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肉鰭類(2)ラブドデルマ (淡水シーラカンス)

ライトに赤い遮光板をはめた。

ぼうっと赤くにじむ視界に、夜目をならしていく。

すると、ひとつひとつ、動くものが見えてくる。


足元をちょろちょろと這い回ってはピンピン撥ねるDasyleptusや、ノソノソと歩いては止まってを繰り返すローチオイドに、のそのそとリズミカルに足を繰り出すワレイタムシ。


水の中には、優雅に舞うようにパラエオカリスPalaeocarisとおぼしき厚エビ類が浮くように泳いでいた。

泳ぐことができる、といってもずっと泳ぎ続けられるわけではなく、見ているとゆるやかに弧を描いて、艀の岸壁に戻っていった。

そこを覗くと、立派な前脚をもつアカントテルソンが、その腕を前に突き出しながら突進するように、底すれすれを滑走していくのが何匹も見えた。

その動きはどうにも、テナガエビの幼体を思わせる。そしてパラエオカリスがそれに遭遇するや否や、鈍くバックするように飛び跳ねて、また泳ぎだすのである。

その間を、のそりのそりとあのトゲトゲカブトガニ、ユープロプスが歩いていくのが見えた。


「あっ、シーラカンス、ほらほら」

アリアはタモ網を片手に持ったまま、すっかり先まで歩いていた。

これでは、少なくとも私が大物を見つけられる保証はまるでないだろう。


歩いて行ってみると、ちょうどオヤニラミくらいの大きさの魚が、あたかもオヤニラミかのように杭のすぐ近くで鰭を優雅に波打たせながら静止していた。

「シーラカンス…だよね」

その姿があまりにもオヤニラミでしかなかったもので、ついつい聞き返してしまう。


「そりゃ、見てのお楽しみ」

そっとタモ網を入れると、それは殆ど逃げるそぶりすらなかった。

呆気ないほど簡単にネットイン。

――そういえば、この村に、こんな目の細かいたも網はない。

というより、細かい布地を作れていない。

(*理由は石炭紀の植物に細かい繊維をとれるものが皆無だからだ。)

だから小魚にとって、たも網がおそろしいものだという感覚自体がないのかもしれない。


あがってきたのは、10センチないくらいの小魚だった。

体には茶色い縞模様が幾つもあって、オレンジ色や白のぶち模様がぼんやりとそこに浮かんでいる。胸鰭や背びれをぐねぐねと動かす姿はたしかに、現在の魚からするとやや変かもしれない――が、生き物に造詣が深い方でなければ、川でこれがとれたとしても、ちょっと変わったケツギョかブラックバスかなにかだと思うだろう。


「ほらほら、記念撮影!初の淡水シーラカンスでしょ?」

アリアがカメラを構えている。

しかし、違和感は触ったとたんに訪れた。

ものすごく、ザラザラなのだ。

網に吸い付いたかのようにざらつきが引っかかる。

そして、ブルブルと鰭を震わせながら、掴んだ途端に胸鰭と腹びれと背びれが、捕まったカメの手足のように、じたばたと振り回された!

「ほんとにシーラカンスだ、これ!」

するとアリアが、ふふーん、と胸を張る。

「やっぱり捕まえて、触ってみないと」


――実をいうと、磯での調査でシーラカンスは既に捕まえていたのだが、ざらついたハタみたいだな、という感想だった。やはりこれが川にいる、というのがおかしいし、あまりにも見慣れた淡水魚然としたその姿は、私にとってあまりに新鮮だった。

あるいは、二人で採集しているからか。


「こいつ、歩くのかな」

鱗木の板でできた艀の上に置くと、小さなシーラカンスは右へ、左へと体を倒しながら、艀の上を這っていく。キノボリウオそっくりな動きだった。小さくて体が硬いこともあって、よく動く。キノボリウオーーそういえば、海で見たシーラカンスも、海面に顔を出して息継ぎしていたっけ。ラビリンス器官と肺――両者はあまりにも異なるけれど、つい、つながるものがあった。

むろん、海面を忘れ深海に隠遁する現生シーラカンスーーラティメリアと呼ぶべきだ――においては、肺など退化してしまって脂肪の詰まった痕跡器官になっている。

大人の胸腺みたいなもんだ。


「そっちは見慣れてるんでしょ?シーラカンス」

「そりゃもう。なんていうか――ふつうの魚?」

アリアはあっけらかんという。

「だよね」

「釣ってよし食べてよし、中生代ならたいていいるし。」

「あー、アクセルロディクティスとか?」

「そうそう、大きいのだと。ラティメリアくらい大きくなるのって、案外そんなにいないのよ。ふつう、このくらい」

アリアはその大きな手の人差し指と親指をピンと伸ばした。

――だいたい、岸壁で釣れるメバルくらいかな。


「で、これなんだろう。ラブドデルマ?」

「うーん…コエラカントゥスかもって思ってるのよね、これ」

「石炭紀で?」

「うーん、でも自信ない!ペルム紀で見たやつに似てるって、それだけ?」

そう、アリアは笑った。


補足。

標本を検討したらバッチリ、ラブドデルマであった。フィールドではそう言うことはよくある。

ただし、以前に採集されていた個体とは別種であるらしい。

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