その、急展開過ぎて…
そこから涙が止まるまで数分を要した。何故涙がこぼれたのか分かってない。意思に反して流れたそれは、まるで俺ではない誰かの涙のようだった。
事実、涙が溢れている間女の人の声が頭の中で響いていた。もしかして、この体の子だったんじゃ…やっぱり俺は…
なんて難しく考えるのはやめて、まぁ今は止まったしいいか。と頭の隅に追いやることにした。いわゆる「それはこちらに置いといて」というあれだ。現実逃避ともいう。
っと、ゆうきさんにお礼も言っておかないとな。
急に泣き出した俺のことを誰かと重ねたのか、何も話さずただ俺の頭を撫でてくれていた。遥か遠い記憶、母親に慰めてもらっていた頃を思い出した。年甲斐もなく童心に帰って甘えてしまうそれを人は「母性」とでも呼ぶのだろうか。
「あの、その…なんか急にすみませんでした。それと、ありがとうございます。」
病衣の裾で涙のあとをすり、今できる精一杯の笑顔で感謝を告げる。少し口の端がピクピクしたのは筋肉が固まっているからか、あるいは気恥ずかしさからか。
「いいえ、気にしなくてもいいのよ。なんだか、昔の私を見ているようで懐かしくなって…つい母がしてくれたように接しちゃったわね」
そう言ってふふっと照れたように笑う彼女は、とても柔らかい表情をしていた。その笑顔を見ていると、胸のあたりがポカポカと温かくなり、安心感が身体中に染み渡るようだ。
「それで、これからどうするの?」
手をぽんっと叩きながら聞いてくる勇紀さん。というかそんな、首を傾げながら聞かんといてください。可愛すぎかよ。
もうダメだ。彼女のことが女性にしか見えない。これが本物か。
「え、あぁ、そうですね、検査が終わるまであと少しらしいんで、それが終わったら一度家に帰る感じですかね」
「それもそうね。ところで、さっき身内とも疎遠になったって言ってたけど…一人暮らししているの?」
「はい。その方が職場に通いやすかったので」
「職場?」
「あ、いえ、その…高校…ですね」
職場、と聞いて疑問符を浮かべた勇紀さんに対して、咄嗟に口を出た『高校』という言い訳。同時に思い浮かんだのはヒラヒラのスカートを履いたイマドキJKの俺。
うん、無理だ。中卒でそのまま働いてますって言えばよかった、などと後悔している俺の視界の隅で、ゆうきさんは腕を組み唸っていた。
「どうかしましたか?」
「んー?女のこ…んんっ、一人暮らしってやっぱり危ないよねぇって思って」
「まぁ、近頃いろいろ物騒ですもんね」
「なに他人事みたいに言ってるの、貴女も周りから見たら女の子なのよ?自分の意志とは関係なく襲われる時は襲われるんだから!」
男はオオカミなのよ!と続け、手で威嚇をしながらがおーっと襲うふりをするゆうきさん。その言葉は男としてなのか、あるいはそういった経験が…
というか、真面目な話をしているところすみません、すごく、可愛いです。
だめだ!話が終わらない!俺としてはまだまだゆうきさん成分を摂っていたいところだが、ゆうきさんも休みたいだろう。ここは早めに切り上げた方が吉と見た。
「はい、気をつけますね。では僕は病室へ戻りますね」
そう言って椅子を立ったところで、ゆうきさんから待ったの声がかかる。
そして、そのまま続いた言葉は、予想もしなかったものだった。
「よし、猛ちゃん、いや猛くん!あたしと一緒に住みましょう!」
…えっ
「ええぇええぇぇえええええ!?」
進まないよォ…猛ちゃんもっとしっかりしてよォ…




