エンボロメリ(2)
入れ替わり立ち替わり、肉が盛り付けられていった。
私の分の肉はもう、皿の上に溢れんばかり、500gはありそうなくらい。
プルプルと輝く分厚い皮は厚さにして5ミリ以上はあるし、そこから溢れ出す黄金色の肉汁は、いかにも食欲をそそらせた。
しかし、こんなにはたして、食べ切れるだろうか。
さすがに巨大とはいえ村人全員の腹を満たすには心許ない。
肺魚やコロステウス類の四足動物が、よりたくさん供されていた。
それらのほうが売れ行きが良いように見えるあたりからして、そして私のところにエンボロメリの肉が500gも山積みされてしまったところからするに、ここの食べ物の中では、、、そこまで美味しいものではないのかもしれない、と不安になった。
が、もはや食べ比べて、確かめる胃の余裕はなさそうだ。
戸惑っていると、一人の若い男が現れた。
私たちと同じくらいの、山盛りの肉をもっているあたり、何か今日の式典か何かの重役だったりするのだろうか、と思う。いや、そんなことは微塵も関係ないのかもしれないが。
すると、男は語り始めた。
「ちょうど昨日、延縄を回収し切った頃だった。」
――なるほど。これを仕留めた方だった、というわけか。
「ちょうど獲物が荒らされて、食いちぎられたりしていた。その時だ、こいつが潮を吹いてるところがみえたのさ。」
…潮を吹く?クジラみたいに?
「その、潮を吹くっていうのはどういうことなんです?」
と私が聞くと、男はそのワニに似た生き物の、後頭部のあたりを指さした。
「ここから、プシャーッとな」
鼻の穴は、頭の先端にあるはずだが。
「そんでだ、ちょうど、Varagarrotteを持ってなかったもんだから、仕方なく銛を持って追いかけたわけよ。泡がしっかり見えたもんだから、もう間違えねぇ。俺はむんずと、銛を、そいつめがけて撃ち込んだ。」
…銛を持つ方が、よほど普通と思うのだけど。
ところで、Varagarrotteというのはここでよく使われる猟具で、ループさせたコシの強い紐に、弓矢ないし弩が取り付けてあるという珍奇な猟具である。獲物の頭からループさせた紐を通すと、弓矢の要領で筒を射出しループを締め付け、ホールドする。
そこから引っ張ると、獲物が暴れれば暴れるほどループが締まって動けなくなる。
筒に収まっている部分の紐には、逆棘がつけてあるためだ。
この漁具は、だいぶ変だ。
銛でつく方がはるかに簡単なはずだというのに、わざわざ縛る。
石も入手が難しく、金属はすぐ錆びる高酸素の巨大泥炭林において、縛り上げるというのは確かに合理的かもしれない。
それで納得していた。
しかし、だ。
それだけだったら――鋭くとがらせた木でもよくないか?といわれると、そんな気がしなくもない。
「そっからが大変だった、全然疲れねぇ。銛の柄が折れたときにゃ、どうなるかと思った。先に縄をつけてなきゃあ、持ってかれてたとこだな。船ごと曳かせて、ようやくばてた頃に引っ張りあげてきたんだが…もうでかいのなんの、船が壊れるかって。」
そして、彼は言葉を切った。
「明日旅人さんが来ることになってなきゃ、俺はとうに諦めてたぜ。」
…来る?という言葉に、また違和感があった。
なにせ、ずっとここにいたではないか。
そして、彼は一口目を勧めた。
ふわっとした白身魚のような味わいで、噛み締めるほどに旨みが滲んだ。
私の不安とは、裏腹に。
「…とても美味しい、です」
「だろ?」
そう言って、男は何度もうなずくのだった。
そうしているうち、ようやく骨が見えた――
肋骨が一本とれて、胸椎がむき出しになっていた。
それを見たとたん――
「どうなってるんだ、これ??」
そうつぶやかざるを、えなかった。
それは、ふつうの現生脊椎動物の骨を見慣れた私にとって、衝撃を与えるに十分なものであった。
そう、椎体が、棘突起あたり2個…つまり、普通の背骨の、倍あるように見えるのである。




