はじめてのいらい
大神殿での儀式を終えた翌日。
彩乃と百合は王城の中庭に呼ばれていた。
国王をはじめ、騎士団長レオン、神殿長、そして数人の騎士たちが集まっている。
彩乃は腰に透明なブルーの聖剣を携え、百合は透明なピンクの聖杖を手にしていた。
朝日に照らされる二つの武具は、まるで宝石のように輝いている。
「二人とも。」
国王が穏やかな表情で口を開いた。
「勇者候補となったからといって、すぐに魔王討伐へ向かわせるつもりはない。」
二人は真剣な表情で耳を傾ける。
「まずは、この世界を知ってほしい。」
「人々を知り、町を知り、魔物と戦い、経験を積むこと。」
「それが何より大切だ。」
「はい。」
彩乃が頷く。
「そこで、まずは冒険者として活動してもらう。」
レオンが一枚の地図を広げた。
「王都近郊では最近、ゴブリンが群れを作り始めています。」
「新人冒険者でも受けられる討伐依頼ですが、数が多く少し厄介です。」
百合が尋ねる。
「私たちで大丈夫でしょうか?」
「もし危険だと判断したら、すぐ撤退してください。」
レオンは笑った。
「無理は禁物です。」
「初めての依頼ですから。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑う。
「頑張ろう。」
「うん!」
その頃。
城の厩舎では。
「キュイっ!」
「キュルルっ!」
リラとルラが元気よく鳴いていた。
二人の姿を見つけると、一目散に駆け寄ってくる。
「ただいま。」
彩乃がリラの頭を撫でる。
「キュイ~。」
嬉しそうに目を細めるリラ。
百合もルラを抱きしめる。
「待っててくれたんだね。」
「キュルルっ!」
四人は王都を出発した。
目的地は、王都から少し離れた森。
依頼内容はゴブリン十体の討伐。
「緊張する?」
百合が尋ねる。
「少しだけ。」
彩乃は苦笑した。
「でも、不思議と怖くない。」
「私も。」
森へ入ると、鳥のさえずりが聞こえる。
静かな空気の中を歩いていると。
ガサッ。
茂みが揺れた。
「いた。」
三匹のゴブリンが姿を現す。
「ギギッ!」
「ギャア!」
木の棒を振り回しながら向かってきた。
「百合!」
「うん!」
彩乃は一歩踏み出し、聖剣を抜く。
透き通った青い刀身が陽光を反射した。
自然と魔力が剣へ流れ込む。
彩乃は小さく息を吸った。
「蒼き光よ。」
百合が小さく笑う。
「始まった。」
彩乃は真剣な表情のまま剣を構える。
「天を裂き、大地を照らせ。」
「聖蒼斬!」
剣を一閃。
青い斬撃が一直線に走り、三匹のゴブリンをまとめて吹き飛ばした。
ドォン!
土煙が晴れる。
三匹とも気を失い、動かなくなっていた。
百合は目を丸くする。
「一撃……。」
彩乃は剣を見つめた。
「今の……自然に出た。」
その時だった。
森の奥からさらに足音が響く。
十体以上のゴブリンが現れる。
「ギャギャギャ!」
「結構いるね。」
百合は慌てる様子もなく聖杖を構えた。
「みんな、眠って。」
杖の先から淡い桃色の光が広がる。
光に包まれたゴブリンたちは、その場で次々と倒れ込んだ。
「すぅ……。」
眠っている。
「えっ?」
彩乃が驚く。
「倒してないの?」
「眠らせただけ。」
「できれば命は奪いたくないから。」
彩乃は微笑んだ。
「百合らしいね。」
「えへへ。」
するとリラとルラも駆け寄ってきた。
「キュイっ!」
「キュルルっ!」
二頭は誇らしそうに胸を張る。
「ありがとう。」
二人は同時に頭を撫でた。
その様子を、少し離れた場所から一人の男性が見つめていた。
黒いマントを羽織った青年。
「……。」
口元に小さく笑みを浮かべる。
「やっぱり。」
「女神が選んだ二人か。」
そう呟くと、風とともに姿を消した。
彩乃も百合も、その視線にはまだ気付いていなかった。




