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骨がたり 1

進水式が終わり、もう昼下がりだ。


あのご馳走――エンボロメリの一頭煮は、もう、人間サイズの骨のかたまりだ。

身離れがよかったことや、細い手足は人々が誰も手を付けなかったこともあり、全身の9割以上が骨として残った。そんな骨の一切は、タグボートに置かれた冷凍庫に収めることで、異論はなかった。


船に担ぎ込む段でもう、私たち2人が揃って、他の人の目がない船内にきて、盛り上がらないわけがない。

アリアとはもう、めちゃくちゃ盛り上がった。

結局、骨を納めるだけだというのに、2時間くらい話し込んでしまったのだ。

その一部始終を、ここに書き記しておこうではないか。


挿絵(By みてみん)


「食事中も気になってたんだけど、この背骨、どうなってるわけ?」

私は口を開いた。

そう。

あの、あたかも椎体が二重になっているような、あれだ。

背骨をなんとなく積み重なった円盤のようにとらえていると、うっかり目が滑ってしまうかもしれない。

しかし、”知っている”人からすると奇妙極まりない。

通常なら1パーツになっている筈の椎骨が、3つに分離している。

椎間板が骨化している・・・?と一瞬思ったが、そうでもなさそうだ。


「そこ、ポイント!これこそエンボロメリの特徴よ!」

アリアはぐいっと顔を乗り出して、手に取った背骨を一つ一つ組み合わせていく。

ほとんど同じ直径、同じ形に見えるが、よくよく見ると、その厚さには大小があって、厚いもの、薄いもの、と交互になっている。そして、肋骨がつく突起がついているほうが片方にあるので、よく気を付ければどちらがどちらの骨なのか、正確に見分けることができた。

――みたことがある。

そう、私は思った。

しかし、それは勿論、エンボロメリではなく――私は時空探検をするのは初めてなのだ――、現代の、北米においてであった。

ああ、あの北米探索。

大学のサークルで、釣り好きの友人に誘われて行った、あれ。

私の狙いはスゲにつくネクイハムシ類(Donaciinae)の探索であった。

ちょうど春から初夏でちょうどいいのと、スゲ類の多様性が高く、かつ氷河期の南方レフュージアの大きな北米において、各種のネクイハムシ類が共進化していないかが気になったのであった。

スゲは湿地の水辺に生えて、初夏に花が咲く。

花が咲いたというのが重要で、この時期にだけ、どのスゲがどの種なのかDNAを調べずとも見当がつく。肉眼で見当がつく、というのが重要だ。なぜなら、DNA検査にはどうしても時間も金もかかるので、ぱっぱと、どのスゲについているのがどのハムシなのか、ということをリアルタイムに把握するには、同定眼と同定形質が揃うその時期しかないのである。

ちょうど、彼が同じく初夏を繁殖期とするアミア釣りに行く、というので、カップル割で安くチケットを買ったのである。むろん道中、飛行機から宿からベッドから車までずっと2人きりだったが、フィールドで何か起こることはなかった、生物系サークルとはそういうものだ。

人は所詮おまけである。かつて世界の覇権を握っていたというアメリカがどういう場所なのか、そういう社会勉強も、すっかりせずに帰ってしまった、と今なら反省する。

――さて。

結局外来魚のコイばかり釣れてしまったのだが、結局最後の最後になって一匹だけ釣り上げて、飼育用に持ち帰ったのだった。

鰭は鮮やかな蛍光グリーンで、思ったよりもはるかに美しい魚だと思った。

背びれを波打たせて、タチウオみたいに推進するものだからさすがに驚く。

そして、持ち帰ってから飼育前の検診としてCTスキャンにかけて、びっくりしたのだ。

「まるで、アミアのディプロスポンディルDiplospondyl型の椎体みたいだけど」

*双椎体型とも。


挿絵(By みてみん)


(アミア成魚の尾椎と胚の尾椎)


「アミア?」

アリアは首を傾げた。

「うーん、白亜紀でたくさん食べたけど…そんな椎体だったかしら」

――いやいや。

「…いや、ボクが見たのは確実に、2つあったよ。ちょうどこんな風に」

「そう?」

アリアはやはり、釈然としない。

「白亜紀のアミアとは違うんじゃないの」

「魚類には権威がいるって油断してたわ。ふつうの食材過ぎて、ちゃんと見てなかった…」

と、すっかり青ざめている。

「ごめんごめん。で、びっくりしてボクも調べてみたんだけどさ、椎体の間に骨化が進み、神経弓を持たない”椎体もどき”ができるんだって」

「ってことは、椎体自体は先にできる、ってことよね?」

「そういうことっぽい。だから白亜紀のアミアがふつうの椎体でも、そんなに変じゃないんじゃないかな…って。」


***

ところで、これに関しては帰ってから調べてみたため、ここに付記しておく。

どうもアリアが食べていた白亜紀のアミアというのは、シナミア科に属する複数種であるらしい。

形としては現在のアミアそっくりだが、背びれの前後長が短いせいで、すこしアマゾンのカラシン目魚類、タライーラにも似ている。実際にどう動くのかについてもアリアに聞いてみたが、やはり似たような印象だった。分厚く堆積した浅い落ち葉の間に潜み、獲物に突進するのだという。

さて、シナミア科はアミア科の姉妹群といってもいいくらい近いグループだが、その違いはまさに、この椎体にある。ディプロスポンディル型の椎体はアミア科の共通派生形質であるらしい。

***



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