白い国の、いつもの日常
アイシクル王国は今日も静かに光っていた。
かつて魔王城だったとは思えないほど、白く整った城と街並みが広がっている。
空気は澄み、庭には氷花が揺れ、遠くではリラとルラが競走している。
「キュイっ!」
「キュルルっ!」
「お前らまた速くなってない?」
城門前で、騎士が肩で息をしていた。
そこへ軽やかな足音。
「朝の巡回お疲れさま」
彩乃が笑顔で手を振る。
聖剣は今は腰に下げられているが、もう“武器”というより日常の一部だ。
その隣には百合。
そして――
少し距離を置いて歩く魔王、いや翡翠。
今はもう“魔王”ではない。
この国の共同統治者であり、ただの「翡翠」としてそこにいる。
「巡回っていうか、もう平和すぎてやることないんだけど」
翡翠がぼやく。
百合が即座に返す。
「いいことだよ、それ」
「それはそうなんだけどさ」
リラが翡翠の周りをぐるぐる回る。
「グルル」
「はいはい、元気だな」
ルラも寄ってくる。
「キュルル」
「お前らまで俺の扱い雑じゃない?」
彩乃は笑っていた。
「慣れて」
「慣れるもんじゃないだろ」
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城の中庭。
そこは少しだけ特別な空気になっていた。
白い花で飾られた道。
小さな式の準備。
「ほんとに今日なんだね」
百合がぽつりと言う。
「うん」
彩乃は頷いた。
その隣で翡翠が落ち着かない様子でいる。
「いやこれさ……なんで俺ここに立ってんの?」
「結婚式だから」
「軽いな言い方!」
百合が笑う。
「逃げたらだめだよ」
「逃げないけどさ……」
翡翠は頭をかいた。
「俺、魔王だったんだけどな……」
「過去形だね」
彩乃がさらっと言う。
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白い式場。
集まっているのは、王国の人々。
騎士、冒険者、神官、そしてギルドマスター。
「……あいつら本当にやるのか」
ギルドマスターは遠い目をしていた。
「世界観が追いつかん」
受付嬢は穏やかに笑う。
「でも、悪くないですよね」
「まあな」
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式が始まる。
風が静かに流れる。
神官の祝詞の代わりに、百合がそっと言葉を紡ぐ。
「これからも、ずっと一緒に」
リラとルラが鳴く。
「キュイっ!」
「キュルルっ!」
ライも静かに目を細める。
「グル」
彩乃は翡翠を見た。
「ひーくん」
「……うん」
「戻ってきてくれて、ありがと」
翡翠は一瞬だけ黙る。
そして、小さく笑った。
「それ、俺のセリフじゃない?」
空が白く光る。
その中で、二人は手を取った。
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数年後。
アイシクル王国は、誰もが知る平和な国になっていた。
神獣は普通に街を歩き、魔法は生活に溶け込み、王城はいつも笑い声で満ちている。
そして中心には、いつも二人がいた。
彩乃と翡翠。
百合はその隣で、変わらず支え続けている。
「ねぇ彩乃」
「なに?」
「今日の晩ごはん、ワイバーン?」
「昨日食べたじゃん」
「じゃあフェンリル肉?」
「ライが怒る」
少し離れたところでライがこちらを見ている。
「グルル……」
「冗談冗談!」
王国は今日も、少しだけおかしくて、でもとても平和だった。
これで最終話になります!
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