魔王、彼女に連行される
玉座の間は、もう戦場ではなかった。
魔王は玉座に戻ることもなく、その場に立ったまま頭を抱えていた。
「あの……とりあえず落ち着こう」
「俺、魔王だけど」
「今はそれどころじゃない」
「そこは自覚あるんだ」
百合が淡々と突っ込む。
彩乃は少しだけ距離を詰めたまま、魔王を見上げていた。
「ひーくん、本当に生きてたんだ」
「生きてた」
「めっちゃ魔王になってたけど」
「それはほんとに俺も知らなかった」
魔王は真顔で言った。
妙に説得力があるのが逆に怖い。
リラとルラ、ライはすでに魔王の周囲をぐるぐる回っている。
「グルル……」
「キュイっ……」
「キュルル……」
敵意はない。
むしろ観察している。
「その……」
魔王がそっと手を上げる。
「一応確認なんだけど」
「これ、戦う流れじゃないよね?」
百合は即答した。
「違う」
「よかった」
心底ほっとした顔をする魔王。
その瞬間。
彩乃が一言。
「じゃあ連れて帰るね」
「待って?」
魔王の思考が止まる。
「どこに?」
「ギルド」
百合がさらっと言った。
「え、ギルド?」
「うん」
「いや俺魔王なんだけど」
「知ってる」
「知ってるんだ」
魔王は遠い目をした。
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数時間後。
王都アストレア。
冒険者ギルドの扉が開く。
いつもの空気。
いつもの騒がしさ。
そこへ。
彩乃、百合。
そして――
魔王。
「……は?」
ギルド内が完全に固まった。
「ちょっと待て」
「今の誰だ?」
「魔王って言ったぞ」
ギルドマスターが執務室から飛び出してくる。
「お前たち何を連れてきた!!」
彩乃は真顔で答える。
「魔王」
「そのまま言うな!!」
百合が一歩前に出る。
「戦わなかった」
「戦わなかったって何だ」
ギルド内がざわつく中、魔王は静かに手を上げた。
「あの……すみません」
「一応魔王です」
「謝るな!!」
ギルドマスターが頭を抱える。
「どういう状況だこれは……!」
その横で彩乃は小さく呟く。
「ひーくん、ここ初めて?」
「初めて」
「すごい落ち着く場所だね」
「どこがだ」
百合が即答。
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ギルドマスターは深呼吸したあと、魔王を睨む。
「で、お前は敵か?」
「いや……」
魔王は少し考えてから答えた。
「たぶん違う」
「たぶんって何だ!!」
そのやりとりを見て、ギルド内の冒険者たちがざわつく。
「魔王なのに普通に喋ってるぞ……」
「怖くないのかあれ」
魔王は小声で彩乃に聞く。
「俺、これどうしたらいい?」
「とりあえず説明しよっか」
彩乃は少しだけ優しく言った。
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その夜。
ギルドの一室。
事情聴取という名の“混乱会議”が行われていた。
魔王は椅子に座り、頭をかいた。
「えっと……」
「気づいたら魔王城にいて」
「気づいたら魔王扱いされてて」
「なんか断れなくて」
ギルドマスターは天井を見上げた。
「……世界ってそんな適当だったか?」
百合は淡々と記録を取っている。
彩乃は隣で魔王を見ている。
少しだけ安心した顔。
「じゃあ、帰ってきたってことでいい?」
「どこに?」
「私の隣」
魔王は固まった。
「……それはちょっと恥ずかしい」
「恥ずかしいんだ」
百合が即突っ込む。
ギルドマスターは悟った顔をした。
「もういい……好きにしろ」
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こうして。
魔王は“討伐対象”ではなく。
ギルドに連れてこられた“よく分からない元彼、いや、今彼”として扱われることになった。




