国、できちゃった件☆
ギルドはその日から、少しだけ騒がしさの質が変わった。
理由は単純。
魔王が普通に椅子に座っているからだ。
「……まだいるのか、あれ」
「いるな」
「魔王ってもっと怖いものじゃなかったか?」
冒険者たちの視線の先で、魔王は普通に水を飲んでいた。
「いや……落ち着くなここ」
「なんでだよ」
百合が即座に突っ込む。
彩乃は隣で魔王を見ながら、ふと呟いた。
「じゃあさ」
「ん?」
「戻る場所、ここでいい?」
魔王が一瞬止まる。
「え?」
「いや俺魔王なんだけど」
「知ってる」
「知ってるんだ」
彩乃は真顔のまま続ける。
「でも城、もう誰もいないし」
「手下も片付けたし」
「空っぽだった」
百合が資料をめくる。
「あと、あの城かなり不安定だったよね」
「崩れかけてたし」
「ちょっと待って」
魔王が手を上げる。
「俺の家、扱い軽くない?」
---
数日後。
北西の霧の谷。
かつて“魔王城”と呼ばれた場所。
そこに立っていたのは――
白い城だった。
「……え?」
百合が言葉を失う。
「何これ」
魔王も固まっている。
「俺の城どこいった?」
そこにあったのは、黒ではなかった。
純白。
雪のように白い外壁。
青い魔力結晶が装飾のように輝き、庭には氷の花が咲いている。
門の上には新しい紋章。
青と桃が交わるような光の印。
彩乃は普通に頷いた。
「うん、直した」
「直したって何を!?」
百合が即ツッコミ。
ライが横で誇らしげに尻尾を振る。
「グルル」
リラとルラも走り回っている。
「キュイっ!」
「キュルルっ!」
魔王は頭を抱えた。
「いや……え……何これ……」
彩乃は少し考えてから言った。
「住みやすくした」
「魔王城を!?」
「うん」
百合が冷静に分析する。
「むしろリフォームじゃなくて再設計だよね」
「それだ」
魔王はゆっくり振り返る。
「俺の立場は?」
彩乃は即答。
「一緒に住む?」
「急に人生設計変えないで」
---
その夜。
王都のギルドに報告が届く。
「魔王城が消失」
「代わりに未知の王国領域が発生」
「名称不明」
ギルドマスターは報告書を読みながら固まった。
「……は?」
受付嬢が静かに付け加える。
「現地住民からの報告では」
「“アイシクル王国”と呼ばれているそうです」
「誰が名付けた?」
「たぶん……あの二人です」
ギルドマスターは天井を見た。
「もう……いいだろこれ……」
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白い城の中庭。
彩乃は空を見上げていた。
「ここ、いいね」
百合が隣で頷く。
「うん、落ち着く」
魔王はその後ろで立ち尽くしている。
「俺の人生どこ行った……」
ライが足元に寄る。
「グル」
リラとルラが駆け回る。
「キュイっ!」
「キュルルっ!」
その光景を見て、魔王は小さくため息をついた。
「……まあ」
「悪くはない、か」
彩乃が振り向く。
「でしょ?」
「いや納得はしてないけど」
百合が笑う。
「でも平和ではあるよね」
魔王は空を見上げる。
白い城。
新しい国。
そして、隣にいる彼女。
「……ほんとにさ」
「なんでこうなったんだろうな」
誰も答えない。
ただ、風だけが白い城を通り抜けていった。




