考証とコラム 「シギラリア(フウインボク)の葉で籠を編もう!」
作者です。
シギラリア Sigillariaが登場しました。
とはいっても、「葉だけ」ですが…。
さて、シギラリアの葉(シギラリオフィルム Sigillariophyllum)は、化石として比較的よく知られたものです。ただ、ほんとうに葉だけでほかのリンボク類と区別できるのかといわれるとやや微妙なところですので、実はレピドデンドロンの幼株の葉も混じっている、というのもありえるかもしれませんね。
(古典的には、ですが、断面の維管束の入り方がやや異なっていて、2脈様に見える、とはいうのですが…しかしレピドデンドロンの葉もしばしば2脈様に見えるところがあります。)
さて、こんな話をなぜまずしたのかというと、一部のリンボク類の葉は異常なまでに細長いという話をしたかったからです。たとえばLepidodendron longifoliumとして知られるものは幼体のリンボク類をあらわしていますが、葉の長さが50センチもあります。成長したリンボク類の葉は先端に向けて幹が先細るとともに短くなるのですが、幼株では非常に長い葉をつけていたと思われます。
シギラリアの場合上に伸びても幹はあまり先細らないので、終生長大な葉を付け続けたのでしょう。
さて、長さ数十センチはあたりまえ、しばしば1mにも達するリンボク類の若木の葉ですが、その幅は1㎝未満しかありません。これだけの長さの葉を維持するには、かなりの剛性が必要です。
しかも。リンボク類は小葉植物なのです。
小葉植物の特徴として、葉脈が1本しかないことがあげられます。(ゆえに”小”葉なのです)
これが長さ1mに達する縦横比1:100以上のものになるためには、維管束が極端に頑丈かつしなやかなものである必要が出てくるでしょう。なにせ一か所折れたらアウトだからです。
現生のミズニラ類には巨大なものがありますが、(知る限り最大種はパンタナルクイルワートとして流通している未同定種で、葉の長さの寸法が概ね、リンボク類の葉と同じ程度(1m前後、幅5㎜)になります。)これらは水にたなびいているからこそこの長さになれるというものです。
水にたなびいていないリンボク類が空中でこの長大な葉を展開するには、特殊な構造が必要です。
これらの葉の断面が、じつはH鋼のようなX字状であったとする指摘があります。ただそうした形状での工夫でも足りず、葉自体がかなりの強度を持っていたはずだろうと推測されます。
現生のダイオウマツやススキノキが近い大きさのもの、しかしこれら以上に条件は苛烈です。なにせ維管束に替えはきかないし、葉は円柱状ではなく比較的平たいので…。H状の構造も相まって、雨風が当たったとき、この葉はおそらくよじれる方向に衝撃を逃がしたものと考えます。
さて、これは工芸素材としてかなり便利な素材と言えるでしょう。
この半分のスケール感である(長さ20~50cm、幅1~2㎜)のダイオウマツの葉ですら、籠編みをはじめとして非常に重宝されてきました。これは細すぎるので束ねてから使う必要がありますが、円柱状のツルツルです。対して長さが50センチを超えてくる、しかも太さまである、さらにH状の断面をもち継ぎ合わせたときに滑りにくいリンボク類の幼葉は、まさに籠編み材料に最適な素材と言っていいでしょう。籠編みだけでなくゴザやマットなどにも用途は広がります。
なお、シギラリアの葉と全く同じスケール感でほぼ同じ寸法の葉を展開しているのが、ススキノキです。ただしススキノキの葉は分厚い菱形の断面で両縁が鋭く尖った極めて固いもので、オーストラリア先住民はこの葉を、なんと肉を切るために使うのだとか…H鋼状ないし両縁が丸まったリンボク類の葉は、より軽く安全な素材だったはずです。
このように、石炭紀の植物の葉はかなり理想的な編み物材料の可能性があります。
では、繊維はどうでしょうか???(つづく)
Rex, G. (1983). The compression state of preservation of Carboniferous lepidodendrid leaves. Review of Palaeobotany and Palynology, 39(1-2), 65-85.




