魔王城特攻
魔王城は、最初からそこに“あった”わけではなかった。
王都から北西へ数日。
霧の谷を越えた先に、黒い城が浮かぶように現れる。
近づくほどに空気が重くなる。
「ここが……」
百合が見上げる。
空を突くようにそびえる尖塔。
歪んだ影のような外壁。
しかし彩乃は目を細めただけだった。
「思ったより綺麗じゃない?」
「どこが?」
百合のツッコミが早い。
リラ、ルラ、ライは低く唸る。
「グルル……」
「キュイっ……」
「キュルル……」
門は、誰も触れていないのに開いた。
ギギギギ、と重い音が響く。
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城内。
そこは静かだった。
だが“静かすぎる”。
まるで呼吸だけが存在しているような空間。
壁には黒い結晶が脈打つように光っている。
「敵、来るよ」
百合が杖を構える。
次の瞬間。
影が床から“浮かび上がった”。
歪んだ人型。
鎧のようで鎧ではない存在。
「魔王の手下か」
彩乃が剣を抜く。
透明な青が、闇の中で逆に浮かび上がる。
「数は?」
「……多いね」
百合の視線の先。
影が増殖していた。
壁から。
床から。
天井から。
無数に。
「じゃあ、手短にいこう」
彩乃が一歩踏み出す。
「了解」
百合が杖を軽く振る。
桃色の光が円状に広がる。
「セイクリッド・フィールド」
光の結界が展開される。
影たちの動きが一瞬だけ鈍る。
その瞬間。
「蒼裂」
彩乃の剣が一閃。
青い軌跡が走り、影をまとめて切り裂く。
さらに次。
「断界」
二撃目。
床ごと空間が裂け、影が崩れる。
百合は静かに追撃する。
「ホーリー・ピアス」
無数の光が針のように降り注ぎ、残った影を消し去る。
静寂。
再び。
何もない空間に戻る。
「終わった?」
彩乃が剣を肩に乗せる。
「たぶんね」
百合が答える。
だが奥へ進むほど、空気は濃くなる。
重さが増す。
城はまだ“中心”を隠している。
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最上階。
巨大な扉。
そこには何の装飾もない。
ただ黒い圧だけがある。
「ここだね」
彩乃が言う。
「うん」
百合が頷く。
リラ、ルラ、ライは扉の前で止まる。
「グルル……」
「キュイ……」
「キュルル……」
三匹とも、動かない。
扉がゆっくりと開く。
ギィィィ……
その先にあったのは。
玉座。
黒い玉座。
そしてそこに座る、一人の“魔王”。
深い影のような存在。
しかし確かに“人型”。
その気配だけで空間が揺れる。
魔王はゆっくりと顔を上げた。
赤い瞳。
圧倒的な静けさ。
だが、どこか“理解できる温度”がある。
「……来たか」
低い声。
城全体が震えたように感じた。
彩乃は剣を握る。
百合も杖を構える。
しかし一歩も引かない。
魔王は二人を見つめたまま、静かに続けた。
「勇者候補……」
「それとも、ただの侵入者か」
空気が止まる。
そして。
彩乃は一言だけ返した。
「確認しに来ただけ」
魔王の瞳が、わずかに細くなる。
百合が横で息を整える。
玉座の間に、静かな戦意だけが満ちていく。
魔王はゆっくりと立ち上がった。
その瞬間――
世界が一段深く沈むような圧が走る。
ここから先は、“ただの確認”では済まない。




