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イツモノコト

 王都アストレアの朝は、少しだけ騒がしくなっていた。


「見たか?あの犬みたいなの。」


「犬じゃない、フェンリルだろ……」


「いやでも小さくないか?」


「……あの双子の連れだぞ、考えるだけ無駄だ。」


 王都の住民たちは、早くも“日常の異常”に順応し始めていた。


 ギルド前。


 彩乃、百合、そしてリラ・ルラ・ライが並んでいる。


「おはようございます。」


 受付嬢はもう驚かない顔で出迎えた。


「おはようございます。今日は何件ですか?」


「依頼?」


 彩乃が首を傾げる。


「今日は……特に決めてない。」


「じゃあ適当に強そうなので。」


 百合がさらっと言う。


 受付嬢は一瞬だけ遠い目をした。


「では……Sランク未解決案件がありますが。」


「いいね。」


 彩乃の目が光る。


「それにしよう。」


「即決しないでください!」


 ギルドマスターが奥から出てきた。


「お前たち、本当に新人の感覚か?」


「もうCランクじゃないですか。」


「ランクの問題じゃない。」


 ギルドマスターは頭を押さえる。


「その案件は、王都北東の古代遺跡だ。」


「魔力暴走が確認されている。」


「中に入った調査隊が戻っていない。」


 百合が少し真剣になる。


「危ないやつですね。」


「そうだ。」


 ギルドマスターが頷く。


 だが次の瞬間。


「面白そう。」


 彩乃の一言で決定した。


---


 遺跡前。


 崩れかけた石造りの門。


 空気は重く、魔力が淀んでいる。


「ここか。」


 ライが小さく唸る。


「グルル……。」


「嫌な感じ?」


 百合が尋ねると、ライは頷くように目を細めた。


 リラとルラも警戒している。


「キュイっ……」


「キュルルっ……」


「じゃあ本気で行こうか。」


 彩乃が聖剣を抜く。


 百合も聖杖を構える。


 二人は同時に一歩踏み出した。


---


 遺跡内部。


 壁には古代文字。


 床には魔法陣が走っている。


 奥へ進むほど、空気が重くなる。


 そして。


「ギギギギ……」


 黒い影が現れた。


 人型だが、形が歪んでいる。


 魔力に侵食された“何か”。


「魔物化した遺跡守護体か。」


 百合が呟く。


 同時に三体出現。


「じゃあ、分担ね。」


 彩乃が言う。


「いいよ。」


 百合が頷く。


 ライが一歩前へ出る。


「グルル。」


 その瞬間、魔物の一体が動いた。


 しかし。


 ライが一瞬で距離を詰める。


 空間が歪むほどの速度。


「えっ。」


 彩乃が一瞬だけ驚く。


 次の瞬間。


 ドンッ!


 一体消滅。


「速っ……。」


 百合が目を丸くする。


 ルラとリラも負けじと動く。


「キュイっ!」


「キュルルっ!」


 空中を駆けるように魔物へ突進し、光を纏った体当たり。


 残りの二体が同時に崩れ落ちた。


 彩乃と百合はほぼ何もしていない。


「……終わった?」


「うん。」


 百合が笑う。


「ペット強くない?」


「家族だから。」


 彩乃は真顔で言う。


 百合はもう何も言わなかった。


---


 ギルドに戻ると、報告は一瞬で終わった。


「遺跡の魔物、全滅確認。」


 受付嬢は淡々と書類を処理する。


「……はい、いつも通りですね。」


 ギルドマスターは遠い目をしていた。


「もう何も驚けん。」


「神獣が前衛とか聞いたことないぞ……」


 その時。


 ライがギルド内を歩き回り、冒険者たちが一斉に道を開けた。


「うわっ、フェンリル!」


「小さいのに威圧感やばい……」


 ライはそのまま彩乃の隣へ戻る。


「グル。」


 彩乃は撫でる。


「いい子。」


 百合がため息をつく。


「このパーティ、もうバランスとかないね。」


「十分でしょ。」


 彩乃は即答した。


---


 その夜。


 王城の中庭。


 リラ、ルラ、ライが並ぶ。


「キュイっ!」


「キュルルっ!」


「グルル。」


 百合は空を見上げる。


「これ以上増えたらどうするの?」


 彩乃は少し考えて。


「増えてから考える。」


 即答だった。


 王都の夜は、今日も平和だった。


 ただし、“基準だけ”は確実に壊れ続けている。

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