺が知りてぇよ!どうしたんだよ俺の体!なぁ!昨日まで俺は俺だったんだぞ!?強面でみんなから嫌われてる俺だったんだ!それが今朝起きたらどうだ?こんなに華奢でみんなに好かれるような可愛い顔してさぁ?訳分かんねぇよ…こんなの俺じゃねぇよ…俺、誰なんだよ…」
頭で考えるよりも先に言葉が出てくる。止まらない。押し殺していた感情が溢れていく。
「そもそも何?俺の体が変化したの?誰かの体に入り込んだの?夢なの?現実なの?」
「俺は、どうやって生きていけばいいの?」
そこまで一気にまくし立てたところで、俺は視界がぼやけていることに気づいた。
涙声になりながらも続ける。
「身分を証明するものもないし、会社にも行けないし。ましてや学校になんて行けるわけがない。残った道は?誰かに体を提供する代わりに養ってもらう?それもいいかもな。確かに考えたよ。でも、もっと簡単な方法があったんだ…」
ノブに背を向け、ビルの下を覗きながら小さくつぶやく。
「次の人生が幸せであることを願って、一歩踏み出すだけ」
何かを考えていたノブはその言葉を聞くとひとつ頷き、決心した顔で
「わかった。俺のところに来い」
そう、言い放ってきた。




