二人で双子?!
眩い光が静かに薄れていく。
柔らかな風が頬を撫で、小鳥のさえずりが耳に届いた。
木々の葉が揺れ、木漏れ日が地面にまだら模様を描いている。
どこまでも続く深い森。
そこは、日本では決して見ることのない景色だった。
「……ん。」
最初に目を覚ましたのは彩乃だった。
ゆっくりと身体を起こし、周囲を見回す。
「ここが……。」
異世界。
女神が見せてくれた世界。
夢ではない。
頬をつねると、ちゃんと痛い。
「痛っ……。」
「彩乃?」
聞き慣れた声に振り返る。
「百合!」
少し離れた場所で百合も身体を起こしていた。
二人は駆け寄り、自然と笑みがこぼれる。
「よかったぁ。」
「ちゃんと一緒だったね。」
「うん!」
それだけで安心できた。
一人ではない。
二人なら、きっと大丈夫。
そんな気持ちが胸に広がる。
すると百合が首を傾げた。
「……彩乃?」
「ん?」
「髪……。」
「髪?」
彩乃は自分の髪を一房つまむ。
「……え?」
光を反射して輝くその髪は、日本にいた頃の黒髪ではなかった。
まるで金属のような光沢を放つ、美しいメタルブルー。
「えぇぇっ!?」
思わず大きな声を上げる。
百合も驚いた表情で自分の髪を見る。
「私も!?」
百合の髪は、優しく光るメタルピンク。
春の花びらのように柔らかな色合いだった。
「ちょっと、向こうに泉がある!」
二人は森の奥に見えた小さな泉へ駆け寄る。
水面を覗き込むと、そこには見知らぬ少女たちが映っていた。
「……これ、私?」
彩乃は思わず息を呑む。
長く伸びたメタルブルーの髪。
左目は透き通るようなミントグリーン。
右目は深いブルー。
左右で色の違う瞳が、不思議な輝きを放っている。
「百合も……。」
隣を見る。
百合もまた、日本とはまったく違う姿になっていた。
メタルピンクの長い髪。
左目は明るい黄色。
右目は優しいピンク。
「オッドアイだ……。」
「すごく綺麗だけど……なんだか別人みたい。」
二人が戸惑っていると、不意に優しい声が響いた。
『安心してください。』
女神の声だった。
姿は見えない。
声だけが森へ優しく響く。
『あなたたちは、この世界では双子として生まれたことになっています。』
「双子?」
『はい。』
『人々の記憶も、戸籍も、すべてそのようになっています。』
「じゃあ……。」
『名字もありません。』
『この世界では、名前だけで暮らす人がほとんどです。』
彩乃は小さく笑う。
「これからは、彩乃。」
百合も笑顔で頷く。
「私は百合。」
「よろしくね、お姉ちゃん……って言うべき?」
彩乃が少しいたずらっぽく笑う。
「え?」
『年齢は同じです。双子なので、どちらが姉でも妹でも構いません。』
「じゃあ今まで通り!」
「うん!」
二人は笑い合った。
その笑顔を見届けるように、女神の声は静かに消えていく。
『どうか、幸せな人生を。』
---
森を抜けるため、二人は歩き始めた。
風は心地よく、草花の香りが漂う。
木の枝には見たこともない青い果実が実り、小さな妖精のような生き物が花の周りを飛び回っている。
「わぁ……。」
百合は目を輝かせる。
「本当に異世界なんだね。」
「うん。」
彩乃も頷く。
その時、頭上に大きな影が通り過ぎた。
見上げると、巨大な翼を広げた飛竜が空を滑るように飛んでいく。
「ドラゴン!?」
「本当にいた!」
二人は思わず見惚れてしまう。
しばらく歩くと、森が開けた。
石畳の道。
遠くには大きな城壁。
その前を人々や馬車が行き交っている。
「街だ!」
二人は自然と足を速めた。
---
大きな門の前。
鎧姿の門兵が二人を見て微笑む。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「旅人かい?」
彩乃は少し緊張しながら答える。
「はい。彩乃です。」
「百合です。」
「姉妹か?」
二人は顔を見合わせる。
「はい。」
「双子です。」
「なるほど。」
門兵は何の疑いもなく笑った。
「ようこそ、ルミナスの街へ。」
重厚な門がゆっくり開く。
二人は初めて異世界の街へ足を踏み入れた。
---
「すごーい!」
百合は目を輝かせる。
石造りの建物。
露店に並ぶ色鮮やかな果物。
鎧姿の冒険者。
ローブを着た魔法使い。
獣人の親子。
耳の長いエルフ。
すべてが新鮮だった。
「まるでゲームの中みたい……。」
「でも現実なんだよね。」
二人は街をゆっくり歩く。
やがて一軒の武器屋が目に入った。
店先には剣や槍、弓、盾がずらりと並んでいる。
「見てみようか。」
「うん!」
---
店内には年配の店主がいた。
「いらっしゃい。」
「旅を始めるなら、装備は必要だよ。」
女神から渡されていた革袋には、十分な旅費が入っていた。
二人は相談しながら装備を選ぶ。
彩乃は白と青を基調にした軽鎧と、美しい長剣を手に取る。
百合は白と桃色のローブに、魔法使い向けの杖を選んだ。
「似合ってる!」
「百合も。」
その時だった。
彩乃が剣をゆっくり抜く。
陽の光を受け、銀色の刀身が輝いた。
彩乃は静かに目を閉じる。
「……目覚めよ。」
百合が首を傾げる。
「?」
彩乃は剣を空へ掲げた。
「蒼き光を宿す聖剣よ……。」
店主も見守る。
「その真なる名は……」
一呼吸。
「**《蒼天聖断剣・ブルーセイクリッドブレイカー》!!**」
店内が静まり返る。
店主がゆっくり口を開く。
「……いや、それ普通の鉄剣。」
「…………。」
彩乃はそっと剣を鞘へ戻した。
「気持ちが大事。」
百合は吹き出した。
「ふふっ! 彩乃らしい!」
店主も思わず笑い出す。
「はっはっは! 面白い嬢ちゃんだ!」
和やかな空気に包まれながら、二人は新しい装備を身につける。
異世界での最初の一歩は、こうして始まった。
店を出た二人の前に、ひときわ大きな建物が姿を現す。
石造りの重厚な外壁。
扉の上には、大きく掲げられた一枚の看板。
**『冒険者ギルド』**
彩乃はその文字を見上げ、小さく微笑んだ。
「冒険者……。」
百合も隣で頷く。
「行ってみよう!」
二人は顔を見合わせ、期待に胸を弾ませながら、大きな扉の前へ歩み寄った。




