双子の相棒
ギルドマスターは静かに立ち上がった。
「二人とも、こちらへ来てくれ。」
彩乃と百合は顔を見合わせ、小さく頷く。
「はい。」
受付嬢に案内され、ギルドの奥へと進んでいく。
賑やかなホールとは違い、奥はとても静かだった。
やがて、一枚の重厚な扉の前で受付嬢が立ち止まる。
「ギルドマスター、お連れしました。」
「入ってくれ。」
二人は部屋の中へ足を踏み入れた。
壁一面に本棚が並び、机の上には地図や書類が山積みになっている。
歴代ギルドマスターの肖像画も飾られていた。
「そこへ座ってくれ。」
柔らかなソファへ腰を下ろすと、受付嬢がお茶を運んでくる。
「ありがとうございます。」
百合が頭を下げた。
ギルドマスターは一口お茶を飲み、ゆっくりと話し始める。
「まず聞きたい。」
「君たちは、自分の職業がどれほど特別か知っているか?」
二人は同時に首を横へ振る。
「いいえ。」
「さっぱりです。」
「そうだろうな。」
ギルドマスターは静かに頷いた。
「聖騎士とは、神に選ばれし剣士。」
彩乃は思わず姿勢を正す。
「聖女とは、神に選ばれし癒やし手。」
百合も真剣な表情になる。
「そして……。」
一呼吸置く。
「この二つの力が揃った時、人々はその存在を"勇者"と呼ぶ。」
「えっ?」
彩乃と百合の声が重なった。
「ゆ、勇者ですか?」
「私たちが?」
「まだ確定ではない。」
ギルドマスターは穏やかに笑う。
「最終的な認定は王都にある大神殿で行われる。」
「だから、王都へ来てもらう必要がある。」
二人は顔を見合わせた。
昨日まで普通の高校生だった自分たちが、勇者候補。
まだ実感は湧かない。
その時だった。
部屋の隅に置かれた水晶球が、突然白く輝き始める。
ブゥン……
空中に光の魔法陣が展開された。
『こちら、王都中央ギルド。』
落ち着いた男性の声が響く。
ギルドマスターはすぐに立ち上がった。
「こちらルミナス支部。」
『報告は受けた。』
『聖騎士と聖女が同時に現れたそうだな。』
「間違いありません。」
『国王陛下へ報告済みだ。』
『二名を王都へ招待する。』
彩乃と百合は思わず息を呑む。
『移動手段はこちらで用意してある。』
通信はそこで途切れた。
部屋は再び静けさを取り戻す。
「……というわけだ。」
ギルドマスターは二人へ向き直る。
「今日は王都へ向かってもらう。」
「でも……。」
百合がおずおずと尋ねる。
「馬車ですか?」
ギルドマスターは口元に笑みを浮かべた。
「いや。」
「君たちには、もっと相応しい相棒がいる。」
---
ギルドの裏手。
大きな石造りの建物へ案内される。
扉を開けると、そこは広い厩舎だった。
しかし、馬の姿はない。
代わりに、奥から低い鳴き声が聞こえてくる。
「グルル……。」
ギルドマスターが静かに歩み寄る。
「出ておいで。」
その言葉に応えるように、二つの影が姿を現した。
四本のたくましい脚。
艶やかな鱗。
まだ幼いながらも、堂々とした体つき。
地竜だった。
「わぁ……!」
百合が思わず声を漏らす。
一頭は深い青色の鱗をまとい、もう一頭は淡い桃色の鱗を輝かせている。
二頭はそっくりな顔立ちで、寄り添うように立っていた。
「この子たちは双子の地竜だ。」
「生まれて以来、誰にも心を開かなかった。」
「だから今まで誰の相棒にもならなかったんだ。」
彩乃がゆっくり近づく。
青い地竜はじっと彩乃を見つめる。
しばらく見つめ合ったあと。
すりっ。
大きな頭を彩乃の肩へ優しく寄せた。
「えっ……。」
「懐いてる……。」
同じ頃。
桃色の地竜も百合へ近づき、小さく鼻を鳴らす。
「キュル。」
百合がそっと頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた。
「かわいい……!」
ギルドマスターは目を丸くしていた。
「信じられん……。」
「本当に一瞬で認めた。」
受付嬢も思わず口元を押さえる。
「こんなの初めて見ました……。」
彩乃は青い地竜の瞳を見つめる。
「君の名前は……。」
少し考え、優しく微笑んだ。
「リラ。」
青い地竜は嬉しそうに喉を鳴らした。
「キュイっ!」
百合も桃色の地竜へ向き直る。
「じゃあ君は……ルラ。」
「キュルル!」
ルラは百合の周りをくるりと一周して喜びを表現する。
「気に入ってくれたみたい。」
彩乃が笑う。
「これからよろしくね、リラ。」
「キュイッ!」
「ルラもよろしく!」
「キュル!」
二頭は嬉しそうに鳴き、まるで返事をするように頷いた。
こうして、彩乃にはリラが。
百合にはルラが。
それぞれ唯一無二の相棒となった。
ギルドマスターは満足そうに二人を見つめる。
「さあ、新たな旅の始まりだ。」
「王都が、君たちを待っている。」
夕暮れの風が、四人の背中を優しく押した。




