新天地にて始まる生活
それからなんやかんやあって、俺は今ゆうきさん宅に住んでいる。
いや、なんやかんやって詳しく言うとなんだよ、とか、今ってどういう状況なんだよ、とか色々あると思う。分かるよその気持ち。
でも俺も正直慌ただしく過ぎていって何がなんだか…
簡単にまとめていくと、押し切られる形でゆうきさんと一緒に住むことになった。
身分証明のための書類はノブがいつの間にか用意してくれていた。その中でなぜかノブの姪になっていたのだが、贅沢は言えないと諦めた。もちろん感謝はしている。言わないけどな。
仕事?確かに大事な時期ではあったが、俺がいなくても大丈夫だろう。というか知らん。
これまでの俺を主体として進めていたプロジェクトの内容や取引先の情報など、今まで「寄越せ!」と言われていたものを『仕事辞めます』という短文と一緒に送り付けたところ、『辞めないでくれ』『取り敢えず一度会って話そう』と返信が来たうえ携帯電話が鳴り止まない事態に陥った。
あんなに俺のことを忌み嫌っていたのに、面倒事が全部回ってきたら引き止めるとは…図太い神経してやがるよ、まったく。
退院後、荷物をまとめに一度帰宅し、もともと少なかった服などをまとめて再び病院へ。ゆうきさんが退院するまで病室を借りてお世話になり、ゆうきさん宅へ移り住むことになった。
そして今に至る、と。
うん、流されるまま一緒に住むことになったけど、これで良かったのか俺…
さらに高校生という身分はもらったが中身は三十路のおっさん。更に女の子になったという特殊な状況にコミュ障も相まって、若い子の中に交じれる気がしない。
いくら咄嗟にだったとはいえあんなでまかせを言った俺を殴りたい。誰か過去に戻してまじで切実に。
さて、現実に戻りますか。
今の俺は自分の部屋にいて、灰色のスウェット姿(上下か違うメーカーのなので若干色が違う)で勉強机に向かい編入試験の対策勉強をしている。
……これもどこから説明したらいいものか……部屋からにするか。
ゆうきさんのお家はなんと一軒家だった。二階建て。しかもなんかわりと広い庭とか小さいながらもため池?とかあった。コイが泳いでた。
おいおい冗談だろ、確か20代じゃなかったか…?俺なんかボロいアパートの部屋だったぞ、などと思ったがまぁあそれは別の話。
玄関入ってすぐにある階段で二階にあがり、左右に二つずつある部屋のうち右奥が俺の借りている部屋だ。
移り住む際、俺の持っていた荷物のあまりの少なさに何を思ったのか、ベッドや勉強机、挙句の果てにはパソコン一式まで揃えてくれていた。
知り合って間もない俺に対して湯水のようにお金を使うゆうきさんを見ていると『将来悪い人に騙されないかな…』などと考えてしまう。本当に大丈夫かな。
大丈夫かな、と言えば。俺の編入試験もそうだ。しかしこれは案外何とかなりそうだ。
さすがに十数年前の事なんて忘れているだろう、と思って対策の本を開いてみたところ、意外も意外。割とスルスル解けた上に正答率も高かった。
しかし油断は禁物。試験まであと数日しかない上に時期的にそろそろ定期試験がある。編入できてもすぐの試験で点数が悪かったら馬鹿にされる。絶対される。もっと言えば目をつけられていじめぬかれる。
という訳で、『編入試験の対策』と言うよりは『定期試験の対策』をしているところだ。どこまでが範囲かわからないので出来るところ全てをやっていくつもりだ。
ここからの数日。これが第二の高校生活の分岐点になる。
窓越しに星を眺めながら「いい方に転がりますように…」と呟いたあと、俺は再びペンを走らせるのだった。




